著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.102-111, 2023-02-15 (Released:2023-02-15)
参考文献数
17

本症例は,読み書きに困難を認める小学3年の学習障害児であり,特に漢字の書きに対して拒否的だった.リハビリテーションアプローチのうち,Information and Communication Technology(ICT)を活用した環境改善的アプローチを優先した支援を通して,書字への拒否感が改善し,認知特性に合わせた適応的アプローチによる漢字の書字学習にも取り組めるようになった.また約2年間の継続した支援により,パソコンを使用したローマ字入力で,自分自身の特徴と求めたい支援についてまとめることができるようになった.しかし,学校側と具体的な連携には至らず,医療と教育との連携に課題が残った.
著者
熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.97-106, 1999-11-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究では、算数障害という用語の内容や範囲について明らかにするために、主として米国における学習障害の法制度上の位置づけと教育的アプローチにおける算数障害のとらえ方、内外の学習障害研究の枠組みの中で論じられる算数障害のとらえ方、日本で実質上学習障害の診断に重要な国際的な医学的診断基準における算数障害のとらえ方について概観した。その結果、それぞれの視点によってこの用語が指し示す内容や範囲が不明確で多義的であることが明らかとなった。わが国においても、学習障害に関する制度上の位置づけが検討されているが、改めて算数障害という用語を明確に規定する必要があると考える。算数障害という用語の定義は、発達的視点を導入すること、計算障害のみではなくより広い概念としてとらえること、下位分類においては、認知障害の特徴に対応した指導へつながるような情報処理的観点を含めることという3点が重要であることが指摘された。
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.261-272, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)
参考文献数
79

本研究は,漢字書字の習得が困難な学習障害児における国内の研究動向を調査し,今後の課題を明らかにすることを目的にした.漢字書字の習得が困難な要因には視覚情報処理や聴覚情報処理を問題とする報告が多かったが,書字成績に認知スタイルや筆順の正確さが寄与した報告も見られた.また介入研究では,単一事例研究法を用いた研究は少なかった.今後は単一事例研究法を用い,認知スタイルだけでなく,書字運動や運動覚心像に着目した研究や,各児童の特性に適応した介入方法をフローチャート化し自主学習しやすいツールを開発していくことが求められる.併せて,Information and Communication Technology(ICT)を活用した支援の普及も重要である.
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.23-33, 2023-02-25 (Released:2023-02-25)
参考文献数
27

漢字の書字成績と視写の各工程に必要な能力,Reyの複雑図形(模写・3分後再生),漢字の読み成績の相関分析を行った。結果,漢字の書字成績と相関したのはReyの複雑図形(遅延再生)と漢字の読み成績だった。またロジスティック回帰分析の結果,漢字書字の障害の重症度には,Reyの複雑図形(遅延再生)のみが影響していた。そして運動覚に関する検査以外の視写の各工程に必要な能力は,Reyの複雑図形(遅延再生・3分後再生・模写)とそれぞれ相関しており,視写の工程に必要な能力は,図形を模写する能力,それを短期記憶する能力,遅延再生する能力に関係していた。
著者
大西 正二 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.363-376, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
25

漢字書字の習得が困難な学習障害児4症例に対し,従来の学習方法である視写の工程に基づき,それぞれの工程に必要な能力の検査を実施した。症例ごとに問題のある工程はさまざまであったが,4症例に共通していた問題は,漢字の形態を構成要素に分解する工程であった。今回,視写の工程におけるそれぞれの問題点を補うため,認知処理様式,体性感覚の入力方法などに配慮した学習法(体性感覚法)を設定し,その効果を単一事例研究法で検証した。その結果,体性感覚法は学習障害児の漢字書字の学習に有効であった。また,症例の認知処理様式の傾向と漢字の画の提示方法が継次的か同時的かであることが,漢字書字の正答率に影響していることが示唆された。また,視覚性の記憶が低下している症例では,文字運動覚心像がより形成されやすい学習法において,空書を使用して漢字を想起する場合があることが確認された。
著者
安藤 瑞穂 武田 俊信 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.290-300, 2018 (Released:2020-12-04)
参考文献数
41

本研究は成人期のADHD(以下,成人ADHD)にコーチングを適用した10事例の報告である。第1筆者によりコーチングが3から4カ月実施され,身辺管理を中心とした日常生活上の困難さ,気分や感情の一部に改善を示す結果が得られた。これらの結果は我が国の成人ADHDに対するコーチングの適用を支持する予備的な成果を示唆するものを考えられた。本研究では,事例のエピソードを交え,コーチングの実施による効果を考察した。
著者
佐藤 七瀬 新井 里依 角田 茉里恵 安藤 瑞穂 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.126-137, 2021 (Released:2021-12-23)
参考文献数
50

アーレンシンドロームとは視知覚障害のひとつで,主に文字の歪み,光に対する過敏性,頭痛等と身体症状が挙げられる。本研究では,アーレンシンドローム者の視機能の特性を検討し,年齢による視機能への影響を検討することを目的とした。アーレンシンドローム者66名に対し,本研究では簡易検査として色覚,近見視力,立体視の3つの視機能評価を行った。その結果,アーレンシンドローム者の47.0%が視機能のいずれかに問題が見られ,対象の40.0%が立体視,27.1%が近見視力,7.6%が色覚に問題を認めた。このことから,アーレンシンドローム者はピント調節や遠近感をつかむことができない人も多いことが示唆された。また,学齢期と成人で比較した結果,色覚に有意差がみられた。アーレンシンドローム者に視機能評価を実施することの有用性が示唆された。今後,有色レンズ装用時で視機能が改善される効果検証を行う必要がある。
著者
尾形 雅徳 熊谷 恵子
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.149-161, 2016-03-31 (Released:2017-07-20)
参考文献数
27

Scotopic Sensitivity Syndrome(以下、SSS)と言われる視知覚に関連した障害がある。 この障害は、文字や文章を読む際に歪みや不快感が生じるものである。その症状は有色フィルムやレンズを使用することで改善が見られる。欧米では、1980年に、そして日本では2006年にこの障害の研究が始まり様々な視点からSSSは検証されている。日本において、このSSSの研究を進めていくにあたって、どのような視点で研究を行っていくかの知見を得るため、本稿ではSSSのスクリーニング方法、有色フィルムの効果、SSSの有症率についての研究に焦点を当て、それぞれの課題を明らかとすることした。第一にスクリーニング方法においては、様々な方法で試みられ検証されたスクリーニング検査において、チェックリストでのスクリーニングが重要であることが明らかとなった。第二に有色フィルムの効果においては、読みに困難がある場合でも条件によってその効果は変わるということが明らかとなった。最後に有症率においては、欧米では20%から38%、日本では6%と推定されることが明らかとなった。
著者
熊谷 恵子
出版者
日本評論社
雑誌
こころの科学 (ISSN:09120734)
巻号頁・発行日
no.187, pp.46-52, 2016-05
著者
武田 瑞穂 佐藤 睦 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.288-299, 2023 (Released:2023-11-25)
参考文献数
25

近年,運動が注意欠如・多動症(ADHD)のある人の認知パフォーマンスを高めると報告されているが,認知面の変化が授業時の適応行動に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では,運動プログラムを実施する期間中の授業態度の変化を検討した。運動プログラムには,ADHDのある人の主体的な取り組みを促進するコーチングを適用した。主な結果の分析から,運動プログラムによる能動的な授業参加の増加と,授業内容に関係のない行動の減少が示唆された。また,解釈には注意が必要であるが,多動・衝動性や心理社会的適応状態の一部に改善の可能性がみられた。今後の課題として,運動プログラムの効果を明らかにするために,認知や運動を測定する指標の必要性が考えられた。
著者
大西 正二 小菅 英恵 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.34-45, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
26

漢字書字が困難な学習障害児61名において,見本の漢字を視写(見本を見て書き写す)するまでの6つの工程(①注視点の移行,②形の記憶,③画要素,④筆順,⑤書字運動,⑥視写結果)におけるつまずきの傾向について,10検査(13項目)の結果から階層的クラスター分析を行い,4群に分けられた。4群の集団的特徴を把握するため,Kruskal-Wallis検定を行った結果,第1クラスターは①注視点の移行,②形の記憶,⑤書字運動,第2クラスターは①注視点の移行,③画要素,第3クラスターは②形の記憶,③画要素,④筆順,⑤書字運動,第4クラスターは①注視点の移行の工程に問題がみられる群であることが示唆された。漢字書字が困難な児童の苦手な工程を補い,それぞれの特徴に合わせた学習支援が重要である。しかし,通常学級に存在することが多い学習障害児に対する視写の工程の詳細な評価が困難な学校現場においては,視写の工程のすべてを補う学習支援が必要だろう。
著者
佐藤 亮太朗 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
pp.22A008, (Released:2023-08-23)

本研究は、学校欠席リスク群のスクリーニングと欠席のリスク評価を目標とする学校欠席リスク・スクリーニングテスト(STAR)の作成(研究1)と、欠席日数に関連する要因並びに学校欠席リスク群の臨床傾向(研究2)から構成されている)。対象は小学4~ 6年の児童225名であった。研究1では、STARの信頼性並びに収束的妥当性、判別的妥当性、並存的妥当性が示された。研究2では、遅刻日数や〈同級生との会話〉、〈援助要請〉、〈眠気〉、〈国語〉、〈宿題〉と欠席日数との関連が示された。さらに、登校状態にある児童において、学校欠席リスク群は他の児童よりも欠席日数及び遅刻日数が多く、STAR得点も高い傾向があることが示された。以上により、欠席の予防的取り組みにおける対象児や介入の優先順位が示唆され、STARのスクリーニングテストとしての活用が期待された。課題として、主観的な容態の評価方略の検討を挙げた。
著者
山本 ゆう 安藤 瑞穂 熊谷 恵子
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.135-155, 2022-05-25 (Released:2022-07-28)
参考文献数
25

子どもは加減算を実行するとき,指を使ったり数えたりする方略から次第に答えを記憶から引き出す方略へと変化していく。そして,より速い反応時間で計算が実行できるように自動化する。しかし,どの学年段階で自動化が完成するのかは明らかになっていない。また,加減算の難易度についてもいまだ研究は少ない。本研究は,通常学級に在籍する1年生から4年生の児童に対して加減算の課題を実施し,反応と反応時間を測定した。そして,学年変化と,式別の難易度を検討した。また,計算困難のある子どもの特徴を明らかにすることを目的とした。結果,2年生以上において加減算の計算の自動化は十分でないことが明らかとなった。また,式別の難易度が明らかとなり,有効な指導法や系統的な指導への示唆が得られた。さらに,計算困難がある子どもの特徴が明らかとなり,早期支援の重要性が見出された。
著者
小菅 英恵 山村 豊 熊谷 恵子
出版者
日本応用心理学会
雑誌
応用心理学研究 (ISSN:03874605)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.207-218, 2020-03-31 (Released:2020-06-29)
参考文献数
30

ADHD is a developmental disorder that is known to influence traffic accidents because of the characteristics. Therefore, it is essential to understand the effects of psychological and behavioral characteristics of ADHD on traffic behaviors to identify effective methods of preventing traffic accidents. This study used an analog study method and focused on "attentional dysfunctions while moving." A self-checklist by 5 choices method that made of ADHD 18 items in DSM-5 was administered to university students and correlations between the ability of two types of spatial attention tasks and scores of attentional dysfunctions while moving were examined based on the degree of ADHD tendency. A two-way ANOVA was conducted on ADHD tendency and the ability of spatial attention. The results showed the participants with high ADHD tendencies demonstrated a low change detection ability that decreased "attentional dysregulation scores" and "a decline in arousal level scores". It was suggested that difficulties in maintaining attention might decrease the change detection ability of people with ADHD tendencies, which might influence carelessness while moving.
著者
小菅 英恵 熊谷 恵子
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.23-32, 2017-03-31 (Released:2017-10-06)
参考文献数
21
被引用文献数
1

車両の運転者や歩行者は、注意を働かせながら主体的に情報を収集しなければならない。多くの交通事故や道路交通違反の発生は、この注意機能の不全に起因している。 成人ADHD者や健常高齢者は特に注意不全が生じやすいが、彼らの運転時や歩行時 の注意不全に関わる特性は解明されていない。本研究では、これら特性解明のため定型発達成人の特徴と比較・照合可能なツールとして、運転時や歩行時の注意不全尺度を試作し、30代~50代の一般成人208名を対象に質問紙調査を実施した。その結果、 (1) 試作した尺度が、「注意の制御不全」「注意の変更機能」「覚醒水準の低下」「注意の転導性」の4 因子構造をもつこと、(2) 得られたα係数値から尺度の信頼性が示されたこと、(3) 各下位尺度得点と既存のDSM-5・ADHD項目の合算得点との間に理論上一致する相関パタンを示し妥当性が示されたこと、を確認した。本結果より、当該尺度の信頼性および妥当性は示されたと考えられる。
著者
熊谷 恵子
巻号頁・発行日
2013

科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書:基盤研究(C)2010-2012
著者
生田 茂 菅野 和恵 江口 勇治 篠原 吉徳 熊谷 恵子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

「音声や音をドットコード化し, 画像やテキストとともに編集し, カラープリンタで普通紙に印刷する」ソフトウエア技術と, 「印刷されたドットコードをなぞって, 音声や音を取込んだそのままに再生する」ハードウエア技術を活用して, 子どもたちや先生の「生の声」を用いて教材を作成し, 教育実践活動を行った。知的障害児の通う特別支援学校や肢体不自由児の通う特別支援学校, 通常学校に設置された「きこえとことばの教室」などにおいて教育実践活動を行い, 発音を持たない生徒とクラスメイトとの対話を実現し, 教室に居場所を見つけることに成功した