著者
富安 俊子 鈴井 江三子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.65-74, 2008
被引用文献数
1

日本におけるドメスティック・バイオレンス(Domestics Violence;以下DV)は,2001(平成13)年10月に配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV法)が施行されたことにより,それまでは家庭内の出来事であった夫婦間の暴力が顕在化し,夫婦であっても相手の人権を侵害する暴力支配を行ってはいけないと明確に法律で定義された.夫婦間に存在する暴力は,決して家庭内の出来事として安易に見過ごせるものではなく,被害者の生命に関わる深刻な問題として取り上げられるようになった.その結果,夫婦間に起きる暴力に対しては女性の意識も変化し,人権意識が高まることで,DVの被害届が年々増加してきた.そして今では,DVという用語は広く一般に認知され,親密な関係性に存在する暴力全般をDVと総称して呼ぶ傾向にある.「デートDV」がそれである.しかし,「デートDV」の場合,言葉としてはDVという用語を付与しているが,実際はDV法の適応とならない.つまり,DV法が定める保護の適応となる者は法律婚と事実婚の民法で定める対象者のみであり,法的根拠の無い恋愛関係にあるカップルはDV法で定める保護命令の適応外である.そのため現時点での青年期の恋愛カップルに存在する暴力からの被害者救済は,民間のシェルターか被害後警察に相談するしか方法が見当たらないといっても過言ではない.また,青年期のカップルの場合,被害者の身近に有益な相談相手が居ないことも多く,被害者は加害者から物理的にも精神的にも逃避することができず,パートナーからの暴力を受けながらその関係性を維持している場合も珍しくない.特に,高校生のカップルの場合,学校の先生や保護者等の大人に相談することは極端に少なく,友人同士の相談では解決方法がみつからずで,暴力の長期化と深刻化を招きやすいと報告されている.以上のことから,法律婚と事実婚以外のカップルにみられる暴力支配に対して,DVという用語を用いることは,暴力を受けた誰もが法的根拠を基にした保護命令等が受けられると誤解しやすい.そのため,「デートDV」という表現方法が適切かどうか,今後検討し,暴力を受けた女性全般に対する支援体制と法の整備が必要であると考える.
著者
岸田 佐智 富安 俊子 芝崎 恵 佐原 玉恵
出版者
徳島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本年度は、研究分担者及び不妊症看護認定看護師の協力を得て、不妊治療を受けている女性8名に対する半構成的インタビューを行った。インタビュー内容は、不妊治療中の身体的苦痛や不快、治療継続における悩み、パートナーや周囲からのストレス、生活上の問題、医療者への不満や、傷つけられた出来事、満足していることなどについてであり、1-2時間の面接を行った。インタビュー中は、MDレコーダーにてその内容を録音し、録音内容を逐語文にし、討議内容のメモも用いて、看護者が捉えている不妊治療中の問題点について質的に抽出を行った。昨年度の成果と合わせて、不妊治療における身体心理社会的側面の問題、(1)継続して行われる注射の方法(部位・角度、注入時間、(2)注射後の圧迫など)に関する問題、(3)治療に伴う副作用の無自覚や我慢、(4)人為的に作られた月経の辛さ、(5)不妊であることを認めたくない、(6)不妊であることや治療後に生じる喪失感、(7)妊娠を素直に喜べない、(8)繰り返し体験する痛みや恐怖からくる継続的緊張感、(9)治療の複雑さによる理解不足、(10)周囲との関係を控えようとする孤立化、(11)余儀なく変更されるライフスタイル、(12)経済的問題、(13)不妊である自分が理解されない、(14)血縁を存続させるための周囲からの圧力、(15)治療に伴う命の選択、妊娠するための治療を最優先する、(16)治療継続によりセックスレスな夫婦の関係、(17)不妊原因や治療失敗により生じる夫婦の軋轢、が明らかになった。そこから、不妊カップルへの包括的な看護援助を提供するため3つのケアモデル、(1)より効果的で、より痛みの少ない不妊治療に伴う注射方法を探索すること、(2)治療に伴う、苦痛への緩和方法としてホメオパチーを活用し、その軽減を図ること、(3)治療の内容や方法に関する理解を深め、治療や看護を連続的に提供できるようにするための治療計画手帳の作成をすることの必要性を見出した。