著者
渡辺 進 石田 弘 大槻 桂右
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0497, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】慢性腰痛症患者では、疼痛や疼痛に対する不安のために身体活動量が低下し、体力も低下するという報告がみられる。体力低下は患者の社会生活への復帰にとって大きな問題となるので、リハビリテーションの視点からも関心が高い。それに対して、腰痛症患者の体力維持のための有酸素運動についての報告が増えてきた。しかしながら、有酸素運動は腰部の骨・関節や筋への過度の負担をもたらし腰痛の悪化や再発のリスクもともなう。にもかかわらず、有酸素運動時における体幹の筋活動に関する報告は少ない。本研究の目的は、有酸素運動によく使用される自転車エルゴメーター駆動時および歩行時の体幹の筋活動に関する基礎的データを提供することである。【対象と方法】対象は腰痛症の病歴のない健康な男性11名(平均年齢21.7±2.5歳)であった。全員に実験について十分な説明を行い、同意を得た後に実施した。表面電極を3cmの間隔で右腹直筋、右外腹斜筋、右腰部(L3)脊柱起立筋に貼付した。測定と解析にはNORAXON社製筋電計を用いた。始めに最大随意収縮(MVC)を行わせ筋活動の正規化のための基準とした。次に自由歩行を行わせ5歩分を記録した。最後に自転車エルゴメーター(キャトアイ社製)を駆動させた。サドル高は下死点で膝屈曲30度となるように設定した。体幹前傾角度は約85度とした。25Wから開始し順に50W、75W、100Wと負荷を30秒ずつ漸増し、その間の筋活動を記録した。得られたデータは整流し、平均活動電位をMVCで正規化した(%MVC)。歩行時とエルゴメーター各負荷時の%MVCを一元配置分散分析で統計処理した(p<0.05)。【結果】腹直筋について、歩行時5.2±4.2%、エルゴメーター負荷25W時5.7±5.3%、50W時5.7±4.9%、75W時6.2±5.7%、100W時6.5±5.6%であった。いずれの間にも有意差はなかった。外腹斜筋について、歩行時33.3±19.0%、25W時27.8±14.5%、50W時28.9±15.0%、75W時30.3±14.2%、100W時32.7±16.0%であった。いずれの間にも有意差はなかった。脊柱起立筋について、歩行時12.1±3.6%、25W時7.3±2.6%、50W時8.8±3.2%、75W時10.5±4.3%、100W時11.7±4.7%であった。歩行時と25W時、歩行時と50W時および25W時と100W時の間に有意差がみられた。【考察】エルゴメーター駆動時の腹直筋活動は歩行時と大差なく約6%MVCであった。腹直筋は腹部前面の筋のため、両下肢の交互運動の影響が少ないものと思われる。外腹斜筋も各運動の比較では同様の傾向であったが、約30%MVCと比較的高値を示した。外腹斜筋は腹部側面の筋のため、両下肢の交互運動時の体幹固定のために比較的高い活動を求められるためと考えられる。脊柱起立筋は歩行時と比較してエルゴメーター駆動時には低値を示し、負荷の増加に応じて漸増した。両下肢の交互運動時に脊柱を後方から安定させるために漸増したものと思われる。
著者
鈴木 哲 小田 佳奈枝 高木 由季 大槻 桂右 渡邉 進
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.25-30, 2011-04-30 (Released:2020-06-25)
参考文献数
14

【目的】嚥下時に前腕を置く机の高さが舌骨上筋群の筋活動に与える影響を検討し,嚥下時の姿勢調節に関する基礎的な情報を得ることを目的とした.【方法】健常者10 名を対象に,机無し条件(両上肢下垂位)と,前腕を机上に置いた机有り条件A(差尺が座高の3 分の1 の高さ),机有り条件B(座高の3 分の1 に15 cm 加えた高さ)の3 条件で,全粥(5 g)を嚥下させ,その際の舌骨上筋群の表面筋電図,主観的飲みにくさ,肩甲帯挙上角度を測定した.舌骨上筋群の表面筋電図から,嚥下時の筋活動時間,筋活動積分値,嚥下開始から最大筋活動までの時間を算出した.各机有り条件の各評価・測定項目は,机無し条件を基準に正規化し,机無し条件からの変化率(% 筋活動時間,% 筋活動積分値,% 最大筋活動までの時間,% 主観的飲みにくさ)を算出した.机無し条件と2 種類の高さの机有り条件間における各評価・測定項目の比較,2 種類の高さの机有り条件間における肩甲帯挙上角度の比較,および各評価・測定項目の机無し条件からの変化率の比較には,Wilcoxon の符号付き順位和検定を使用し検討した.【結果】机無し条件と比べ,机有り条件A では,舌骨上筋群の筋活動時間,最大筋活動までの時間は有意に短く,筋活動積分値,主観的飲みにくさは有意に低かったが,机有り条件B では有意な差はみられなかった.机有り条件A における肩甲帯挙上角度は,机有り条件B と比べ,有意に高かった.机有り条件Aにおける%筋活動時間,%最大筋活動までの時間,%筋活動積分値,%主観的飲みにくさは,机有り条件B に比べ,有意に低かった.【結論】本研究結果から,嚥下時に前腕を置く机の高さは,舌骨上筋群の筋活動に影響を与えることが示唆された.頸部や体幹の姿勢調節に加えて,前腕を置く机の高さを適切に調節することは,嚥下時の姿勢調節のひとつとして有用となる可能性があると考えられた.
著者
大槻 桂右
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.813-816, 2013

〔目的〕肩関節拘縮を伴う高齢患者を対象に,上腕骨解剖頸軸回旋humeral neck axis rotation; HNARを用いた関節可動域運動(range of motion exercise; ROM-ex)の有用性と適応について検討した.〔対象〕平均年齢は86.6±7.2歳の女性20名を対象とした.〔方法〕従来のROM-exとHNARを用いたROM-exを,それぞれ約20回実施し,屈曲,外転,内転,外旋(第1肢位)角度を測定した.〔結果〕従来のROM-exでは,有意な増加が認められなかったが,HNARを用いたROM-exでは,全測定可動域において,有意な増加が認められた.〔結語〕HNARを用いたROM-exは不動による可動域制限を改善するための一手段として,有用性が示唆された.<br>
著者
大槻 桂右
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.779-782, 2013 (Released:2014-01-21)
参考文献数
14

〔目的〕非特異的急性腰痛症と診断された1症例を対象に,大腿筋膜張筋(tensor fasciae latae muscle; TFLM)へのダイレクト・ストレッチング(direct stretchig; DS)を実施し,即時的効果を検証し,4週間継続フォローすることである.〔対象〕症例は非特異的急性腰痛症と診断された患者(60歳,女性)とした. 〔方法〕研究デザインはシングルケースで,腰痛緩和肢位を実施するA期とTFLMに対してDSを実施するB期で構成されるAB型とした.visual analog scale (VAS),指床間距離 (finger floor distance; FFD),下位腰椎後弯域(posterior lumbar flexibility; PLF)を評価指標とし,二項検定を用いて分析した.〔結果〕B期のVAS,FFD,PLFはA期と比較して,有意な改善を示した.また腰痛の訴えは2週間後になくなった.〔結語〕TFLMに対するDSが急性腰非特異的腰痛症に対して即時的効果を発揮することが示唆された.
著者
大槻 桂右 鈴木 哲 河野 英美 渡辺 進
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.793-796, 2009 (Released:2010-01-28)
参考文献数
13

〔目的〕簡便な方法で無酸素性作業閾値(Anaerobic threshold; AT)を測定することが求められている。本研究の第一の目的は,心拍数二乗(HR)2法によってATの検出を試み,基礎的データを提供することとした。さらに,第二の目的はV-slope法ならびに二重積屈曲点(Double Product Break Point; DPBP)法を用いて検出されたATを比較し,(HR)2法の有用性を検討した。〔対象〕健常成人男性10名(23.8±2.5歳)を対象とした。〔方法〕自転車エルゴメーター上にて,5分間の安静座位の後,0 wattでのウォーミングアップを3分間行い,続いて30 wattsから開始した。運動負荷は2分ごとに10 wattずつ負荷を増加させる多段階運動負荷試験を用いた。〔結果〕(HR)2法,DPBP法,V-slope法によるAT検出時のVO2は,それぞれ有意差を認めなかった。また,AT検出時のwattsもそれぞれ有意差を認めなかった。〔結論〕(HR)2法はAT検出に関わる心拍数ならびに負荷量を簡便に知ることが可能な方法の一つであると考えられた。