著者
松井 正文
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

京都賀茂川において、在来オオサンショウウオが外来種チュウゴクオオサンショウウオによって遺伝子汚染を受けていることが過去の調査で分かっていた。その実態をさらに詳細に把握するため、新たなマイクロサテライトマーカーを開発し、効率よい遺伝子型判定が可能となった。賀茂川以外の河川も対象に調査した結果、遺伝子汚染は急速に進んでおり、賀茂川では在来種は絶滅した可能性があること、別水系の上桂川でも雑種化が進行していることが確認された。このように京都市域におけるオオサンショウウオの遺伝的汚染は予想以上に進行しており、何らかの方法で純粋な日本産を隔離保全していくことが早急に必要である。

2 0 0 0 保全遺伝学

著者
小池裕子 松井正文編
出版者
東京大学出版会
巻号頁・発行日
2003
著者
松井 正文 西川 完途
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-11-18

止水産卵性種からみたボルネオ産両生類多様性の起源を探るため、ボルネオ島と、その周辺地域についての野外調査・標本調査を行い、形態・音声・分子に基づく系統分類学的な解析を行った結果、アオガエル科、ヒメアマガエル科の一部で高度の固有性が認められたものの、総体的にはボルネオ産の止水性両生類種は流水性種ほどの分化を示さないことが分かった。これはボルネオ島が本来、山地森林に被われていて、低地性の止水性種の生息に適した範囲が限られたためであろう。数少ない固有種は古い時代の侵入者と思われるが、それらの近縁種はスマトラ-ジャワに見られることから、大陸からスンダ地域へ古い時期の進出には2経路あったと推定される。
著者
松井 正文 西川 完途
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

流水性種からみたボルネオ産両生類多様性の起源を探るため、マレーシア領のマレー半島とボルネオ島のサラワク州において野外調査を行い、得られた標本や組織サンプルから形態・音声・分子に基づく系統分類学的な解析を行った結果、ボルネオの両生類ファウナは高度の固有性をもち、極めて古い時代に周辺地域から孤立して独特の進化を遂げたこと、マレー半島の両生類相の固有性が高いことが明らかになった。
著者
森脇 和郎 鈴木 仁 酒泉 満 松井 正文 米川 博通 土屋 公幸 原田 正史 若菜 茂晴 小原 良孝
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1989

日本産野生動物種には、日本列島の生物地理学的な位置づけを反映して独自の分化を遂げたものが少なくない。これらの起源を解明することは、日本の研究者が日本に生息する種を対象にするという「自国に目を向ける立場」を別にしても興味深い。従来、日本産野生物動種については形態的分析に基づく分類学的および生態学的な研究がおもに行われてきたが、この方法論だけではこれら野生種の起源を解明することは難しい。近年著しい進歩を遂げた分子遺伝学的解析法は、集団遺伝学的な種の捉え型と相まってこの問題の解決に大きな力を発揮することが期待される。一方、わが国における人口の増加、経済活動の増大に伴う国土の開発、自然環境の汚染などによって、自然界における野生動物種の分布が改変され、時にはそれらの生存する脅かされるに至った現状を注視すれば、日本産野生種の分布や起源を検討するタイミングは今をおいてない。本研究は、日本産野生動物種の中から各分類群に属する代表的な動物種を選び出し、種内変異や近緑グループとの関係を明らかにして従来の分類体系を再検討するとともに、系統分類学および生態的に異なる動物種の起源について総合的に比較検討することを目的としている。ハツカネズミ・イモリ・メダカ・ウニ・ホヤなど日本に古くから生息する動物種は生物実験材料としての実用性と将来性に富む素材であり、実験動物の開発・利用という観点からもその重要性は見過ごすことはできない。野生種の起源を遺伝学的な観点から解明する研究は、必然的に種分化の遺伝機構にも踏み込むことになろう。この機構の基盤にはHybrid dysgenesisという現象にみられるように、その根底には発生機構、生殖機構の遺伝的制御という問題も包含しており、今後の生物学の新しい展開への有効な基盤となる可能性を秘めている。
著者
松井 正文
出版者
日本爬虫両棲類学会
雑誌
爬虫両棲類学雑誌 (ISSN:02853191)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.50-64, 1987-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
19
被引用文献数
27

近畿地方以北に分布するカスミサンショウウオ-トウホクサンショウウオ複合群244個体のアイソザイムについて,デンプンゲル電気泳動法を用い,17遺伝子座における変異を調べた。これまでに命名されていた6種(トウホク,クロ,ホクリク,アベ,トウキョウ,カスミ)は比較的小さなNeiの遺伝的距離(2種個体群間距離の平均の最小値=0.22)によって,たがいに明瞭に区別された。しかし,これらの種間にみられた遺伝的な関係と,これまで認められてきた系統関係との間には大きな不一致があった。白馬村産のサンショウウオ個体群は,他のすでに命名されている種と比較した場合に,独立種として認めるに足るほどの大きな遺伝的相違を示した。この結果にもとづいて,白馬村産の個体群を新種ハクバサンショウウオとして記載する。この種は中部地方飛騨山脈に含まれる,長野県の山地帯に分布する。カスミサンショウウオ-トウホクサンショウウオ複合群に属し,鋤骨歯列が浅いこと,鋤骨歯数が少ないこと,トウホクとカスミの中間的体型をもつこと,卵嚢外被に縦条を欠くこと,独特のアイソザイム泳動パターンをもつこと,で特徴づけられる。
著者
松井 正文 富永 篤
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.175-184, 2007 (Released:2008-08-14)
参考文献数
21
被引用文献数
4 4

三重県伊賀市の前深瀬川水系,前深瀬川と川上川にはオオサンショウウオが生息している.しかし,この2河川の合流部にはダムの建設が予定されている.このために水系内の地域個体群間で分断,小集団化が生じた場合,遺伝的多様性が減少し絶滅に至る可能性がある.そこで,水系内のオオサンショウウオの核DNAに見られる遺伝的多様性の現状を把握するため,AFLP法を用いて調査した.その結果,この方法が近縁種やミトコンドリアDNAで区別される個体群との相違の検出に有効であることが分かった.しかし,この方法では前深瀬川水系内部と,その近傍の河川に生息する個体間で特定の遺伝的集団のまとまりを検出することができなかった.今回の結果から,この水系内に生息するオオサンショウウオの遺伝的構成は特定の地域集団ごとに決まっていない一方で,地域集団間で絶えず交流が保たれているのでもなく,出水による流下や,人為的な移動を含む極めて複雑なものと考えられたが,今後,より解明度の高い手法を用いた検討が必要である.