著者
布施 綾子
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.55-62, 2011-04-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
9
被引用文献数
4

都市部におけるイノシシによるヒトへの危害防止を目的として、2002 年に神戸市において日本で初めて「イノシシ餌付け禁止条例」が制定された。条例が施行され8 年以上が経過したが、条例制定の前後でイノシシの出没状況がどのように変化したかは明らかにされていない。本研究の目的は山林に隣接した神戸市六甲山南部の市街地のイノシシの出没状況と住民の意識から、イノシシとヒトとの関わり方について検討することにある。まず、条例施行前の2000~2001 年に神戸市東灘区天上川流域にてイノシシの出没状況を調査した。次に、条例施行後の2009 年9~12月に、イノシシの出没現場踏査、インタビュー調査、アンケート調査、イノシシの追跡調査、イノシシに対するヒトの意識調査を行った。結果は、条例施行後は道路上でのイノシシ出没頻度は減少し、イノシシへの間接的な餌付け場所となるゴミ集積場での被害も減少することを示した。一方で、河床に生存するイノシシの個体数は増えていることが観測され、河床の段差工の高低差が大きく山に帰る事ができず封じ込め状態にある事が明らかになった。また、市民の条例に対する認識度は74%と高いにも関わらず、天上川河床に生息するイノシシへの直接的な餌付け行為は継続されていた。河床のイノシシに対するヒトの意識は好意的なものが多く、餌付けは感情に基づいたものと言える。餌付け禁止条例の効果はある程度認められたが、今後イノシシとヒトとの適切な関わりを構築するには、イノシシの生息環境やヒトの感情に配慮した施策が求められる。
著者
大賀 圭治
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-25, 2014-01-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
8
被引用文献数
1

「食料安全保障」という政策用語は、1970 年代の世界的な食糧危機の中で使われはじめ、1980 年代にFAO などの場で、日本が主導して、「食料安全保障」についての論議が世界的に進み、1996 年の世界食料サミットでは「食料安全保障」が統一テーマとなった。日本の食料安全保障は、食料自給率の低下、つまり食料供給の海外依存の深まりの下で、国内食料供給の維持・向上と輸入食料の安定確保を課題としている。ヨーロッパの食料輸入国も日本と同様に国内生産の振興、緊急時における需要管理(配給)制度などによって食料危機に対応する食料安保の態勢をとっている。アメリカやEUのような食料輸出国・地域でも、食料不足の事態に対処する手段を制度化している。食料問題が最も深刻な後発途上国の食料問題は、貧困問題解決への国際協力のなかで取り組まれている。世界的な食料需要の増加と地球温暖化による食料・農産物市場の不安定化に対処するため、2011 年G20カンヌ・サミットでは、作物生産予測や気象予報を改善するため、リモートセンシングを活用した国際ネットワーク、「世界農業地理モニタリングイニシアティブ」の計画を進めることが決議された。このような食料安全保障の問題を解決するためのツールとして、リモートセンシングを基礎とする農業情報システムの活用が世界的に期待されている。
著者
福本 昌人
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.15-23, 2019-10-29 (Released:2020-07-03)
参考文献数
9

農業用水の利用実態を把握する上で、水田の取水開始時期を把握することが重要になっている。その取水開始時期を複数のSentinel-2衛星データ(マルチスペクトル画像;無償で利用可能)を用いて広域的に把握する手法を開発した。本手法では、①短波長赤外バンドのデータの解像度アップ、②修正正規化水指数(MNDWI)画像の作成、③二値化画像の作成、④湛水有無の判定、⑤取水有無の判定、⑥取水開始時期の判定、という手順で、圃場毎に取水開始時期を把握する。4月~6月に観測された8つのSentinel-2衛星データと圃場区画データを用いて本手法により対象地区の各圃場の取水開始時期を把握した。その結果、4月14日~4月20日に取水が開始された圃場が最も多かった。対象地区の一部において取水有無の判定結果に関する精度検証と内訳の分析を行った。その結果、5月15日には98%の正答率で取水有無の判定がなされていた。また、6月4日には稲の生育が進んでいた多くの圃場が「湛水なし」と判定されたが、それらは4月~5月に少なくとも一度「湛水あり」と判定されていたので、「取水あり」と判定された。したがって、本手法を適用すると、高い精度で取水開始時期が把握できる。
著者
玉川 一郎 吉野 純 加野 利生 安田 孝志 村岡 裕由 児島 利治 石原 光則 永井 信 斎藤 琢 李 美善 牧 雅康 秋山 侃 小泉 博
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.129-136, 2008-04-10
参考文献数
6
被引用文献数
1

岐阜大学21世紀COE「衛星生態学創生拠点―流域圏をモデルとした生態系機能評価―」(代表:村岡裕由 平成16年度~20年度)ではプログラムの中心的課題として、岐阜県高山市の大八賀川流域を対象に炭素吸収量などの生態系機能を面的に評価する研究を行っている。対象地域の代表的植生を示す場所にある2つの重点的観測サイト(スーパーサイト)での現地観測で得られた結果を用いて、陸面モデル NCAR LSMを対象地域に適した形に改良し、衛星リモートシンシングによって得られた土地利用などのデータを取り込み、気象モデルMM5と結合して流域での生態系機能評価を行うという手順を考え研究を行っている。そこでは生態系プロセス研究と衛星リモートセンシング、数値モデルの3つの研究分野の研究者がそれぞれの知識や技術を出し合い、相互理解を深めつつ協力して研究を進展させている。完成に近づいた現在の姿を報告する。
著者
大澤 一雅 國井 大輔 斎藤 元也
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.67-77, 2010-04-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
8
被引用文献数
3

宮城県北西部の大崎地域を対象とし、多時期のTerra/ASTER衛星画像を利用して農地の作付け分類を試みた。正規化植生指数(NDVI)の分析により、耕作地では作物によってNDVIが特有の時系列パターンを示し、遊休農地では管理法や遊休後の経過年数などによってNDVIがさまざまな値を示すことを明らかにした。この分析結果を踏まえ、主にNDVIに基づいて判別が容易な水域・森林・都市域を先に判別分類し、次に分類されなかった農地等の部分を判別が容易な分類項目から順次、水稲・大豆・麦類・草地・ゴルフコース・遊休農地に分類し、作付けマップを作成した。遊休農地と山間地森林の草地や河川周辺の荒地等を区分するために、50mDEMおよび25000分の1地形図を用いた解析を加えた。作付けマップから求めた各分類項目の推定面積を農林業センサスにおける統計面積と比較した結果、水稲と大豆畑では良く一致していたが、麦類や草地、遊休農地では乖離が認められた。
著者
成澤 朋紀 米澤 千夏
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.59-66, 2023-02-28 (Released:2023-10-06)
参考文献数
12

リモートセンシングデータの画像分類により、宮城県石巻市北上周辺において東日本大震災後のタケの拡大状況把握を試みた。高分解能衛星であるPleiades-1A衛星で2015年4月30日に観測されたデータおよびWorldView-3衛星で2019年4月29日に観測されたデータを用いてサポートベクターマシーン(SVM)によって画像分類を行った。分類精度は、Pleiades-1A衛星画像においては、全体精度が93.0%、タケのユーザー精度が98.8%、プロデューサー精度が85.0%となった。WorldView-3衛星画像においては、全体精度91.0%、タケのユーザー精度が81.0%、プロデューサー精度が81.0%となった。分類結果において、落葉樹林内にタケの細かい誤分類が多く発生し、落葉広葉樹との判別が課題となった。衛星画像の取得時期は、落葉広葉樹の新葉の展開前が望ましいと考えられた。誤分類に留意して2015年のPleiades-1A衛星画像および2019年のWorldView-3衛星画像の分類結果を比較したところ、北上の一部地域でタケの拡大が確認できた。対象地域において竹林の管理不足による分布の拡大の懸念があり、適正な管理が必要になると考えられる。
著者
内田 諭
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.123-135, 2012-10-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
14

水稲の作付時期が多様な熱帯アジア地域の代表例として、インドネシア・ジャワ島を対象に、MODISデータによる水稲作付の時間的・空間的分布状況を把握する手法を開発し、作付時期の経年変動特性の解析を行った。MODISの16日間合成データセット(MOD13Q1)から求められる植生および地表湛水状態を表す指標値の時間変化から、16日間隔で水稲作付域を抽出し、2000年4月から2011年12月までの水稲作付分布データを作成した。月別の水稲作付面積を表す統計データと時間変動特性を比較したところ、両者は良い相関を示した。一方で、画素内での他の土地利用との混在、あるいは、異なる作付時期の混在等が影響し、イネの作付地であっても作付時期が判別されない場合があり、作付面積を精度良く算定することはできなかった。本手法を、水田が広く存在するジャワ島に適用した結果、雨期の端緒となる9月以降の第1作および第2作の作付時期の全島的分布を示すことができ、各々12月から1月と3月から4月頃にピークとなるが、作付時期が相対的に早くなる地域と遅くなる地域の分布が明らかとなった。さらに、同一地点であっても作付時期は経年的に変動し、第1作が第2作に比べて大きい変動幅を持つことが示された。第1作の作付時期の変動に関し、雨期前半の降水量との関係を調べたところ、少雨年に作付時期が遅れる傾向が明瞭となる地域、また、逆の傾向を示す地域の存在が明らかとなり、前者は、天水に依存する地域および灌漑網の末端部に現れる傾向があることが判明した。
著者
小花和 宏之 早川 裕弌 坂上 清一
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.29-38, 2021-09-25 (Released:2022-06-15)
参考文献数
15

空撮写真から3次元モデルを作成する際に、Domingと呼ばれるモデル全体の歪みが発生することが知られており、計測精度の低下が問題となっている。そこで本稿では、RTK(real time kinematic)-GNSS(global navigation satellite system)を搭載したUAV(unmanned aerial vehicle)の使用、カメラ角度、データ処理方法、およびGCP(ground control point)の配置と、Doming発生程度および鉛直精度との関係を検討した。その結果、カメラの角度を傾けるほどDomingおよび鉛直誤差低減効果が大きく、カメラ位置精度をRTKに最適化することで、GCPを使用しなくてもDomingの発生をほぼ完全に抑えることが可能であり、さらにレンズ歪みモデルのRTK最適化により鉛直誤差も2 cm以内に低減可能なことが示された。なお、慣行の非RTK-UAVにGCPを組み合わせる方法でも、計測範囲中心にGCPを配置することで、極めて高いDomingおよび鉛直誤差低減効果が得られることが確認された。以上より、省力性や運用効率等を考慮した場合、RTK-UAVの使用、カメラ角度-70度、写真測量ソフトウェア(Agisoft Metashape)上の処理における「XMPカメラ位置精度の利用on」、「カメラアライメントの追加補正on」、GCP不使用の組み合わせが最適だと考えられた。
著者
綽 宏二郎 芝山 道郎 神田 英司 板橋 直 坂西 研二 阿部 薫 木村 昭彦
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.81-89, 2016

<p>近年わが国では、突発的な豪雨が多発しており、傾斜畑における表面流出の発生頻度が高まっている。傾斜畑で発生する表面流出は、土壌中に含まれる肥料成分や重金属等を流域排水系へ流入させるため、自然生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。表面流出量の計測は、水位計などの計測機器を傾斜畑下端に設置して、直接的に流出量を計測する方法が一般的である。ところが、表面流出に伴い流出する作物残渣や土壌粒子などが計測機器周辺に堆積し、これによって生じる計測トラブルにより、取得したデータが信頼性に欠けることがあった。そこで、流出物の堆積による影響を受けない非接触的なセンシング手法として、自動で表面流出現象を動画撮影する装置を開発し、この装置を屋外の傾斜枠圃場に設置して観測実験を行った。撮影された動画に、流れの速度分布を調べる方法のひとつであるPIV 解析を適用した。PIV 解析には流れの目印(浮子)が必要であり、表面流出時に浮遊する作物残渣や土壌粒子等を浮子として利用した。解析の結果、それらの流速が推定され、表面流出量の時間的変化を把握する手がかりを得ることができた。</p>
著者
糀谷 斉 大泉 賢吾
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.111-120, 2009-04-10
参考文献数
13

シクラメンの品質保持期間である日持ちと栽培方法の関係を解析した。従来の研究とは異なり、栽培方法に関しては単一要因ではなく体系的に捉えた要因を分析対象とした。また、日持ちは消費者が観賞価値を有すると考える期間とし、同一環境下に複数の生産者のシクラメンを設置して日持ちを比較した。日持ちと栽培方法の関係を解析するための分析方法は数量化Ⅰ類を用いた。分析の結果、品質保持期間に影響した栽培要因は、鉢培養土の種類、出荷1 ヶ月前の温度設定、夏期の遮光率であった。しかし、贈答用を想定した初期の品質が維持された期間と、家庭用を想定した全観賞期間では、日持ちに影響した栽培方法の組み合わせは異なった。この結果から、生産者が日持ちの特性に応じた栽培方法を選択することで、贈答用向きや家庭用向きのような日持ちに特徴のあるシクラメンを生産できる可能性が示唆された。
著者
須藤 賢司
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.137-144, 2009-07-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1

放牧営農に際しては飼養頭数、放牧方法、自給飼料の栽培面積等について最適な組み合わせを考える必要があり、実際、放牧酪農経営は多様性に富んでいる。この点を踏まえ、循環型酪農における放牧の役割について考察した。放牧導入には牛舎周辺への草地の集積が前提となるが、ここで生産される放牧草を短い草丈で利用すれば、貯蔵飼料よりも栄養価を高く維持でき、輸入濃厚飼料の給与量を減らせる。放牧では、牛にできることは牛にやらせることが基本であり、粗飼料の収穫調製と牛舎での給与ならびに糞尿処理作業に関わる労力・機械費・燃料が軽減され、従事者のゆとりが増す。北海道十勝地域で実測した値等をもとに行った試算では、放牧草採食量を13-15kg(乾物)確保し、舎飼期も粗飼料を活用する飼養体系を採った場合、以下の点が明らかになった。①圃場面積は経産牛1頭あたり約70aを要すること、②これらの値は環境保全を考慮して算定された経産牛1頭あたりに確保すべき糞尿還元面積とほぼ一致し、物質循環性は保たれること、③輸入飼料価格高騰の影響を緩和でき、持続的農業生産の観点からも有利なこと。放牧地面積が充分でなくとも、放牧時間を短縮することにより放牧導入は可能である。ただし、過放牧や牧区内の不均一な利用による糞尿成分の系外への流出防止に配慮する必要がある。環境保全が重視される点は放牧酪農でも変わりはなく、単位面積あたり放牧頭数と放牧時間の設定に留意すべきである。今後は、放牧の環境への影響をモニタリングし、定量化する技術の研究が望まれよう。
著者
岡本 勝男 小野 公大 土井 佑也
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.109-116, 2015-11-30 (Released:2016-06-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1

統計資料は災害把握や食料需給見積もり、政策立案のうえで基本資料となる。広域や地上調査困難地域で客観的で信頼できるデータを得るためには、衛星リモート・センシングは強力なツールとなる。筆者らは衛星光学センサ・データから算出した改良型正規化差分水指数(MNDWI: Modified Normalized Difference Water Index)と正規化差分植生指数(NDVI: Normalized Difference Vegetation Index)を用いて水田に注目して土地利用・土地被覆を分類する手法を開発した。この手法を青森県のLandsat TM(Thematic Mapper)/ETM+(Enhanced Thematic Mapper Plus)データに適用して水田を検出した。水田とその周囲のミクセルから画素内水田面積率を計算して、2002 年の市町村別水稲作付面積を推定した。ミクセル内の水田面積率100%は田植え期の水域のMNDWI 平均-3σ(Path= 107 は0.15、Path= 108 は0.10)、水田面積率0%は田植え期の土・人工構造物のMNDWI 平均+2σ(= -0.17)だった。その結果、2002 年の青森県の水稲作付面積は、51,283 ha と推定され、統計値52,597 ha の97.5%だった。水田分類精度は93.0~97.7%、水田検出精度は、85.0~97.0%だった。本研究で開発した簡易分類手法を用いることにより、従来の教師なし分類や教師付き分類より作業時間が短縮できた。
著者
丸居 篤 鹿野 翔 凌 祥之
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.155-160, 2013-10-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
15
被引用文献数
1

福岡県旧前原市においてイノシシ被害に関するアンケート調査(対象面積11,202ha、31 農区、農家1,069 戸)を実施し、耕作放棄地とイノシシ被害との関係を解析した。アンケート内容は、記入者の営農情報、被害に関する情報、対策の有無であり、有効なアンケートの回収率は79.6%であった。主な被害作物は稲が全体の53%を占め、続いて野菜16%、ミカン13%、イモ5%、その他が13%であった。被害農地と土地利用との相関解析を行った結果、耕作放棄地の存在とイノシシ被害との間に有意な正の相関がみられた。GIS(地理情報システム)を用いた解析より、被害農地の92.3%が山林から100m以内に存在し、山林からの距離が被害要因の1つとなっていることが明らかとなった。また、被害農地の54.9%が耕作放棄地から100m以内に存在し、耕作放棄地との近接性も影響する可能性が考えられた。さらに、500mおよび1,000mメッシュを用いた相関分析から、イノシシ被害回数と放棄地面積の間に有意な正の相関があることが明らかとなった。
著者
布施 綾子 福島 慎太郎
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.41-48, 2014-04-20 (Released:2015-06-04)
参考文献数
13
被引用文献数
1

2002年、神戸市ではイノシシからの危害防止のため、「イノシシ餌付け禁止条例」が制定された。本研究は、神戸市東灘区内におけるイノシシに対する人の行動、人の行動に対するイノシシの反応に関する調査に基づき、河床部と山間部での人の行動差を検証し、人とイノシシとの共生の方策を探ることを目的とした。調査は、2010年11月から2011年3月にかけて行い、天上川中流部にて河床に定着したイノシシと、保久良山付近に生息するイノシシに対する人の行動を観察・比較した。人のイノシシに対する行動を無関心的行動・能動的行動・積極的行動・敵対的行動・逃避的行動にカテゴリー別に分類するとともに、人の行動に対するイノシシの行動を活動的行動・物欲的行動・攻撃的行動に分類した。イノシシが河床に生息している天上川中流部付近はイノシシと人が隔離された状況にあるが、保久良山付近はそのような隔離状況はなく、その物理的な環境の差が人のイノシシに対する行動に差をもたらすかを明らかにするために、両場所における人の行動の差をχ2 検定により検証した。続いて、男女比、年齢層比の影響を統制しても、カテゴリー別の行動に地域差がみられるか否かを検証するために、ロジスティック回帰分析を実施した。その結果、無関心的行動は天上川中流部付近と若年層・中高年層において、能動的行動・積極的行動は保久良山付近と未成年層において多く確認された。また、餌付け行動も未成年層が多くとっていることが確かめられた。更に、イノシシに対する人の能動的行動・積極的行動はイノシシの物欲的行動を誘発する可能性があることが確かめられた。
著者
YAYUSMAN Lissa Fajri 長澤 良太
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.27-40, 2015

近年、オイルパーム油に対する高い需要は世界各地でオイルパーム園の拡大を引き起こしている。その傾向はインドネシアでも顕著であり、同国の国民所得の増大、代替エネルギーの開発に大きく貢献した一方、さまざまな生態環境や土地管理上の諸問題をもたらしている。オイルパーム園の拡大が環境に与える影響を定量的に評価する試みはこれまでにも多くみられるが、近年特に小規模農家による経営規模の小さいオイルパーム園が各地で分散的に拡大し、現象を一層複雑で困難な問題としている。インドネシアの南スマトラに位置するMesuji地区は小規模オイルパーム園が急速に拡大している地域であり、周辺の土地利用、土地管理に対する影響が危惧されている。そこで、本研究では陸域観測技術衛星(ALOS)によって取得されたマルチセンサー、マルチスケールの画像データを利用することによって、同地区の小規模オイルパーム園を正確に抽出する手法の検討を行った。結果として、SAR画像に表されたオイルパーム園の特徴的な形状をテクスチュア解析によって的確に抽出できることがわかった。すなわち、ALOS PALSAR画像の11 x 11ピクセルの moving windowサイズで統計値mean-varianceのテクスチュア特性を抽出し、さらにALOS AVINIR-2の全バンドのマルチスペクトル特性をデータ統合することにより、小規模オイルパーム園を最も良い精度で抽出できた。精度評価の結果、成熟したパームオイルの場合、プロデューサー精度で92.45%、ユーザー精度で66.75%の値、また成長段階にある若いオイルパームではプロデューサー精度で64.44%、ユーザー精度で63.04%の分類精度を得ることができた。
著者
冨吉 満之
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.159-166, 2010
被引用文献数
2

農業や農村に関わる活動を行うNPO法人(以下、農業系NPO法人)の全国的な法人数および活動分野を把握する目的で、既存のデータベースを活用して法人を抽出し、活動目的による分類を行った。その結果、2008年7月時点で全国に943件の農業系NPO法人が存在し、全NPO法人(35,544件)の2.7%に当たることが明らかになった。活動目的から農業系NPO法人を18項目に分類したところ、研究・提言・教育(34.8%)、農業支援(31.4%)、交流・ツーリズム(29.6%)、農地・水・森林(28.6%)、環境保全型(有機)農業(21.6%)といった活動を行う法人が多数を占めていた。一方で、認証(2.8%)、文化財(3.8%)、新規就農(9.0%)に関する活動を展開する法人は少なかった。また、財務データから年間収入規模別に農業系NPO法人を分類すると、100万円未満の規模に最も集中し(47.3%)、500万円未満の規模の法人で全体の7割を超えている事が分かった。全NPO法人のデータと比較して、農業系NPO法人は小規模な団体が多い傾向が見られた。地理的分布に関しては、法人所在地から都道府県庁までの直線距離が10km以下の法人が全体の36%を占めていた。また、30km以内の法人で全体の6割を占めることになり、所轄庁から離れるほど法人数は少ない事がわかった。
著者
瀬戸口 暁 大石 風人 熊谷 元 今井 裕理子 川本 康博 広岡 博之
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1-9, 2017

<p>亜熱帯地域における周年放牧肥育生産システムに対して、ライフサイクルアセスメント(LCA)による環境影響評価を実施した。沖縄県石垣地域で行われた集約輪換放牧による褐毛和種去勢肥育生産を評価対象とし、補助飼料として、国内産副産物飼料(ビール粕・砕米)を活用した完全混合飼料(TMR)を給与した生産システムを想定した。機能単位は増体重1 kg あたりとし、エネルギー消費、地球温暖化、酸性化、富栄養化への影響を算出した。評価の結果、想定した生産システムにおいて、副産物飼料の利用により飼料生産・飼料輸送による環境影響を軽減できる一方、放牧地管理がいずれの環境影響項目においても環境影響の大きな割合を占めるということが示唆された。これは、肥育を目的として高生産性を目指した放牧地への多大な施肥により、環境影響が増大したためであると考えられた。副産物飼料からの環境影響の扱い方として、経済アロケーションまたは重量アロケーションを用いた場合、および廃棄物とみなした場合の3 通りを検討した結果、重量アロケーションを用いた場合では、経済アロケーションおよび廃棄物とみなした場合より、エネルギー消費が大きい結果となった。</p>
著者
劉 晨 王 勤学 渡辺 正孝
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.153-164, 2007-04-10
参考文献数
39
被引用文献数
1

農業生態系から三峡ダムに輸送された窒素負荷量の変化を分析するため、長江上流流域にある350 県について1980-2000年の5年毎の農業統計データや気象等の観測データを空間情報システムと結合し、窒素収支に関するデータベースを構築した。また、水域への窒素流出モデルにより、長江上流農業生態系から各主支流に輸送された窒素の量および空間的変化を解明した。その結果、農業生態系から長江に流入した窒素の量は長江上流全域流出量の83%を占め、1980 年の5.60×105t から、2000 年の1.61×106t まで、2.9 倍に増加したことが明らかとなった。河川における自浄作用等での減少率が37%とすれば、1980、1985、1990、1995 年、および2000 年に長江上流農村生態系から三峡ダムに輸送された窒素の総量は、それぞれおよそ0.35×10 6 、0.47×10 6 、0.59×10 6 、0.64×10 6 、および1.01×10 6t となった。農業生態系から水域への窒素輸送総量のうち、農業生産による水域に輸送される窒素の量は1980 年の3.45×10 5t から2000 年の1.39×106t まで、4 倍以上に増加した。一方、農村で発生した排泄物が水域へ直接輸送された窒素の量は2.14×105-2.67×105t であり、1980 年から1990 年の間には増加し、1990 年から2000 年の間には減少した。2000 年には、長江上流地域の各10 支流域への窒素輸送総量のうち、嘉陵江流域への輸送量が35%を占め、三峡ダム流域への輸送量は15%、烏江、沱江及び岷江流域への輸送量はそれぞれ11%を占めていた。1980 年の窒素排出源は主に成都市と重慶市の周辺農村地域に集中していたが、1990 年代には四川盆地の全範囲、及び四川盆地周辺の丘陵地に広く拡大した。化学肥料使用量の急増が肥料効率の低下や河川窒素負荷量の増加の主な要因であった。計算された各支流の窒素輸送量は先行研究で報告された観測値にほぼ一致していた。このように三峡ダム完成後には貯水池における藻類異常増殖などの富栄養化の顕在化が懸念される。
著者
竹澤 邦夫 二宮 正士 吉田 康子 本郷 千春 徳井 和久 伊東 明彦 竹島 敏明
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.121-127, 2009-04-10

リモートセンシングデータを用いて水稲の収量を高い精度で推定する方法として、当該年次と過去の年次のデータに異なった重みをつけることが考えられる。その際、過去の年次のデータに対する重みとして年次によって異なる値を用いることができる。その際の重みの値を最適化するために確率的な最適化手法を試みた。回帰式として重回帰式を用いた。その結果、ここで用いたデータに関しては年次によって異なる値を用いた場合はむしろ予測誤差が大きくなってしまうことが分かった。過去のデータと当該年度のデータに対する重みとして全て同じ値を用いた場合に予測誤差が最も小さくなった。これは、回帰におけるパラメータの数を多くしすぎると過剰適合によって予測誤差が大きくなる現象の一例と考えられる。しかし、最適化された重みに対して収縮手法を用いることによって全ての重みの値を等しくした場合よりも予測誤差が小さくなることも分かった。
著者
金 元淑 後藤 基寛 入江 満美 山口 武則 牛久保 明邦
出版者
システム農学会
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.175-182, 2008-07-10
参考文献数
16
被引用文献数
1

近年、中国経済の発展による都市規模の拡大や農村地域の都市化への加速に伴う人口密度の集中および生活水準の向上につれて、都市ごみ中の食品廃棄物の含有量が増加しつつある。このことは、都市ごみの無害化処理率が低く、野積みのごみに包まれ、環境汚染問題が顕在化している中国の都市ごみ処理に一層困難をもたらしている。食品廃棄物のコンポスト(堆肥)化は中国現状に適した有効な処理方法の一つである。しかし、食品廃棄物には油分や塩分が含まれており、これらの濃度も異なることから、食品廃棄物のコンポスト化過程にも影響を与えることやコンポストを土壌施用した際に植物障害を生じる可能性が考えられる。本研究では、食品廃棄物中の油分および塩分がコンポスト化過程に及ぼす影響ならびにコンポスト中の油分および塩分がコマツナの生育に及ぼす影響について、原材料にそれぞれ油分・塩分を添加してコンポスト化させ、その製造コンポストを用いて、化学分析・発芽試験並びに簡易幼植物栽培試験を用いて検討した。本研究により、食品廃棄物コンポストの原料に油分を36%まで含有してもコンポスト化が可能であり、作成したコンポストもコマツナへの生育抑制は見られず、コンポストとして使用可能であることが判明した。また、食品廃棄物コンポストの原料に塩分を8%まで含有してもコンポスト化は可能であり、作成したコンポストを用い、施用量を10a あたりに1tと仮定すると、コンポスト中の塩分含有量は乾物あたり8%以下であればコマツナの生育に影響はないことが判明された。