著者
粟生 修司 大村 実 大嶋 雄治 長谷川 健 河合 啓介 片渕 俊彦
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1)ビスフェノールAやトリブチルスズの周産期や胎生期曝露の行動の性分化に及ぼす影響を調べた。探索行動の性差は周産期間曝露と同様に消失した。強制水泳試験では、ストレス対処行動の指標であるstruggling時間の性差(雌>雄)が、出産前1週間曝露で消失した。うつ反応の指標であるimmobility時間は、対照群および曝露群ともに性差はなかったが、ビスフェノールA曝露群で有意に延長した。本研究により、内分泌撹乱物質が、探索行動、ストレス対処行動、青斑核、扁桃体内側核領域の喚覚応答の性差を消失させることが明らかになった。さらに、ビスフェノールAがうつおよび不安を増強し、捕食者のニオイに対する警戒応答を増強することを見い出した。2)みどりの香りのストレス応答に対する作用を調べた。捕食者のニオイに曝露した時には、みどりの香りは高架十字迷路試験において総移動距離、平均移動速度を増加させ、活動性を上げた。心理的ストレスに関しては、ストレスに曝露した翌日の飲水量をみどりの香りが著しく減らしていた。高架プラス迷路試験による不安レベルや活動性には差はなかった。身体的ストレスに関しては、ストレスに曝露した翌日の摂食量および飲水量は減少していた。さらに翌々日の摂食量および飲水量も減少していた。高架プラス迷路試験による不安レベルや活動性には差はなかった。以上のことからみどりの香りは、活動性を上昇すること、摂食、飲水量をストレス強度に依存して抑制することがわかった。3)内界環境に応じて変動する摂食調節物質であるオレキシンA、レプチン、2-buten-4-olideが摂食行動だけでなく、学習記憶機能を調節する作用を示すことを水迷路試験や海馬長期増強試験で明らかにした。

2 0 0 0 OA 免疫機能と脳

著者
片渕 俊彦
出版者
一般社団法人 日本生体医工学会
雑誌
BME (ISSN:09137556)
巻号頁・発行日
vol.14, no.11, pp.65-72, 2000-11-10 (Released:2011-09-21)
参考文献数
26
著者
堀 哲郎 有村 章 ECKHART Simo 武 幸子 高木 厚司 片渕 俊彦 粟生 修司 SIMON Eckhart RIEDEL Walte SIMON Eckhar
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本年度は2年計画の2年目に当たり、以下のような成果を得た。1.侵害環境適応反応発現を媒介する神経活性物質の作用機序の解明in vivoマイクロダイアリシス法により測定した無麻酔ラット前頭前野のノルアドレナリン(NA)放出は、拘束ストレスによって亢進し、この反応は、corticotropin-releasing factor(CRF)の脳室内前投与によって著明に減弱した。また、CRFの脳室内投与で、前頭前野のNA放出は増加した。従って、拘束ストレスによって脳内のCRF系が活性化され、その結果前頭前野でのNA放出が増加すると考えられた。2.侵害環境適応反応発現における脳サイトカインの作用機序の解明(1) 脳スライス標本におけるIL-1βの迷走神経背側運動核(DMV)ニューロンに対する作用:IL-1βはDMVニューロン幕に直接作用し、プロスタグランディン(PG)系物質を介して抑制性に作用することを示した。IL-1βによる胃酸分泌抑制機序の一つと考えられる。(2) ラット侵害受容行動に対するIL-6の作用:ラットの脳室内にIL-6を注入すると、用量依存性にホットプレートテストによる痛覚過敏が観察された。この反応は、α-MSHの前投与で阻害され、また、脳内PG系物質の産生を介していることが明らかになった。(3) IFNαによる免疫抑制反応の脳内作用部位の同定:IFNαを視床下部の各部位に微量注入し、脾臓ナチュラルキラー(NK)細胞活性を測定したところ、内側視索前野(MPO)注入時のみでNK活性の低下が観察された。3.侵害環境適応反応発現におけるサイトカインの媒介物質機構としてのアラキドン酸代謝系の関与の解明PGE2をラットMPOに微量注入すると、脾臓NK細胞活性が有意に抑制された。ラット脾臓交感神経の活動は、PGE2のEP1受容体アゴニストの脳室内投与でPGE2と同様亢進し、EP2アゴニストでは変化しなかった。さらに、PGE2による反応が、EP1アンタゴニストでブロックされたことから、PGE2による脾臓交感神経活動の亢進は、脳内EP1レセプターを介していると考えられた。4.肝門脈血液中のエンドトキシン(LPS)濃度の測定(1) 実験を始める前に、今回使用した高感度LPS測定法の回収率を確認した。既知の標準LPS溶液を正常血漿中に加え、検体を氷冷していた場合、その回収率は90%以上であったが、37度で10分間インキュベーションしてやると血漿中の添加した標準LPS量は、約1/3に低下してしまうことがわかった。血漿中には補体などのLPSを非活化する種々の因子の存在が報告されており、検体の温度管理がたいへん重要であることが明らかとなった。(2) 肝門脈血液の安静時LPS濃度は、一般静脈血のそれと比較して約30%高値を示した。拘束ストレス負荷により肝門脈中のLPSレベルは拘束負荷30分後に基礎値の約3倍まで上昇したが、1時間の拘束を加えているのに関わらず、拘束開始1時間後には下がり始め、2時間後(拘束終了1時間後)にはほぼ基礎値に戻った。5.肝クッパー(K)細胞のIL-6産生に及ぼすノルアドレナリン(NA)の作用(1) K細胞の一次培養系を用いて、NAが、IL-6の産生に及ぼす効果を観察した。その結果、NAの濃度(10nM-100μM)に依存して、IL-6の産生量が増加した。しかし、その効果は最大でも基礎分泌量の約30%増加に過ぎなかった(NA,10μM)。(2) K細胞のLPS刺激によるIL-6の産生能は、用量依存的(1ng/ml-1μg/ml)に著明に増加した(約10倍)。さらに、NAの同時投与はこのLPSの効果を約30%増強した。(3) 上記の結果より、拘束ストレス時の末梢IL-6増加反応では、腸管由来のLPSが肝でのIL-6産生の直接因子となり、交感神経の終末より遊離されるNAが増強因子となっている可能性が示唆された。