著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.102-111, 2023-02-15 (Released:2023-02-15)
参考文献数
17

本症例は,読み書きに困難を認める小学3年の学習障害児であり,特に漢字の書きに対して拒否的だった.リハビリテーションアプローチのうち,Information and Communication Technology(ICT)を活用した環境改善的アプローチを優先した支援を通して,書字への拒否感が改善し,認知特性に合わせた適応的アプローチによる漢字の書字学習にも取り組めるようになった.また約2年間の継続した支援により,パソコンを使用したローマ字入力で,自分自身の特徴と求めたい支援についてまとめることができるようになった.しかし,学校側と具体的な連携には至らず,医療と教育との連携に課題が残った.
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.261-272, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)
参考文献数
79

本研究は,漢字書字の習得が困難な学習障害児における国内の研究動向を調査し,今後の課題を明らかにすることを目的にした.漢字書字の習得が困難な要因には視覚情報処理や聴覚情報処理を問題とする報告が多かったが,書字成績に認知スタイルや筆順の正確さが寄与した報告も見られた.また介入研究では,単一事例研究法を用いた研究は少なかった.今後は単一事例研究法を用い,認知スタイルだけでなく,書字運動や運動覚心像に着目した研究や,各児童の特性に適応した介入方法をフローチャート化し自主学習しやすいツールを開発していくことが求められる.併せて,Information and Communication Technology(ICT)を活用した支援の普及も重要である.
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.23-33, 2023-02-25 (Released:2023-02-25)
参考文献数
27

漢字の書字成績と視写の各工程に必要な能力,Reyの複雑図形(模写・3分後再生),漢字の読み成績の相関分析を行った。結果,漢字の書字成績と相関したのはReyの複雑図形(遅延再生)と漢字の読み成績だった。またロジスティック回帰分析の結果,漢字書字の障害の重症度には,Reyの複雑図形(遅延再生)のみが影響していた。そして運動覚に関する検査以外の視写の各工程に必要な能力は,Reyの複雑図形(遅延再生・3分後再生・模写)とそれぞれ相関しており,視写の工程に必要な能力は,図形を模写する能力,それを短期記憶する能力,遅延再生する能力に関係していた。
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.363-376, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
25

漢字書字の習得が困難な学習障害児4症例に対し,従来の学習方法である視写の工程に基づき,それぞれの工程に必要な能力の検査を実施した。症例ごとに問題のある工程はさまざまであったが,4症例に共通していた問題は,漢字の形態を構成要素に分解する工程であった。今回,視写の工程におけるそれぞれの問題点を補うため,認知処理様式,体性感覚の入力方法などに配慮した学習法(体性感覚法)を設定し,その効果を単一事例研究法で検証した。その結果,体性感覚法は学習障害児の漢字書字の学習に有効であった。また,症例の認知処理様式の傾向と漢字の画の提示方法が継次的か同時的かであることが,漢字書字の正答率に影響していることが示唆された。また,視覚性の記憶が低下している症例では,文字運動覚心像がより形成されやすい学習法において,空書を使用して漢字を想起する場合があることが確認された。
著者
大西 正二 小菅 英恵 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.34-45, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
26

漢字書字が困難な学習障害児61名において,見本の漢字を視写(見本を見て書き写す)するまでの6つの工程(①注視点の移行,②形の記憶,③画要素,④筆順,⑤書字運動,⑥視写結果)におけるつまずきの傾向について,10検査(13項目)の結果から階層的クラスター分析を行い,4群に分けられた。4群の集団的特徴を把握するため,Kruskal-Wallis検定を行った結果,第1クラスターは①注視点の移行,②形の記憶,⑤書字運動,第2クラスターは①注視点の移行,③画要素,第3クラスターは②形の記憶,③画要素,④筆順,⑤書字運動,第4クラスターは①注視点の移行の工程に問題がみられる群であることが示唆された。漢字書字が困難な児童の苦手な工程を補い,それぞれの特徴に合わせた学習支援が重要である。しかし,通常学級に存在することが多い学習障害児に対する視写の工程の詳細な評価が困難な学校現場においては,視写の工程のすべてを補う学習支援が必要だろう。