著者
森脇 和郎 鈴木 仁 酒泉 満 松井 正文 米川 博通 土屋 公幸 原田 正史 若菜 茂晴 小原 良孝
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

日本産野生動物種には、日本列島の生物地理学的な位置づけを反映して独自の分化を遂げたものが少なくない。これらの起源を解明することは、日本の研究者が日本に生息する種を対象にするという「自国に目を向ける立場」を別にしても興味深い。従来、日本産野生物動種については形態的分析に基づく分類学的および生態学的な研究がおもに行われてきたが、この方法論だけではこれら野生種の起源を解明することは難しい。近年著しい進歩を遂げた分子遺伝学的解析法は、集団遺伝学的な種の捉え型と相まってこの問題の解決に大きな力を発揮することが期待される。一方、わが国における人口の増加、経済活動の増大に伴う国土の開発、自然環境の汚染などによって、自然界における野生動物種の分布が改変され、時にはそれらの生存する脅かされるに至った現状を注視すれば、日本産野生種の分布や起源を検討するタイミングは今をおいてない。本研究は、日本産野生動物種の中から各分類群に属する代表的な動物種を選び出し、種内変異や近緑グループとの関係を明らかにして従来の分類体系を再検討するとともに、系統分類学および生態的に異なる動物種の起源について総合的に比較検討することを目的としている。ハツカネズミ・イモリ・メダカ・ウニ・ホヤなど日本に古くから生息する動物種は生物実験材料としての実用性と将来性に富む素材であり、実験動物の開発・利用という観点からもその重要性は見過ごすことはできない。野生種の起源を遺伝学的な観点から解明する研究は、必然的に種分化の遺伝機構にも踏み込むことになろう。この機構の基盤にはHybrid dysgenesisという現象にみられるように、その根底には発生機構、生殖機構の遺伝的制御という問題も包含しており、今後の生物学の新しい展開への有効な基盤となる可能性を秘めている。
著者
小原 良孝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.59-69, 1982

イタチ科イタチ属の近縁種2種ニホンイイズナとホンドオコジョの染色体をG-, C-バンド法により比較分析し, 核学的観点からその系統類縁性を考察した。両種は形態的によく似ていて, 非常に近縁であるとされているが, 染色体数, 染色体構成は著しく異なっている。ニホンィイズナは2n-38で大型の中部着糸型染色体を6対含んでいる。これら大型染色体6対のうち5対はその短腕部に大きなC-バンド (C-ヘテロクロマチン) 部位をもっている。又, この部位はG-バンドではネガティブな部位として観察される。一方, ホンドオコジョは2n=44であり, 上述のような大型染色体は含まれていない。<BR>ニホンィイズナのG-, C-バンドパターン, ホンドオコジョのC-バンドパターン, 染色体の大きさ及び腕比を基準にした両種の染色体の対応性, 染色体の総長 (TLC) の比較, TCLに対するX染色体の割り合い等の検討から, ニホンイイズナとホンドオコジョの間の核学的関連性はC-ヘテロクロマチンの重複増加, 重複増加したC-ヘテロクロマチン部位への転座, 及びロバートソン型動原体融合によって説明される。