著者
安部 計彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.187-194, 2005
参考文献数
6

乳幼児期に体験した虐待はその後の人生に大きな影響を及ぼし,心身症状を示す例も多い.未熟で無防備な子どもは,圧倒的な暴力で安全を脅かされ,長時間放置される中で,心身のバランスを崩しながら,歪んだ形でその場に適応している.その結果,虐待から逃れ,成長した後も人生の長期にわたって歪みは残り,心身のバランスは歪み,人との安定した関係を築けす,自他への暴力や攻撃的な言動が現れる.また他者から支配されることを嫌い,自他の人を信用していないため,援助関係の構築も困難になる.このような虐待が心身症状として現れるメカニズムやその対応法について報告する.筆者は長年児童相談所で,心理判定員および判定係長として子どもや家族の治療や心理的援助を担当し,また相談係長として介入や家族調整,地域や関係機関による援助体制の構築を行ってきた.また長年,心理治療の一つである箱庭療法について,九州大学病院心療内科の先生方と勉強会を続けてきた.今回はこれらの経験をふまえ,児童虐待と心身医療の関係について述べたい.
著者
大島 剛 安部 計彦 高木 裕子
出版者
神戸親和女子大学
雑誌
神戸親和女子大学研究論叢 = Review of Kobe Shinwa Women's University (ISSN:13413104)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.137-146, 2008-03-01

全国児童相談所の一時保護所担当心理士(以下一保心理士)の配置や役割の現状および,児童心理司が一保心理士の役割についてどのように考えているか,について調査検討を行った。自由記述を含む質問紙調査を行い,回答のあった122ヶ所の児童心理司,43ヶ所の一保心理士の結果を分析した。一保心理士は回答のあった75ヶ所中43ヶ所(57.3%)に配置され,うち女性31名(73.8%),平均年齢28.07歳,平均経験年数1年10ヶ月,36ヶ所(83.7%)で1人配置,非常勤37名(88.1%),週平均3.52日,1日平均6.56時間,有資格19名(44.2%),うち心理系資格13名(30.2%)であった。一保心理士の役割や業務はまだ明確に確立されていないが,「ア.一時保護所内の心理的業務(対子ども)」「イ.一時保護所内の心理的業務(対職員)」「ウ.一時保護所内の一般的業務」「エ.児童相談所の心理的業務」「オ.児童相談所の一般的業務」の5つの内容に分類して,児童心理司が考える理想と一保心理士の実際の状況のギャップを検討した。アとウが多く大筋では傾向は似ているが,一保心理士はより一時保護所内の直接的な業務にどっぷりと使っている傾向が見られた。一保心理士は非常に経験が浅い若手が中心であり,目の前の業務に追われているため,児童心理司ほど児童相談所の中の位置づけやその役割を十分に認識できにくい状況にあることも推測される。自由記述から,長いスパンで個別ケースの「これまでとこれから」を見ていく児童心理司と,集団の中の個として「今ここで」を大切に見ていく一保心理士の役割の違いが鮮明になった。
著者
加藤 曜子 安部 計彦 三上 邦彦 畠山 由佳子
出版者
流通科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

わが国で扱う児童虐待事例の半数はネグレクトであり、その多くは子どもが親と住み続ける。そのため市町村ベースにした虐待再発防止のための支援のあり方が重要な課題となる。本研究においては、1.地域ネットワークが活発な10都市で在宅支援するネグレクト163事例について、在宅アセスメント指標項目及び社会資源項目を利用し量的分析を実施した。虐待の程度、支援期間、親の問題意識、要保護児童対策地域協議会支援から分析した。ネグレクト事例の86.5%は中度以下で支援期間は長かった。児童は総じて年齢が上がるについて心身や行動状況は悪化していた。親の問題意識が乏しく拒否的であれば、支援ネットワークが組まれにくく、適切なサービスが届きにくかった。2.質的分析では成功事例を分析し援助プロセスを明確にした。3.以上から要保護児童・ネグレクト家庭への支援の基本姿勢、支援のために必要な社会資源を分類、重症度からみた支援領域、要保護児童対策地域協議会の支援ネットワークとしてかかわる関係機関連携を年齢別に16タイプ提出した。