著者
伊藤 健司 茂田 哲郎 岡田 章代 小曾根 裕之 千葉 慎一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF2077, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】 肩の運動を構成する要素の中で肩甲骨の動きは重要である。肩甲骨は胸郭上に浮遊している特徴をもつため、胸郭の柔軟性・頭位・脊柱の可動性さらに骨盤・下肢からの影響も無視できない。また臨床において頭部前方位姿勢(FHP)が肩甲胸郭関節の機能不全を引き起こしていると思われる症例をよくみかけるが、肩甲胸郭関節の機能不全に対して頭部の位置をいわゆる良い姿勢(耳垂のやや後方からの垂線が肩峰を通る)へ促すアプローチをすることにより機能不全が改善することを多く経験する。しかし頭部の位置と肩甲帯の動きの関係性についての報告は少ない。 我々は第45回本学術大会において肩甲帯屈曲・伸展の骨盤前後傾による影響を報告した。骨盤前傾位が後傾位に比べると肩甲帯屈曲・伸展ともに有意に可動域が大きい結果となった。今回は頭部前方位姿勢と良い姿勢での頭部の位置変化により肩甲帯屈曲・伸展角度に違いがでるのかどうか明らかにすることが本研究の目的である。【方法】 対象は肩関節に既往のない20歳から30歳代の男性7名13肩(平均年齢25.6±3.0歳)とした。プラットフォーム上端座位で良い姿勢と頭部前方位姿勢のそれぞれで肩甲帯屈曲・伸展を左右3回ずつ自動運動にて日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が制定する関節可動域検査法(以下、従来の方法)で測定した。従来の方法は我々が第44回本学術大会において報告し、評価の信頼性を得ることができている。頭部前方位姿勢は被験者に対して端座位にて前方を注視させたまま頭部を前方に突出させ、最大頭部前方位姿勢となった状態と定義した。また良い姿勢とは被験者に対して端座位にて耳垂のやや後方からの垂線が肩峰を通り軽く顎を引いた姿勢と定義した。 統計処理は、対応のあるt検定を用いて、良い姿勢での肩甲帯屈曲・伸展と頭部前方位姿勢での肩甲帯屈曲・伸展をそれぞれ検討し、有意水準を5%未満とした。【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき対象者に対して研究の趣旨と内容、得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと、および個人情報漏洩に注意することについて十分な説明のうえ同意を得て行った。【結果】 良い姿勢での肩甲帯可動域は右屈曲26.7±5.7度、右伸展22.3±6.7度、左屈曲26.4±5.6度、左伸展24.2±10.3度であった。頭部前方位姿勢での肩甲帯可動域は右屈曲20.7±3.1度、右伸展14.5±7.4度、左屈曲21.9±4.8度、左伸展17.5±7.4度であった。良い姿勢と頭部前方位姿勢での肩甲帯屈曲・伸展の可動域はともに有意差が認められた。良い姿勢の方が頭部前方位姿勢と比較すると肩甲帯屈曲・伸展ともに有意に可動域が大きい値を示す結果となった(p<0.05)。【考察】 今回の結果から頭部前方位姿勢の方が良い姿勢に比べ肩甲帯屈曲・伸展可動域がともに小さいことが分かった。頭部前方位姿勢は2パターンあることが確認された。1パターンは円背様の姿勢で骨盤後傾を伴い胸腰椎後弯し頭部が前方に変位する姿勢。2パターン目は骨盤の動きは少なく頭部が前方に変位し肩甲骨内転位でバランスを保っているような胸椎伸展傾向の姿勢である。どちらのパターンも頭部を前方位に保持するため肩甲帯が姿勢調節に関与し、肩甲帯の動きが少なくなったのではないかと考えた。円背様の姿勢では胸椎後弯し肩甲帯が屈曲位で姿勢を保持しバランスを保っているため、肩甲帯屈曲・伸展ともに可動域が減少したのではないかと推察された。2パターン目の姿勢でも肩甲帯を内転位にすることでバランスを保っているために、肩甲帯屈曲・伸展のともに可動域が減少したのではないかと推察された。 頭部を前方に変位させると人それぞれで姿勢を制御し、身体を使いやすいように動かしているので臨床においてはそれぞれに対して使い方を少しでも変えるアプローチをすることで機能不全が改善できるのではないかと思う。 我々が第45回本学術大会で報告した内容と併せて考えると頭部の位置や骨盤・脊柱の肢位変化は肩甲帯の可動性に影響すると改めて確認することができた。 今後の課題として肩甲帯屈曲・伸展のみの動きのだけではなく、さまざまな肩甲骨の動きと頭部・脊柱・骨盤の肢位の関係を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 頭部の位置が肩甲帯の動きに影響するのかどうかを調べることにより、臨床的に肩関節疾患を評価・治療をする際、頭部の位置を考慮にいれて理学療法を行うことの科学的な根拠を提示することができた。
著者
宮入 徹 服部 遊 村越 弘章 小澤 佳佑 田中 謙介 千葉 慎一郎
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18845258)
巻号頁・発行日
pp.TJSKE-D-20-00060, (Released:2021-04-22)
参考文献数
20

In many ball games, research on the sound quality of the sound generated when hitting a ball is underway. This is because the comfort of the impact sound exists as an important factor for athletes. In this study, we investigated the elements necessary for the comfortable impact sound, targeting the impact sound of badminton. In the experiment, the impression of the impact sound reproduced from the headphones was evaluated by the SD method. As a result, it was found that the impression of impact sound can be expressed by Beautiful & Metallic, Powerful and Spatial Factor. In addition, it was suggested that the Beautiful & Metallic Factor might be associated with the elastic performance in badminton competition, and the Powerful Factor might be associated with the flying performance. Furthermore, we examined acoustical characteristics that correlate well with each factor, and constructed the sound quality estimating model for the impact sounds.
著者
尾崎 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 西中 直也 筒井 廣明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101619, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】古くから諸家によって肩関節機能に関する研究がなされてきている。腱板機能訓練に関しては筒井・山口らの報告を契機に多くの訓練方法が用いられ、近年では肩甲骨の機能が注目され、肩関節求心位を得るための訓練方法が多々報告されている。しかし、肩関節の動的安定化機構である腱板を構成する各筋が肩関節求心位を保つための機能について報告しているものは渉猟した限りでは見つからない。今回、腱板断裂症例の腱板機能を調査し、肩関節求心位を保持する腱板機能について興味ある知見が得られたので報告する。【方法】2011年9月末までの2年間に当院整形外科を受診し、初診時に腱板断裂と診断された症例のうち、「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像を撮影し、手術した症例35名(年齢60.8歳±12.7、男性19名・女性16名、罹患側 右22名・左13名)について、術前MRI所見および手術所見からA群(棘上筋単独断裂 23名)、B群(棘上筋+棘下筋断裂 5名)、C群(肩甲下筋を含む断裂 7名)の3群に分類した。 「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち肩甲骨面上45度挙上位無負荷像を用い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、関節窩と上腕骨頭の適合性について、富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は任意の垂線に対する上腕骨および関節窩の角度を計測し、関節窩と上腕骨頭の適合性は、関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として関節窩に対する上腕骨頭の位置関係を計測した値を腱板機能とした(正常範囲-1.11±2.1、大和ら1993)。統計学的処理は、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ²検定を用いて危険率5%にて行い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、腱板機能について3群を比較検討し、さらに腱板機能については正常範囲を基に3群間で比較検討した。【説明と同意】当院整形外科受診時に医師が患者の同意を得て診療放射線技師によって撮影されたレントゲン像を用いた。なお、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。【結果】測定平均値をA群、B群、C群の順で示す。上腕骨外転角度(度)は43.59±8.84、45.64±7.04、33.83±7.54、肩甲骨上方回旋角度(度)は10.17±13.46、0.96±5.02、24.87±22.92であり、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度については3群間で有意差は認められなかった。腱板機能は-0.75±4.76、5.44±12.61、7.84±5.07であり、3群間で有意差は認められ(p=0.007)、なかでもC群はA群と比較して関節窩に対して骨頭の位置が上方に移動していた(p=0.0008)。腱板機能について正常範囲を基に各群間で比較した結果、A群では正常範囲に入るものが23名中10名(43.5%)であり、関節窩に対して骨頭が上方に移動しているもの、下方に移動しているものがそれぞれ26.1%、30.4%あったが、B群、C群では正常範囲に入るものが0%、14.3%であった。B群は骨頭の上方移動および下方移動を呈するものが半数ずつであったが、C群では7名中6名(85.7%)が骨頭の上方移動を呈しており、有意差が認められた(p=0.03)。【考察】腱板断裂の指標として用いられる肩峰骨頭間距離は下垂位前後像で計測し、その狭小化を認める症例は腱板断裂の疑いがあるとされているが、今回用いた機能的撮影法は肩甲骨面上45度拳上時における肩甲骨と上腕骨の位置関係を調査している。 当院では、肩関節疾患患者に対し理学療法実施時に疼痛誘発テストとして肩甲骨面上45度挙上位での徒手抵抗テストを行ない、理学療法プログラム立案の一助としているが、このテストと同一の撮影肢位であるレントゲン像を用い、腱板断裂症例の腱板機能を断裂腱によって分類して調査することによって肩関節の求心位に作用する筋が明らかになると考えた。その結果、棘上筋の単独断裂では約半数は正常範囲にあり、残りの半数および棘下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭が上方あるいは下方へと移動するが、肩甲下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭の上方移動が認められたことから、肩甲下筋の機能不全が肩関節求心位に大きく影響することが示唆された。また、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は各群間で差がなかったことから、腱板機能不全を呈する症例は上腕骨を空間で保持するために肩甲骨が様々な反応を示すことが推測でき、前回報告した結果を裏付けするものと考える。 臨床上、肩甲下筋を選択的に収縮させることによって肩関節可動域が改善する症例を経験するが、肩甲帯の土台である肩甲骨の機能はもちろんのこと、腱板機能不全に対し肩関節求心位を確保するために選択する理学療法プログラムは肩甲下筋を考慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から肩関節疾患症例に対しておこなわれる腱板機能に関する理学療法プログラム立案を再考する必要性が示唆された。
著者
千葉 慎一 関屋 曻 宮川 哲夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.58-67, 2019 (Released:2019-08-10)
参考文献数
26

脊柱の運動は上肢挙上運動に直接的に影響し,また,肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の協調運動に間接的に影響すると考えられ,その運動機能の低下は肩関節障害を招く原因となりうる.したがって,脊柱の運動機能の改善を図ることが,肩関節疾患患者に対する治療手段の一つとなることが予想される.本研究の目的は,①上肢挙上運動時の胸椎,腰椎,骨盤運動の関与をキネマティクス的に明らかとすること,②各セグメント間の協調関係を明らかにすることである.対象は肩関節および体幹に外傷や疾患の既往のない健常者(男性9名,年齢:22歳〜37歳,平均 28.4±5.8歳)である.被験者に自然な椅座位で肩関節の両側同時屈曲および同時外転を最終可動域まで挙上させ,VICON社製三次元動作解析装置(VICON MXシステム)を用いて肩関節屈曲および外転運動時の胸椎伸展角度,腰椎伸展角度および骨盤前傾角度を計測した.統計学的処理は,肩関節屈曲角度と外転角度を要因として,胸椎伸展角度,腰椎伸展角度,骨盤前傾角度に関する一要因反復測定分散分析を行った.また,ピアソンの相関係数を用いて各セグメント間の相関分析を行った.分散分析の結果,胸椎は肩関節屈曲運動に伴い2次関数的に伸展し,最終的に約7°伸展し,胸椎伸展角度に上肢屈曲角度の主効果が認められた.腰椎は屈曲75°までに約3°伸展したが,屈曲80°から140°までの間には約2°屈曲し,上方凸の2次関数的変化を示し,腰椎角度に屈曲角度の主効果が認められた.骨盤は運動前半にはほとんど動かず,後半にわずかに前傾し,骨盤前傾角度に肩関節屈曲角度の主効果が認められた.肩関節外転運動では,胸椎は運動開始直後から直線的に約10°伸展し,胸椎伸展角度に肩関節外転角度の主効果が認められた.腰椎と骨盤には肩外転角度との関係は認められなかった.相関分析の結果,肩関節屈曲運動において,肩関節屈曲動作中に腰椎が屈曲するときに骨盤は前傾する傾向(r=−0.380)を,胸椎が伸展するときに腰椎は屈曲する傾向(r=−0.618)を,胸椎が伸展するときに骨盤は前傾する傾向(r=0.688)を示した.肩関節外転運動において,腰椎は屈曲するときに骨盤が前傾する傾向(r=−0.463),胸椎が伸展するときに腰椎は屈曲する傾向(r=−0.306),胸椎が伸展するときに骨盤が前傾する傾向(r=0.218)が認められた.上肢挙上動作には胸椎,腰椎,および骨盤の運動がそれぞれ関連しあいながら関与することが確認された.特に胸椎の伸展運動は上肢挙上運動に直接的に寄与するとともに,肩甲骨の運動に必要な運動面を形成することに寄与するが,腰椎および骨盤の運動は,上肢挙上に伴う上半身重心位置の変化に対応するための代償的運動であることが示唆された.
著者
尾崎 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 西中 直也 筒井 廣明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101619, 2013

【はじめに】古くから諸家によって肩関節機能に関する研究がなされてきている。腱板機能訓練に関しては筒井・山口らの報告を契機に多くの訓練方法が用いられ、近年では肩甲骨の機能が注目され、肩関節求心位を得るための訓練方法が多々報告されている。しかし、肩関節の動的安定化機構である腱板を構成する各筋が肩関節求心位を保つための機能について報告しているものは渉猟した限りでは見つからない。今回、腱板断裂症例の腱板機能を調査し、肩関節求心位を保持する腱板機能について興味ある知見が得られたので報告する。【方法】2011年9月末までの2年間に当院整形外科を受診し、初診時に腱板断裂と診断された症例のうち、「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像を撮影し、手術した症例35名(年齢60.8歳±12.7、男性19名・女性16名、罹患側 右22名・左13名)について、術前MRI所見および手術所見からA群(棘上筋単独断裂 23名)、B群(棘上筋+棘下筋断裂 5名)、C群(肩甲下筋を含む断裂 7名)の3群に分類した。 「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち肩甲骨面上45度挙上位無負荷像を用い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、関節窩と上腕骨頭の適合性について、富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は任意の垂線に対する上腕骨および関節窩の角度を計測し、関節窩と上腕骨頭の適合性は、関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として関節窩に対する上腕骨頭の位置関係を計測した値を腱板機能とした(正常範囲-1.11±2.1、大和ら1993)。統計学的処理は、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ²検定を用いて危険率5%にて行い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、腱板機能について3群を比較検討し、さらに腱板機能については正常範囲を基に3群間で比較検討した。【説明と同意】当院整形外科受診時に医師が患者の同意を得て診療放射線技師によって撮影されたレントゲン像を用いた。なお、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。【結果】測定平均値をA群、B群、C群の順で示す。上腕骨外転角度(度)は43.59±8.84、45.64±7.04、33.83±7.54、肩甲骨上方回旋角度(度)は10.17±13.46、0.96±5.02、24.87±22.92であり、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度については3群間で有意差は認められなかった。腱板機能は-0.75±4.76、5.44±12.61、7.84±5.07であり、3群間で有意差は認められ(p=0.007)、なかでもC群はA群と比較して関節窩に対して骨頭の位置が上方に移動していた(p=0.0008)。腱板機能について正常範囲を基に各群間で比較した結果、A群では正常範囲に入るものが23名中10名(43.5%)であり、関節窩に対して骨頭が上方に移動しているもの、下方に移動しているものがそれぞれ26.1%、30.4%あったが、B群、C群では正常範囲に入るものが0%、14.3%であった。B群は骨頭の上方移動および下方移動を呈するものが半数ずつであったが、C群では7名中6名(85.7%)が骨頭の上方移動を呈しており、有意差が認められた(p=0.03)。【考察】腱板断裂の指標として用いられる肩峰骨頭間距離は下垂位前後像で計測し、その狭小化を認める症例は腱板断裂の疑いがあるとされているが、今回用いた機能的撮影法は肩甲骨面上45度拳上時における肩甲骨と上腕骨の位置関係を調査している。 当院では、肩関節疾患患者に対し理学療法実施時に疼痛誘発テストとして肩甲骨面上45度挙上位での徒手抵抗テストを行ない、理学療法プログラム立案の一助としているが、このテストと同一の撮影肢位であるレントゲン像を用い、腱板断裂症例の腱板機能を断裂腱によって分類して調査することによって肩関節の求心位に作用する筋が明らかになると考えた。その結果、棘上筋の単独断裂では約半数は正常範囲にあり、残りの半数および棘下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭が上方あるいは下方へと移動するが、肩甲下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭の上方移動が認められたことから、肩甲下筋の機能不全が肩関節求心位に大きく影響することが示唆された。また、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は各群間で差がなかったことから、腱板機能不全を呈する症例は上腕骨を空間で保持するために肩甲骨が様々な反応を示すことが推測でき、前回報告した結果を裏付けするものと考える。 臨床上、肩甲下筋を選択的に収縮させることによって肩関節可動域が改善する症例を経験するが、肩甲帯の土台である肩甲骨の機能はもちろんのこと、腱板機能不全に対し肩関節求心位を確保するために選択する理学療法プログラムは肩甲下筋を考慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から肩関節疾患症例に対しておこなわれる腱板機能に関する理学療法プログラム立案を再考する必要性が示唆された。
著者
加藤 彩奈 宮城 健次 千葉 慎一 大野 範夫 入谷 誠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0078, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】変形性膝関節症(以下膝OA)は立位時内反膝や歩行時立脚相に出現するlateral thrust(以下LT)が特徴である。臨床では膝OA症例の足部変形や扁平足障害などを多く経験し、このLTと足部機能は密接に関係していると思われる。本研究では、健常者を対象に、静止立位時の前額面上のアライメント評価として、下腿傾斜角(以下LA)、踵骨傾斜角(以下HA)、足関節機能軸の傾斜として内外果傾斜角(以下MLA)を計測し、下腿傾斜が足部アライメントへ与える影響を調査し、若干の傾向を得たので報告する。【対象と方法】対象は健常成人23名46肢(男性11名、女性12名、平均年齢29.3±6.1歳)であった。自然立位における下腿と後足部アライメントを、デジタルビデオカメラにて後方より撮影した。角度の計測は、ビデオ動作分析ソフト、ダートフィッシュ・ソフトウェア(ダートフィッシュ社)を用い、計測項目はLA(床への垂直線と下腿長軸がなす角)、HA(床への垂直線と踵骨がなす角)、LHA(下腿長軸と踵骨がなす角)、MLA(床面と内外果頂点を結ぶ線がなす角)、下腿長軸と内外果傾斜の相対的角度としてLMLA(下腿長軸への垂直線と内外果頂点を結ぶ線がなす角)とした。統計処理は、偏相関係数を用いて、LAと踵骨の関係としてLAとHA、LAとLHAの、LAと内外果傾斜の関係としてLAとMLA、LAとLMLAの関係性を検討した。【結果】各計測の平均値は、LA7.1±2.4度、HA3.0±3.9度、LHA10.5±5.5度、MLA15.3±3.9度、LMLA8.1±4.0度であった。LAとLHAでは正の相関関係(r=0.439、p<0.01)、LAとLMLAでは負の相関関係(r=-0.431、p<0.01)が認められた。LAとHA、LAとMLAは有意な相関関係は認められなかった。【考察】LHAは距骨下関節に反映され、LAが増加するほど距骨下関節が回内する傾向にあった。したがって、LA増加はHAではなく距骨下関節に影響するものと考えられる。LA増加はMLA ではなくLMLA減少を示した。これらの関係から下腿傾斜に対する後足部アライメントの評価は、床面に対する位置関係ではなく下腿長軸に対する位置関係を評価する必要性を示している。LA増加に伴うLMLA減少は距腿関節機能軸に影響を与えると考えられる。足関節・足部は1つの機能ユニットとして作用し、下腿傾斜に伴う距腿関節機能軸変化は距骨下関節を介し前足部へも波及する。今回の結果から膝OA症例のLTと足部機能障害に対し、距腿関節機能軸変化の影響が示唆された。今回は健常者を対象とした静的アライメント評価である。今後、症例との比較も含め運動制御の観点から動的現象であるLTと足部機能障害の解明につなげていきたい。
著者
尾崎 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 大野 範夫 鈴木 一秀 牧内 大輔 筒井 廣明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0889, 2007

【はじめに】腱板完全断裂症例に対する理学療法の目的は、疼痛の除去および残存腱板や上腕二頭筋長頭腱での代償作用を引き出し、肩関節の運動能力を改善することにある。しかし、広範囲断裂や長頭腱断裂を伴う症例の中には、これらの代償作用を得られずとも上肢挙上が可能となり、ADL上の支障がなくなる症例を経験する。そこで、理学療法を実施した腱板完全断裂症例について追跡調査し、若干の知見が得られたので報告する。<BR>【方法】対象は、当院にてMRIまたはMRAで腱板完全断裂と診断を受けて理学療法を行い6ヶ月以上の経過観察が可能であった20例20肩(男性11肩、女性9肩)であり、外傷歴は有11例・無9例、断裂部の大きさは3.5mm未満6例・3.5mm以上14例、単独断裂11例・複数腱断裂9例である。これらの症例に対しJOA scoreの推移とレ線的検討を行った。尚、治療開始時年齢は平均67.35歳、発症から当院初診までの期間は平均17.07ヶ月、経過観察期間は平均15.90ヶ月であり、手術療法に移行した症例は除外している。<BR> JOA scoreの推移は、疼痛、機能、可動域について、初診時、1ヵ月後・3ヵ月後・6ヵ月後・9ヵ月後・1年後・最終診察時の推移を調査した。また、X線的検討はScapula45撮影法での45゜無負荷保持を用い、最終診察時の自動屈曲可動域が120度以上尚且つ30度以上の改善を良好群、それ以外を不良群に分類して、腱板機能および肩甲骨機能について検討した。<BR>【結果】X線所見・関節不安定性を除いたJOA score(80点満点)の推移は、初診時41.93点±14.68から最終診察時67.83点±8.61と有意に改善した(p<0.001)が、初診時と比較して疼痛は理学療法開始1ヶ月後(p<0.01)、機能は3ヵ月後(p<0.02)、可動域は6ヵ月後(p<0.02)以降で有意に改善したものの、外傷歴や断裂腱の数、大きさとの関係には有意差は認められなかった。<BR>またX線的検討の結果、良好群13例(屈曲148.85度±19.49)・不良群7例(屈曲104.29度±22.81)共に肩甲骨関節窩に対して骨頭の上昇が著明であるが、胸郭上の肩甲骨の上方回旋角度は正常値(12.30±4.1)に比して良好群では小さく(2.02±7.01)なり、不良群では大きく(25.53±17.82)なっていた(p<0.001)。<BR>【考察】今回の結果、腱板断裂症例に対しては、疼痛を理学療法開始後1ヶ月以内に、機能を3ヶ月以内に理学療法の効果を出す必要があることがわかった。また、腱板断裂症例の可動域改善には残存腱等での代償動作のみならず、上腕骨に対して肩甲骨関節窩をあわせるような肩甲骨の下方回旋運動が可能である必要性が示唆され、肩甲骨の可動性と共に、いわゆるouter musclesの機能により肩甲上腕関節の適合性を得ることで上肢挙上が可能になり、ADL拡大につながると考える。
著者
阿蘇 卓也 田村 将希 千葉 慎一 鈴木 昌 西中 直也
出版者
日本肘関節学会
雑誌
日本肘関節学会雑誌 (ISSN:13497324)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.169-173, 2019

目的:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD)症例の投球側と非投球側におけるゼロポジション近似肢位での肩関節外旋筋力(Zero外旋筋力)及び肘関節伸展筋力(Zeroリリース筋力)を比較することを目的とした. 材料及び方法:OCDと診断された野球選手6名(年齢163.0cm,体重53.5kg,年齢13.3歳)を対象とした.Zero外旋筋力及びZeroリリース筋力はハンドヘルドダイナモメーターを使用し,立位にて肩関節ゼロポジション,肘関節90度屈曲位,前腕回内外中間位での等尺性肩関節外旋筋力及び肘関節伸展筋力を測定し,投球側と非投球側で比較した. 結果:Zeroリリース筋力のみ投球側が非投球側より低値を示した. 考察:投球時加速期以降の肘関節伸展位保持機能を評価するZeroリリース筋力の低下はOCD発症の一因になることが示唆された.
著者
尾﨑 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 大野 範夫 筒井 廣明
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
日本理学療法学術大会 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1397-C1397, 2008

【はじめに】肩関節の安定化機構は関節構造および筋機能での関節窩に対する上腕骨頭の求心位保持能力およびショックアブソーバーとしての肩甲骨の動きが必要となるが、これらの中の1つでも問題が生じれば肩に機能障害が生じると考えられる。今回は当院診察時の診断補助として用いられるX線像から得られた情報を基に、肩関節の運動時不安定性の機能的問題点について検討した結果を報告する。<BR>【方法】対象は、肩関節の運動時不安定性を訴え、SLAP損傷またはinternal impingementと診断された40例(男性38名・女性2名、右37名・左3名、年齢21.88歳±5.29)であり、全員投球動作を要するスポーツ愛好者である。これらの症例に対し当院初診時に撮影したX線像のうち、Scapula-45撮影法45度挙上位無負荷像を用いて患側の腱板および肩甲骨機能を、自然下垂位と最大挙上位の前後像を用いて鎖骨および胸郭の運動量を、また、最大挙上位像を用いて上腕骨外転角度(以下、ABD)、関節窩の上方回旋角度(以下、上方回旋)および関節窩に対する上腕骨の外転角度(以下、関節内ABD)について計測した。ABD・鎖骨の運動量の変化・上方回旋・関節内ABDについては健患差を、t検定を用いて比較検討した。また、胸郭の運動量は遠藤ら(1996)の報告に基づいて基準点を20mmとし、また鎖骨の運動量については、Fungら(2001)の報告に基づいて基準点を20度として、符号検定を用いて検討した。<BR>【結果】腱板機能は正常範囲であり(0.32±4.86)、肩甲骨機能は低下していた(5.53±7.52)。ABDは患側(以下、患)165.36度±6.33・健側(以下、健) 167.11度±7.30(p<0.02)、鎖骨の運動量の変化は患25.18度±8.30・健22.60度±8.00(p<0.01)、上方回旋は患54.88度±5.25・健52.02度±5.30(p<0.001)、関節内ABDは患110.60度±7.28・健112.85度±17.12(n.s.)であった。また胸郭の運動量は12.70mm±6.47となり、基準点に対して胸郭は動かず、鎖骨は動く傾向になった(p<0.01)。<BR>【考察】今回の結果から、肩関節の運動時不安定性を呈する症例は、肩甲骨を体幹に固定する機能および胸郭の可動性が低下しており、また、上肢挙上角度を得るために、鎖骨と肩甲骨の運動量が大きくなることから、胸鎖関節と肩鎖関節への負担増大が懸念された。今回はX線像を用いた前額面上のみの調査を若者中心に行ったが、野球やテニスなどのスポーツ愛好家の年齢層は幅広い。また、投球障害を呈する症例は数年前と比較して腱板機能は向上しているが肩甲骨の機能低下を呈する者が多いという報告や、加齢と共に肩甲骨や脊柱の可動性が低下するという報告もあり、胸郭の可動性を引き出すことは、運動時不安定感の改善と共に、障害予防の点からも重要と考える。<BR>