著者
大賀 圭治
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-25, 2014-01-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
8
被引用文献数
1

「食料安全保障」という政策用語は、1970 年代の世界的な食糧危機の中で使われはじめ、1980 年代にFAO などの場で、日本が主導して、「食料安全保障」についての論議が世界的に進み、1996 年の世界食料サミットでは「食料安全保障」が統一テーマとなった。日本の食料安全保障は、食料自給率の低下、つまり食料供給の海外依存の深まりの下で、国内食料供給の維持・向上と輸入食料の安定確保を課題としている。ヨーロッパの食料輸入国も日本と同様に国内生産の振興、緊急時における需要管理(配給)制度などによって食料危機に対応する食料安保の態勢をとっている。アメリカやEUのような食料輸出国・地域でも、食料不足の事態に対処する手段を制度化している。食料問題が最も深刻な後発途上国の食料問題は、貧困問題解決への国際協力のなかで取り組まれている。世界的な食料需要の増加と地球温暖化による食料・農産物市場の不安定化に対処するため、2011 年G20カンヌ・サミットでは、作物生産予測や気象予報を改善するため、リモートセンシングを活用した国際ネットワーク、「世界農業地理モニタリングイニシアティブ」の計画を進めることが決議された。このような食料安全保障の問題を解決するためのツールとして、リモートセンシングを基礎とする農業情報システムの活用が世界的に期待されている。
著者
小泉 達治 大賀 圭治
出版者
日本フードシステム学会
雑誌
フードシステム研究 (ISSN:13410296)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.3_1-3_14, 2009-12-31 (Released:2011-07-07)
参考文献数
19

The production and utilization of biofuels is promoted in many countries and regions, and these markets are expected to expand in the future. Our study uses a dynamic partial equilibrium model to examine how Brazilian bioethanol production will impact Brazilian and world sugar markets. If the Brazilian government abolished anhydrous blends for gasoline beginning in 2013/14, the international sugar price would decrease by 12.4% by 2017/18. The study result shows that\ Brazilian bioethanol consumption has an impact on international sugar prices. While the lower international sugar price could be beneficial to sugar-consuming regions, it could damage sugar-producing and sugar-exporting countries that depend heavily on sugar exports. Thus, it is concluded that the Brazilian bioethanol policy has a floor price effect for the international sugar price and an important role in maintaining world sugar production and the sugar industry at a reproduction level.
著者
高田 直也 杉浦 健介 Irham Irham 岩本 純明 大賀 圭治
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.162-168, 2003-09-01
参考文献数
36
被引用文献数
2

インドネシアは1980年代後半にFAO,世界銀行などの援助を受けて総合的病害虫防除(IPM)を本格的に開始した.一方,IPM本格化以前の1980年から日本はインドネシアに対し技術協力援助として病害虫発生予察制度を主体とした作物保護強化計画を行っていた.この日本の援助に対しては,農薬の使用が前提であったという批判がある.本研究は,インドネシアの作物保護における発生予察制度とIPM導入に至るまでの過程を歴史的事実に基づき検証することを目的とした.1980年から実施された病害虫発生予察制度を主体とした技術協力援助は,1974年〜1977年にかけてのインドネシアにおけるトビイロウンカ大発生に対応するために,インドネシア政府の強い要請によって開始された純然たる技術協力援助であり,農薬の供与とは直接的な関係を有しない.1984年にインドネシアはコメの自給を達成したものの,この直後にトビイロウンカが大発生した.農薬の過剰な投入がトビイロウンカの大量発生の一因であるとされ.1986年11月,大統領令により有機リン系を中心とした57品目の殺虫剤が水田で使用禁止となるとともに,インドネシア政府は農薬への補助金を削減しはじめた.その後1989年から国家開発企画庁の主導で普及活動を中心としたIPMプロジェクトを世界銀行の融資を得て開始し,1994年以降は業務を農業省に引き継ぎ現在に至っている.現在インドネシアの作物保護行政は,国の専門組織とこれを補助する地方自治体の担当部門,さらに農民の連携により進められている.この中で発生予察制度は否定されているわけではなく,作物保護政策の重要な一環として位置づけられている.しかし,発生予察制度整備のための技術協力と同時期に有機リン系殺虫剤の水田使用禁止を補うための食糧増産援助(2KR)が日本から行われており,インドネシア政府はこの2KRを利用して天敵等に影響のない農薬等を準備した.発生予察は病害虫発生の初期段階に適期防除を目指す技術協力であり,2KRで援助された農薬等は資材援助であったという違いを見なければならないが,これらは日本からの作物保護に関する援助であったゆえに同一視されてしまった.このことは,日本の援助における要請主義の再検討など今後の援助のあり方に対して教訓を与えている.
著者
大賀 圭治 辻井 博 米倉 等 福井 清一 岩本 純明 松本 武祝
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

中部ジャワの「定点観測村」で、持続的農業発展の条件を明らかにするための詳細な調査を実施した。農家経済に関する基本的データ収集と同時に、農外労働市場、多様な金融制度、近年注目されている社会林業の制度と運用実態等についてデータ収集を行った。主な知見は以下の通りである。(1)農産物価格や資材価格など、農業を取り巻く環境変化に対する農家の反応は機敏である。また農家は、さまざまなリスク回避措置を経営内に組み込んでいる。(2)水田利用は集約的である。しかし地力循環という点で大きな問題をかかえている。(3)農家構成員の就業先選択は通説のように「無差別」ではない。また、農業部門における家族労働と雇用労働の質については完全に代替的ではないと見なされている。(4)農家の作付け農作物の選択基準においては、自給目的が強くでており、商品経済的観点は弱い。(5)親戚・隣人間での金銭的相互扶助に関しては、共同体規範の強い影響がうかがえる。(6)回転講への参加目的は、低所得層は貯蓄・融資、高所得層は隣人とのコミュニケーションにある。共通して返済率は高く、貧困層の生活水準の向上に貢献している。(7)沿岸丘陵部の天水依存地域では、持続的農業開発の条件はより厳しい。しかし、作物と林木とを巧みに組み合わせた持続的な生産方式が定着している。(8)多様な相互扶助組織がなお機能しており、ソーシャル・セーフティーネットとしての役割を果たしている。(9)国有林経営では、最終生産物を国と農家・農家グループが分収する新たな制度が導入され、農家に持続的な森林管理を動機づけるものと注目されている