著者
室岡 義勝 山下 光雄
出版者
日本乳酸菌学会誌
雑誌
日本乳酸菌学会誌 = Journal of Japan Society for Lactic Acid Bacteria (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.72-79, 2003-12-01
参考文献数
25
被引用文献数
2

フィリピンの発酵食品「Burong Isda」よりデンプン分解能を有する乳酸菌を分離し,<I>Lactobacillusplplantarum</I>Ll37と命名した。このL137株は,15種類のプラスミドを保持し,その一部を欠失した株は,アミラーゼ分解能を失った。熱殺菌したL137株は他の乳酸菌株と比べ, 顕著にIL-12およびinter feron-γを誘導し,anti-casein IgEを抑制した。これは,乳酸菌がアレルギー脱感作する可能性をIL-12レベルで示した最初の報告である。また,L137株は移植ガン抑制作用を持ち,IL-12誘導と相関性があることが示された。この乳酸菌の有効利用を目的として,発現ベクターの開発をした。この過程で,脂肪酸合成の第1段階であるアセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子群の<I>acc</I>オペロンを発見し,乳酸菌の脂肪酸要求の特徴を明らかにした。乳酸菌由来<I>acc</I>や<I>ldh</I>プロモーターを利用して,コレステロール酸化酵素遣伝子およびダニアレルゲン遺伝子の発現に成功した。<BR>この様に,乳酸菌に新機能を付与することにより,コレステロール分解を促進する株あるいは,アレルギーの減感作に役立つなど,高機能プロバイオティクス細菌を創生する糸口が得られた。
著者
森永 力 田沢 栄一 室岡 義勝
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

コンクリートの腐食劣化といえば従来,酸,アルカリ,塩類などによる化学的腐食を示すのが一般的であった.しかし,近年国内においてコンクリート構造物の微生物腐食が下水道関連施設などで相次いで報告されるようになってきた.そして,この劣化の機構は以下のとおりである.下水中の有機物が微生物により分解され酵素が消費されて下水が嫌気性になると,偏性嫌気性菌である硫酸還元菌の活性が高まり,下水中に含まれる硫酸塩を硫酸還元菌が還元して硫化水素を多量に生成する.生成した硫化水素は気相中に放出され,結露水や飛沫水中に溶解し,硫黄酸化細菌によって酸化されて硫酸となり,この硫酸によりコンクリートが腐食,劣化するというものである.我々の研究の結果,これらの機構とは異なった機構でもコンクリートの劣化の起こることが明らかとなった.すなわち,本研究の結果,好気的条件下で分離,培養した硫化水素生成細菌および硫黄酸化細菌の作用によりモルタル供試体からカルシュウムが溶出することが明となった.また,本研究で用いた微生物において,これらの溶出を引き起こす因子は主に酢酸およびプロピオン酸,炭酸であることが明かとなった.嫌気性細菌が一因を担う,下水道関連施設で問題になっているようなコンクリートの激しい劣化は再現することができなかったが,コンクリート構造物が微生物活性の高い環境下におかれることによって,好気的な条件だけでも微生物の呼吸作用を含めた代謝産物によりコンクリートが劣化することが明かとなった.
著者
室岡 義勝 南澤 究 阿部 美紀子 久松 真 山田 隆 山下 光雄 NANTAKORN Boonkerd NEUNG Teaumroong NAZALAN Najimudin NGUEN Huuhiep HARUMASTINI Sukiman BAYANIM Espiritsu
出版者
広島工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本、タイ、マレーシア、インドネシア、フイリッピンおよびベトナムの科学者が、東南アジア各地域の植物と共生する窒素固定細菌・微細藻類および菌根菌を採取して、持続的バイオマス生産への効果を調査・研究した。共生微生物をバイオコンポストとして用いた結果、イネやマメ科作物などの食糧生産、デンプンやセルロース資源バイオマスの生育促進およびヤシ油・ジャトロファ油の増産を促した。共生微生物によって、エコシステムが構築され化学肥料の削減をもたらした。ここに、持続的食料およびバイオマス資源生産に共生微生物を積極的に利用することを提言する。
著者
山下 光雄 室岡 義勝 小野 比佐好 林 誠 山下 光雄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

マメ科植物と根粒菌との共生系を利用して、生物的窒素固定能に加えて重金属集積などの有用機能を付与し発現する共生工学基盤技術を構築し、環境浄化に応用する目的で下記の研究を行った1.共生工学基盤技術の開発:共生分子遺伝機構を解明するため、マメ科モデル植物のミヤコグサを用いて共生状態と非共生状態における遺伝子発現の違いをマクロアレー技術を用いて測定した。2.メタロチオネイン4量体遺伝子およびファイトケラチン合成酵素遺伝子の根粒バクテロイド内での発現:メタロチオネイン4量体遺伝子とアラビドプシスより分離したファイトケラチン合成遺伝子をベクターにつないでレンゲソウ根粒菌Mesorhizobium fuakuii subsp. rengeiに導入し、この組換え根粒菌をレンゲソウ種子に感染させ根粒を形成させた。インサイチュハイブリダイゼーションにより根粒バクテロイド内で両遺伝子が発現していることが観察された。3.根粒バクテロイドの輸送系の改変による植物組織への物質移動の試み:上記遺伝子を導入した組換え根粒菌は、野性株に比べて20倍のカドミウムの取り込みを示したが、この組換え菌をレンゲソウに接種して、根粒を形成させたところ、組換え根粒では野生型根粒の1.5-1.8倍のカドミウム蓄積にとどまった。これは根粒内への重金属取り込み能の不足と考えられた。そこで、金属イオンの膜透過に関与するシロイヌナズナのIRT1(iron-regulated transporter)遺伝子を取得し、上記組換え根粒菌株に組み込んだ。IRT1遺伝子を組み込んだ根粒菌はカドミウムを1.5倍近く取りこんだ。そこで、この組換え根粒菌をレンゲソウに感染させ、根粒を形成させた。4.創生レンゲソウの重金属集積能試験:B3:PCS(IRT1)を感染して根粒形成させたレンゲソウを、カドミウムを含む人工土壌で生育させ、植物組織各部位のカドミウム濃度を測定した。その結果、IRT1遺伝子発現によるカドミウム集積能には差が見られなかった。したがって、根粒内における根粒菌によるカドミウム集積の限定要因は、植物細胞によるものだと考えられた。5.土壌のファイトレメディエーション:稲田の土壌を用いて組換えレンゲソウを栽培して、カドミュウム浄化能を試験した。非組換え根粒菌を感染させたレンゲソウでは、汚染人工土壌中のカドミウム取り込み効率が約0.4%であったのに対して、MTL4およびAtPCSの2つの重金属結合遺伝子を組み込んだ根粒菌を感染させたレンゲソウは、同程度のカドミウムに汚染されたフィールド土壌中のカドミウムを約9%も吸収していた。