- 著者
-
石川 一
- 出版者
- 広島女子大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1999
本研究の目的は、慈円の法楽歌群(諸社法楽百首歌八種及び日吉社法楽『慈鎮和尚自歌合』)を調査・収集した上で、和歌内容の分析・検討することにある。調査対象となる当該伝本は相当数存在しているが、その本文は多分に錯綜しており、極めて複雑な様相を呈している。また、諸社法楽百首歌の中には同時代歌人の競作が確認されるものがあるので広角的・多面的視野からの精密な考察が要求されるところである。平成11年度から四年に亘る調査・収集は全国の当該伝本の紙焼写真・マイクロフィルムが収蔵されている国文学研究資料館を中心に段階的に行い、概ね順調であったと言える。ただし、撮影・紙焼写真頒布などが許可されなかった伝本については費やした労力に見合うだけの成果が得られたかどうか判断に苦しむところである。今後、それらを反省材料として検討を重ね、次の分析段階へと進めてゆきたい。なお、一連の校合作業の基準となる青蓮院本本文については、先年の科学研究費「『拾玉集』の諸本分析による本文整定」(一般研究C、課題番号・05610359)によって整定作業が完了しているので、その基盤の下で百首内容の解析がある程度可能であったことは特筆しておきたい。さらに平成十年度文部省科学研究費補助金(研究成果公開促進費)によって刊行され、『拾玉集本文整定稿』(勉誠出版・平11)は学界に寄与している。本研究成果の一部として提出した小論「『慈鎮和尚自歌合』再考」は、科研費導入によって得られた新たな調査報告・見解と共に、前稿以降十年間の研究動向を併せて論述したもので、本学部紀要に掲載することができた。参考資料として、前稿「雙厳院蔵『日吉七社歌合』翻刻」(広島女子大学文学部紀要25号・平2)・同「校本『慈鎮和尚自歌合』」(同紀要23号・昭63)を合冊し、報告書とする。