著者
宮澤 僚 礒 良崇 田代 尚範 鈴木 洋 林 宗貴 宮川 哲夫
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.93-98, 2021-03-01 (Released:2021-03-01)
参考文献数
19

【目的】生存退院した48時間以上の人工呼吸器装着患者における退院時自立歩行獲得の関連因子を明らかにする。【方法】2016年6月から2017年10月までの期間に,当院に入院し,生存退院した48時間以上の人工呼吸器装着患者81名を対象とした。退院時自立歩行獲得に関連する因子をICU退室時に診療録から得られた情報で後方視的に検討した。【結果】自立群と非自立群では,年齢,functional comorbidity index(FCI),ICU退室時のせん妄とfunctional status score for the ICU(FSS-ICU)に有意差を認めた(P<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果,ICU退室時FSS-ICU(OR:1.21,95%CI:1.09〜1.34,P<0.01)とFCI(OR:0.62,95%CI:0.40〜0.95,P=0.02)が自立歩行獲得の独立した関連因子であった。【結論】生存退院した長期人工呼吸器装着患者の自立歩行獲得には,ICU入室時の疾病の重症度よりも,ICU退室時の基本動作能力と機能的併存症が関連していた。
著者
宮川哲夫
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.208-216, 1988
被引用文献数
3

近年, 呼吸不全の病態形成に関与する呼吸筋疲労や, 呼吸筋の特性も除々に解明されつつある。そこで, 最近のトピックスについて, 1. 呼吸筋の運動学, 2. 呼吸筋の力学的特性, 3. 呼吸筋の収縮特性, 4. 呼吸筋力・耐久力の評価, 5. 呼吸筋疲労, 6. 呼吸筋トレーニング, 1)筋力トレーニング, 2)耐久力トレーニング, (1)過換気法, (2)吸気抵抗負荷法, (3)運動療法について述べた。呼吸筋も四肢筋と同じような特性を持ち, 四肢筋同様, 強化することができる。その強化方法も四肢筋の強化方法に準じて行われる。例えば, 筋力を目的に強化するためには, 高張力, 低頻度の刺激がよく, 耐久力を強化するためには低張力・高頻度の刺激強度が適している。しかし, その方法については十分に確立されていないのが現状であり, 至的負荷強度を確立するためには, 今後, 系統的な研究が望まれるところである。
著者
千葉 慎一 関屋 曻 宮川 哲夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.58-67, 2019 (Released:2019-08-10)
参考文献数
26

脊柱の運動は上肢挙上運動に直接的に影響し,また,肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の協調運動に間接的に影響すると考えられ,その運動機能の低下は肩関節障害を招く原因となりうる.したがって,脊柱の運動機能の改善を図ることが,肩関節疾患患者に対する治療手段の一つとなることが予想される.本研究の目的は,①上肢挙上運動時の胸椎,腰椎,骨盤運動の関与をキネマティクス的に明らかとすること,②各セグメント間の協調関係を明らかにすることである.対象は肩関節および体幹に外傷や疾患の既往のない健常者(男性9名,年齢:22歳〜37歳,平均 28.4±5.8歳)である.被験者に自然な椅座位で肩関節の両側同時屈曲および同時外転を最終可動域まで挙上させ,VICON社製三次元動作解析装置(VICON MXシステム)を用いて肩関節屈曲および外転運動時の胸椎伸展角度,腰椎伸展角度および骨盤前傾角度を計測した.統計学的処理は,肩関節屈曲角度と外転角度を要因として,胸椎伸展角度,腰椎伸展角度,骨盤前傾角度に関する一要因反復測定分散分析を行った.また,ピアソンの相関係数を用いて各セグメント間の相関分析を行った.分散分析の結果,胸椎は肩関節屈曲運動に伴い2次関数的に伸展し,最終的に約7°伸展し,胸椎伸展角度に上肢屈曲角度の主効果が認められた.腰椎は屈曲75°までに約3°伸展したが,屈曲80°から140°までの間には約2°屈曲し,上方凸の2次関数的変化を示し,腰椎角度に屈曲角度の主効果が認められた.骨盤は運動前半にはほとんど動かず,後半にわずかに前傾し,骨盤前傾角度に肩関節屈曲角度の主効果が認められた.肩関節外転運動では,胸椎は運動開始直後から直線的に約10°伸展し,胸椎伸展角度に肩関節外転角度の主効果が認められた.腰椎と骨盤には肩外転角度との関係は認められなかった.相関分析の結果,肩関節屈曲運動において,肩関節屈曲動作中に腰椎が屈曲するときに骨盤は前傾する傾向(r=−0.380)を,胸椎が伸展するときに腰椎は屈曲する傾向(r=−0.618)を,胸椎が伸展するときに骨盤は前傾する傾向(r=0.688)を示した.肩関節外転運動において,腰椎は屈曲するときに骨盤が前傾する傾向(r=−0.463),胸椎が伸展するときに腰椎は屈曲する傾向(r=−0.306),胸椎が伸展するときに骨盤が前傾する傾向(r=0.218)が認められた.上肢挙上動作には胸椎,腰椎,および骨盤の運動がそれぞれ関連しあいながら関与することが確認された.特に胸椎の伸展運動は上肢挙上運動に直接的に寄与するとともに,肩甲骨の運動に必要な運動面を形成することに寄与するが,腰椎および骨盤の運動は,上肢挙上に伴う上半身重心位置の変化に対応するための代償的運動であることが示唆された.
著者
鵜澤 吉宏 金子 教宏 田代 尚範 宮川 哲夫 田中 一正 押味 由香
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.67-70, 2007-04-27 (Released:2017-04-20)
参考文献数
11

3学会合同呼吸療法認定士が,資格取得後どのように呼吸療法へかかわっているかについて全国規模のアンケート調査を実施した.回答者の意見として資格の取得を通じた学習で知識の向上は得られたと感じているが,業務への反映が不十分であること,呼吸療法業務に従事していない者が多くみられた.本制度への今後の希望は資格制度の発展への期待が最も多く,続いて職場環境の充実,教育体制の確立などの意見もみられた.
著者
宮川 哲夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.135, 2006-02-01

James Marion Sims(1813~1884)は,南カリフォルニアに生まれ,初めチャールストンで,その後フィラデルフィアのジェファーソン医科大学で,医学を学んだ.Simsは「婦人科学の父」と呼ばれており,ニューヨークのセントラルパークに,その銅像が建立されている.Simsの主な業績は,1858年に銀線縫合による膀胱膣瘻治療に成功し,子宮頸部切断術(1861),胆囊水腫に対する胆囊摘出術(1870)などで,婦人科学や一般外科学の領域において貢献がある.シムス圧子,シムス膣鏡(1845)の創案者でもあり,シムス体位(図1)を考案した1).しかし,Simsは黒人の奴隷を対象に,膀胱膣瘻の手術を麻酔なしで施行したことから,倫理的な問題があるとされ英雄ではなく悪党と批判されたこともある2).1850年にはニューヨーク婦人科病院を設立し,1860年代には,王族の治療のためヨーロッパに度々渡り,ナポレオン三世の妻も治療している.1876年にはアメリカ医学協会長となり,アメリカ婦人科協会を設立し初代会長となった. シムス体位は,原本では左側臥位で,左上肢を後方に左胸を床面につけ,左股関節・左膝関節を軽く屈曲し,右股関節・右膝関節を強く屈曲させ,右大腿を胸壁に接近させた体位である.この体位では,後方から膣に容易に達することができ,脱出臍帯の還納術,膣・直腸診,妊娠中期の腰痛の予防,分娩第1期に用いられる.分娩第1期第2分類の場合には右シムス体位により,胎児(重心は脊柱にある)は,重力の影響で背部が下に回りやすいのでこの体位を用い,正常分娩進行の行程に導入されている.また,意識障害者の吐物の誤嚥の予防に用い,その際には左右どちらでも用いるが,上側の手の甲を枕にして頬部をのせた体位をとり,昏睡体位という.Simsによるとこの体位は,肥満女性の落馬による骨盤損傷に伴う子宮後傾の疼痛緩和のために,上側の膝を胸に着くように深く屈曲させ,会陰部に圧を加え触診した結果,膣にたくさんの空気が入り,膣が拡張し子宮が前傾位に戻ったとし,その後,膀胱膣瘻治療にこの体位を用いている1).
著者
宮川 哲夫 高橋 仁美
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.177-182, 2005-06-20

人口の高齢化, 喫煙, 環境の変化に伴い慢性閉塞性肺疾患(COPD)は, 世界的に増加の傾向にある。世界的なCOPDの治療ガイドラインもまとめられ, 呼吸リハビリテーションは包括的内科治療と供に治療の第一選択であり, そのエビデンスも十分に確立されてきている。一方, COPDを中心とした慢性呼吸不全の在宅呼吸ケアには, 在宅酸素療法(HOT)と在宅人工呼吸療法(HMV)があげられるが, いずれも生活支援を行い, 日常生活機能を改善させ, 健康関連QoL(HRQoL)を改善させる包括的な呼吸リハビリテーションの一環として実施されなければならない。ここでは在宅呼吸リハビリテーションについて概説する。COPDの疫学 2001年に行われたNICE(Nippon COPD Epidemiological)study(日本慢性閉塞性肺疾患疫学調査)によれば, 我が国でのCOPDの発症率は40歳以上で8.5%およそ530万人と推定されており, 2000年には初めて死亡原因の第10位となった。現在, COPDは世界の死亡原因の第4位であり, 有病率や死亡率は数十年の間にさらに増加し, 2020年には第3位と予想されている。