著者
安東 宏徳
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.45-53, 2018-04-13 (Released:2018-04-27)
参考文献数
27
被引用文献数
1

潮間帯や浅海域に生息する海産生物の多くは,月齢に同調して産卵する。これらの動物は,月周期もしくは半月周期で生殖を繰り返すが,そのリズムの調節機構は現在のところほとんどわかっていない。我々はこれまで,日本各地の海岸で潮汐サイクルに依存しながら新月と満月の日に産卵するクサフグを用いて,その半月周性の産卵リズムの調節機構について研究してきた。フィールドの産卵回遊行動調査や水槽内行動実験,視床下部-下垂体系のホルモンの遺伝子発現解析,メラトニンの分泌やメラトニン受容体遺伝子の発現解析,概日時計遺伝子の解析など,さまざまな分子生理生態学的なアプローチを行ってきた結果,クサフグが生息環境の違いに応じて異なる産卵リズムを持つことや産卵期には内因性の半月周リズムを持つこと,また,半月周リズムを作る時計機構や生殖関連神経ホルモンの周期的発現調節には,クリプトクロームとメラトニンが関与していることがわかってきた。また,クサフグの松果体や間脳では,メラトニン受容体遺伝子が約15時間周期のウルトラディアン発現をすることが明らかになり,クサフグは概日時計と共に,概潮汐時計に関連する新規の時計を持つ可能性がある。概日時計と概潮汐時計があれば,半月周リズムを発振することができる。
著者
安東 宏徳
出版者
日本比較内分泌学会
雑誌
比較内分泌学 (ISSN:18826636)
巻号頁・発行日
vol.36, no.139, pp.265-267, 2010 (Released:2011-01-22)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1
著者
松田 恒平 高橋 明義 安東 宏徳
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

哺乳類における最近の知見によれば、摂食行動は、脳の視床下部で発現する多数の脳ペプチドによって促進的あるいは抑制的に制御されていることが判明してきた。しかしながら、摂食行動の複雑な調節を司る神経機構の進化の過程における変遷については、殆ど判っていない。本研究は、キンギョにおける摂食行動の制御機構を明らかにすること、および得られた知見と他の動物における制御機構とを比較検討して、摂食行動の脳制御機構の進化の変遷を考察することを目的とした。キンギョの摂食行動が生殖や情動に関わる脳ペプチドの影響も強く受けながら制御されることを見出した。哺乳類や鳥類の機構と大きく異なる機構の存在も見出され、摂食調節の脳制御機構が進化的に変遷してきた可能性が示唆された。
著者
安東 宏徳 服部 淳彦 西村 正太郎
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,単一LH細胞を用いてLHの合成と放出のバランスをとる分子メカニズムを明らかにすることである。まず始めに,溶血プラークアッセイ法を用いてサクラマスの下垂体初代培養細胞から単一LH細胞を同定すると共に,LH放出活性の定量系を確立した。また,単一LH細胞のLH合成活性を測定するため,LHβサブユニットのmRNA定量系をリアルタイムPCR法を用いて確立した。最小検出感度は約100コピーであり,単一細胞中のLHβサブユニットmRNAの定量には十分の感度を持っていた。また,遺伝子の転写活性を測定する系として,ヘテロ核RNAを検出するリアルタイムPCR系を検討した。単一細胞のヘテロ核RNAの測定には最小検出感度に近いレベルでの精度のよい測定が必要であることが分かり,より精度よく安定して測定できるようにさらなる条件検討を行うことが必要である。サクラマスを非産卵期と産卵期前に採集し,単一LH細胞の合成と放出の解析系を用いて性成熟段階の異なる魚におけるバランス制御系の機能の違いを調べた。溶血プラークアッセイによって同定されたLH細胞の数は,非産卵期の魚は産卵期前の魚に比べて少なく,放出活性が低かった。また,リアルタイムPCR法によって測定したLHβサブユニットのmRNAも非産卵期では低かった。しかし,GnRHに対する反応性を調べると,非産卵期ではGnRH投与により放出と合成の活性が上昇したが,産卵期前では放出は高まったが合成は変化しなかった。産卵期前ではLHβサブユニット遺伝子の発現調節に関わる細胞内シグナル伝達系のGnRH応答性が変化することが示唆された。次に,ディファレンシャルディスプレイ法の一つであるGeneFishing法を用いて,両時期のLH細胞の間で発現量の異なる遺伝子の探索を行ったが,これまでのところ候補遺伝子は得られていない。使用した任意プライマーの数が少ないためと考えられる。