著者
室崎 生子 小伊藤 亜希子 中島 明子 上野 勝代 吉村 恵 松尾 光洋
出版者
平安女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

建築・都市計画分野における女性の専門職比率、昇格実態などを把握するために、14年度に都道府県を対象に、15年度には、東京23区を対象に、アンケート調査を実施し、社会進出状況と昇格における男女差の実態を把握した。建築・都市計画分野における女性の専門職の採用は近年、増加の傾向にあることは把握できたが、建築・都市計画分野における女子学生の増加率に比べれば、その増加を反映したものとはなっていないといえる。また、昇格に対しては男女差別が存在しており、等しく昇格試験が受けられる自治体と不明瞭なところとがある。大学における教員比率についても、女子学生の増加に対応したものとなっていないこともわかっており、採用や昇格における改善はエンパワメント政策上の課題であることが確認できた。また、国外比較事例として、1年度は韓国、2年度はイギリス、フィンランドを対象とし、ジェンダーエンパワメントの実態を調査した。いずれの国でも建築・都市計画分野において女性が増加してきており、先進的に活躍する女性たちが存在することが感じられたが、いずれの国においてもジェンダーによる影響が皆無ということはなく、引き続き国際的にも課題であることも確認できた。女性政策や社会の発展からすると後発とも言える韓国は、民主化政策の中で急速に女性政策が進展した国である。韓国調査からは、有効な政策を打つことで、エンパワメントがはかれることが示唆された。ジェンダーエンパワメントが高いフィンランドでは、福祉制度や女性政策が進んでおり、働く環境がととのっていることが、初期から中期のポストでの差がない状態を生んでいることが理解できた。また、養成課程での女性比率が社会進出に反映するなどエンパワメントの実態を目の当たりにすることができた。イギリスにおいては、女子学生の増加に見合った女性建築職の進出の場や活躍の場が少ないなど日本の状況とにており、社会的に活躍できにくい状況の解明調査に取り組んでいるところであった。民間企業に勤める建築専門職の実態調査等が、今後の課題としてのこった。労働政策、福祉政策、女性政策等の連携なしに建築専門職分野のエンパワメントもありえず、総合的視野からの改善ときめ細かなところからの支援改善を連携する提言をしていくことが課題である。
著者
小伊藤 亜希子 上野 勝代 中島 明子 松尾 光洋 室崎 生子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.39, pp.68-73, 2004-10-25
参考文献数
1
被引用文献数
2

女性が仕事を続け、責任ある地位にも昇級し、女性の視点を生かして建築・都市計画分野の仕事に貢献するための条件を探ることが、本研究の目指すところである。本稿は、都道府県の建築・都市計画分野における建築職女性の進出状況の量的な把握と女性の働く職場環境の実態を明らかにした。近年、当分野で働く女性が増加し働く環境も改善されつつあるが、昇級に関しては今なお男女差が存在し、女性が責任ある地位につき能力を発揮できているとは言えない。一方、家庭と仕事の両立に奮闘している女性が、家庭生活の中で身につけた細やかな生活者の視点が、主に住宅設計に関わる分野で発揮されることが期待されていることがわかった。
著者
片方 信也 佐々木 葉 小伊藤 亜希子 室崎 生子
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1 中高層集合住宅の建設動向:京都市都心部では、バブル期についで1993年以降再び中高層集合住宅の建設ラッシュに見舞われている。1993年以降の特徴は、分譲、および9階建て以上の高層の割合いが増えていることであるが、敷地規模は依然として多くが400m^2以下であり、周辺の町並みの日照を奪っている。2 都心部中高層分譲集合住宅入居者の特性:1993年以降では3〜4000万円台と分譲価格が下がっているため、子どものいる世帯を含めて多様な世帯の入居がみられる。全体の7割は京都市内からの転入であり、うち半数は都心部内からである。6割の世帯に現在、または以前に都心部に住んでいた親族がおり、都心部とのコネクションの強い住民の入居が多いことがわかった。3 中高層集合住宅に対する周辺住民の対応:中高層集合住宅の建設に対して、日照やプライバシーの侵害、ビル風等の実施的な被害に加え、周辺住民が多大な不安を示していることがわかった。それは、マナーが悪い、だれが住んでいるかわからない、といったコミュニティ形成上の問題である。また、中高層集合住宅建設時に町内会として業者と交渉したり、建築協定を作って対応するといった積極的な動きがみられる。4 中高層集合住宅の立地する町内のコミュニティ形成:集合住宅自治会として町内会に属し、町内会の行事にも参加しているケース、管理人だけが町内会とのつなぎをしているケース、まったく別組織にしているケースなど、集合住宅の町内会との関係は様々であった。概して、集合住宅住民と周辺既存住民の交流は薄く、周辺環境を破壊する集合住宅の建て方がコミュニティ形成のひとつの疎外要因になっている。5 京都市都心部の地域ストックの享受と破壊:周辺既存住民と同様に、集合住宅入居者も、生活のしやすさ、便利さ、歴史や文化の存在、自然環境等、京都の都心部の「京都らしい」環境を評価して入居しているが、現在のような中高層集合住宅の建設は、その環境を破壊しつつあるという矛盾を抱えている。