- 著者
-
千葉 慎一
関屋 曻
宮川 哲夫
- 出版者
- 昭和大学学士会
- 雑誌
- 昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
- 巻号頁・発行日
- vol.79, no.1, pp.58-67, 2019 (Released:2019-08-10)
- 参考文献数
- 26
脊柱の運動は上肢挙上運動に直接的に影響し,また,肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の協調運動に間接的に影響すると考えられ,その運動機能の低下は肩関節障害を招く原因となりうる.したがって,脊柱の運動機能の改善を図ることが,肩関節疾患患者に対する治療手段の一つとなることが予想される.本研究の目的は,①上肢挙上運動時の胸椎,腰椎,骨盤運動の関与をキネマティクス的に明らかとすること,②各セグメント間の協調関係を明らかにすることである.対象は肩関節および体幹に外傷や疾患の既往のない健常者(男性9名,年齢:22歳〜37歳,平均 28.4±5.8歳)である.被験者に自然な椅座位で肩関節の両側同時屈曲および同時外転を最終可動域まで挙上させ,VICON社製三次元動作解析装置(VICON MXシステム)を用いて肩関節屈曲および外転運動時の胸椎伸展角度,腰椎伸展角度および骨盤前傾角度を計測した.統計学的処理は,肩関節屈曲角度と外転角度を要因として,胸椎伸展角度,腰椎伸展角度,骨盤前傾角度に関する一要因反復測定分散分析を行った.また,ピアソンの相関係数を用いて各セグメント間の相関分析を行った.分散分析の結果,胸椎は肩関節屈曲運動に伴い2次関数的に伸展し,最終的に約7°伸展し,胸椎伸展角度に上肢屈曲角度の主効果が認められた.腰椎は屈曲75°までに約3°伸展したが,屈曲80°から140°までの間には約2°屈曲し,上方凸の2次関数的変化を示し,腰椎角度に屈曲角度の主効果が認められた.骨盤は運動前半にはほとんど動かず,後半にわずかに前傾し,骨盤前傾角度に肩関節屈曲角度の主効果が認められた.肩関節外転運動では,胸椎は運動開始直後から直線的に約10°伸展し,胸椎伸展角度に肩関節外転角度の主効果が認められた.腰椎と骨盤には肩外転角度との関係は認められなかった.相関分析の結果,肩関節屈曲運動において,肩関節屈曲動作中に腰椎が屈曲するときに骨盤は前傾する傾向(r=−0.380)を,胸椎が伸展するときに腰椎は屈曲する傾向(r=−0.618)を,胸椎が伸展するときに骨盤は前傾する傾向(r=0.688)を示した.肩関節外転運動において,腰椎は屈曲するときに骨盤が前傾する傾向(r=−0.463),胸椎が伸展するときに腰椎は屈曲する傾向(r=−0.306),胸椎が伸展するときに骨盤が前傾する傾向(r=0.218)が認められた.上肢挙上動作には胸椎,腰椎,および骨盤の運動がそれぞれ関連しあいながら関与することが確認された.特に胸椎の伸展運動は上肢挙上運動に直接的に寄与するとともに,肩甲骨の運動に必要な運動面を形成することに寄与するが,腰椎および骨盤の運動は,上肢挙上に伴う上半身重心位置の変化に対応するための代償的運動であることが示唆された.