著者
中谷 英章 入江 潤一郎 稲垣 絵美 藤田 真隆 三石 正憲 山口 慎太郎 岡野 栄之 今井 眞一郎 安井 正人 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-P-M-2, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】最近の動物実験においてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の細胞レベルでの減少がインスリン抵抗性やアルツハイマー病に代表される老化関連疾患を引き起こすこと、NAD中間代謝産物であるニコチンアミドヌクレオチド(NMN)を投与することによりNAD量を増加させ、病態を改善することが報告されている。しかし、ヒトにおけるNMN投与の安全性については不明である。そこで我々は健康成人男性にNMNを経口投与し、その安全性を確認する臨床試験を行った。【方法】10名の健康成人男性に対し、100mg、250mg、500mg のNMNを1週間毎に段階的に経口投与し、投与前と投与後5時間までの血液データや尿データ、投与時の身体計測、心電図、胸部レントゲン、眼科検査を行った。【結果・考察】NMNの単回経口投与により血圧、心拍数、体温、血中酸素飽和度は変化しなかった。血液データでは、軽度の血清ビリルビンの上昇、血清クレアチニン、クロライド、血糖値の低下以外は変化を認めなかった。投与前後での眼科検査や睡眠の質スコアは変化を認めなかった。また、血中のNMNの最終代謝産物は濃度依存性に上昇し、体内でNMNの代謝がきちんと行われたことが確認された。【結論】健康成人男性においてNMNの単回経口投与は大きな副反応を認めず安全であった。
著者
安井 正人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.153, no.5, pp.231-234, 2019 (Released:2019-05-14)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

我々の身体の約2/3は水分子で構成されている.体液(水・電解質)調節は,個体の機能維持に必須である.実際,心不全など多くの疾患で体液調節の異常が認められる.驚くべきことに脳における体液調節の仕組みはほぼ未解明のままであった.最近になり,「脳リンパ流」が存在することを示唆する証拠が相次いで報告された.中でもNedergaardらが2012年に提唱した「glymphatic system」では,アクアポリン4(AQP4)が関与している可能性,睡眠によって制御されている可能性が示唆され,注目を集めた.AQP4は哺乳類の脳に主に発現していて,グリア細胞であるアストロサイトの終足(血管周囲空間とのインターフェースおよび脳室周囲)にあることから,脳の体液調節に関与している可能性が以前より示唆されていた.「Glymphatic system」は,まだ概念的な要素が多く,その実態は十分に把握されていない.一方,その解明は高次脳機能や精神・神経疾患の病態におけるグリア細胞の役割に対する理解を深めるのみならず,脳内薬物動態に対する理解にもつながり,睡眠薬や精神疾患作用薬の開発やより適切な使用法の改善も期待される.最近,不眠と慢性疾患(糖尿病や高血圧など)との関連も大変注目されているが,実際,国民の約5人に1人が不眠の問題を抱えている.更に,高齢化社会を迎え,認知症が増えていくことを考えると,脳リンパ排泄の生理とその破綻における病理を解明していくことは,科学的にも社会的にも極めて重要である.そこで,本総説では神経変性疾患の病態生理におけるAQP4の役割を解説すると同時に「脳リンパ流」に関する最近の知見も紹介する.
著者
安井 正人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.733-738, 2015-06-01

アクアポリンの発見から20年が過ぎた。アクアポリンの分子生物学的,生化学的研究はかなり進展したといえるが,まだまだ未解決の問題も多い。中枢神経系で発現しているアクアポリン4は視神経脊髄炎や脳浮腫の病態との関連が明らかとなり,臨床的にもその重要性が認識された。さらに脳のリンパ流にも関与していることから,神経変性疾患や精神神経疾患との関係も指摘されている。アクアポリン4機能の解明と創薬が期待される。
著者
安井 正人
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.786-788, 2009 (Released:2009-12-28)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

体内水分バランスは,生体の恒常性維持機能のもっとも重要な調節機構である.水分バランスの不均衡は,様々な病態にともなってみとめられ,その補正が治療上有効となることが多い.水チャネル,アクアポリンの発見は,体内水分バランスや分泌・吸収に対するわれわれの理解を分子レベルまで深めることとなった.腎臓における尿の濃縮・希釈はもちろんのこと,涙液・唾液の分泌にも重要な働きをしている.アクアポリンの結晶構造が解明されたことで,水分子がいかにしてアクアポリンのポアを選択的に通過するか,分子動力学シミュレーションを駆使して再現することも可能となった.アクアポリンの調節機構に対する理解も進みつつあり,アクアポリンを標的とする創薬への期待が高まっている.脳においても水バランスの重要性は例外ではない.アクアポリンの分布から考えて,神経細胞ではなくグリア細胞がその役割を担っていると考えられている.グリア細胞に発現しているアクアポリン-4(AQP4)は,脳浮腫の病態生理に関与している事が明らかになったのみならず,最近ではNMOの患者に特異的にみとめられるNMO-IgGの抗原としてAQP4が同定されるなど,AQP4は臨床的にも大変注目を集めている.AQP4の立体構造も解明され,分子標的創薬の面からも期待が高まっている.