著者
徳久 謙太郎 鶴田 佳世 宇都 いづみ 梛野 浩司 岡田 洋平 生野 公貴 高取 克彦 松尾 篤 冷水 誠 庄本 康治
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.267-272, 2007-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
15
被引用文献数
20

我々はハンドヘルドダイナモメーター(HHD)を使用した,徒手による等尺性膝伸展筋力測定の際に問題となる「検者のHHD固定能力不足」を改善した新しい測定方法を考案した。本研究の目的は,虚弱高齢者を対象に,この新測定法の男女検者間再現性,妥当性,簡便性を明らかにし,本法の臨床的有用性を検討することである。対象は当院通所リハビリテーションを利用している虚弱高齢者31名(男性9名,女性22名,平均年齢81.6±6.1歳)である。各対象者に対して等尺性膝伸展筋力測定を,本法にて男女検者が1回ずつ,ベルトでHHDを固定する方法(ベルト法)にて1回,合計3回実施した。また本法とベルト法による筋力測定所要時間を検者にマスクした状態で測定した。結果として,男・女性検者による本法での測定値間の級内相関係数は0.96であり,男女検者間再現性は良好であった。本法(男・女検者)とベルト法での測定値の3群間に統計学的有意差は認められず,ベルト法と本法での測定値間の級内相関係数は,男性検者で0.89,女性検者で0.90であり,併存的妥当性は良好であった。本法による1回の筋力測定所要時間は,ベルト法より有意に短く(p<0.05),平均2分12秒であった。この新測定法は虚弱高齢者の等尺性膝伸展筋力測定を行うにあたり,臨床的に有用な測定方法であることが示唆された。
著者
徳久 謙太郎 鶴田 佳世 小嶌 康介 兼松 大和 三好 卓宏 高取 克彦 庄本 康治 嶋田 智明
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.167-177, 2012-06-20 (Released:2018-08-25)
被引用文献数
1

【目的】脳卒中患者の日常生活活動に関連した立位・歩行時の身体動作能力を評価する,ラッシュモデルに適合した新しい尺度,脳卒中身体動作能力尺度(SPPS)を開発すること。【方法】脳卒中患者の日常生活場面の観察をもとに,身体動作25項目から構成される仮尺度を作成した。この仮尺度を2施設の脳卒中患者102名に5段階評点を用いて実施し,評点段階および項目をラッシュ分析にて解析して本尺度を完成させた。またこの尺度の一次元性および尺度全体の信頼性を検討した。【結果】評点段階分析では軽介助と監視の段階が統合され,4段階評点となった。項目選択分析では,9項目が除外され,16項目から構成されるSPPSが完成した。SPPSの一次元性および尺度全体の信頼性は良好であった。【結論】SPPSは脳卒中患者の日常生活活動に関連した立位・歩行時の身体動作能力を評価する尺度であり,その間隔尺度化が可能な特性は,臨床および研究に有用であろう。
著者
岡田 洋平 大久保 優 高取 克彦 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 庄本 康治
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.49-52, 2009 (Released:2009-04-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

〔目的〕本研究の目的は,Hoehn & Yahr(H&Y)3度以上のパーキンソン病患者において,pull testと過去1年間の転倒の有無との関係について検討することとした。〔対象〕本研究の対象は,H&Y 3度以上のパーキンソン病患者24名であった。〔方法〕評価項目はpull testと転倒歴とした。pull testと転倒との関連性について分析し,また,ROC曲線から転倒者を識別する上で最適なカットオフ値を設定した。〔結果〕転倒群は非転倒群と比較して、pull testのスコアは有意に高かった。pull testのスコアの1をカットオフ値にした際,転倒の有無を最も良好に識別可能であった(感度:94.7%,特異:60.0%)。〔結語〕pull testは,そのスコアの1をカットオフ値にすることにより,H&Y 3度以上のパーキンソン病患者の中から転倒の危険性が特に高いものを識別する上で有用な指標の1つとなる可能性が示唆された。
著者
徳久 謙太郎 鶴田 佳世 梛野 浩司
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.58-68, 2014-04-01 (Released:2014-07-31)
参考文献数
27
被引用文献数
1

根拠に基づくリハビリテーションの実践のため,帰結評価指標を用いた定期評価による治療効果判定の重要性が増している.そのためには適切な帰結評価指標を選択し,その情報を利用した臨床意思決定を行うことが求められる.本稿では臨床において最適な帰結評価指標を選択する基準である6 つの主要因子(評価の対象,評価の目的,指標のタイプ,測定尺度の種類と心理測定特性,対象者因子,時間・空間・物理的環境因子)について紹介するとともに,測定の標準誤差や最小検知変化などの有用な情報について説明する.さらにリハビリテーションにおいて対象とすることの多い身体動作能力に関する帰結評価指標であるFunctional reach test, 10m 最大歩行速度,脳卒中身体動作能力尺度を紹介し,その有効利用法について述べる.
著者
高取 克彦 岡田 洋平 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 鶴田 佳世
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.382-389, 2011-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1

【目的】日本語版STRATIFYおよびMorse Fall Scale(MFS)の作成とリハビリテーション専門病院における有用性を検討すること。【方法】2008年8月からA病院回復期リハビリテーション病棟に新規入院した患者120名を対象とした。日本語版STRATIFYおよびMFSの作成は開発者の許可を得て完成させた。STRATIFYおよびMFSは入院時に評価し,3ヵ月間の転倒発生を前向きに調査した。データ解析には転倒発生日をエンドポイントとした生存分析(Kaplan-Meier法)を用い,また比例ハザード解析にて転倒発生の危険因子を抽出した。【結果】累積生存率ではSTRATIFYを用いた場合,ハイリスク群で生存率の有意な低下が認められたが,MFSではその差は有意ではなかった。また比例ハザード解析においては,2点以上のSTRATIFYスコアが有意な転倒危険因子として抽出された。【結論】STRATIFYは,本邦リハビリテーション病棟においても転倒ハイリスク者を良好に判別できる簡便なアセスメントツールである。
著者
高取 克彦 松尾 篤 庄本 康治 梛野 浩司 徳久 謙太郎 鶴田 佳代
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.61-65, 2008 (Released:2008-04-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1

右視床出血により左上肢のComplex regional pain syndrome type 1(CRPS1)を呈した1症例に対し,Moseleyの運動イメージ・プログラム(Motor imagery program: MIP)を実施した。MIPは3種類の介入(1.手の左右認知,2.患手の運動イメージ,3.Mirror therapy)で構成されており,皮質ネットワークの賦活を目的としたものである。介入効果は一事例研究デザインにて検証した。結果としては,MIP実施期間に特異的な疼痛軽減が認められ,その効果はMIP終了後も持続していた。また患手の模写による身体図式の評価ではMIP後,より詳細な描写に変化した。これらのことからMIPは脳卒中後CRPS1患者の身体図式を変化させ中枢性の疼痛軽減効果を持つ可能性が示唆された。
著者
岡本 昌幸 徳久 謙太郎 梛野 浩司
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.95-101, 2014-10-01 (Released:2014-10-01)
参考文献数
30

高齢化に伴いパーキンソン病患者数は増加傾向にある.近年,パーキンソン病に対するリハビリテーションの効果に関するエビデンスが認められてきている.本稿では,パーキンソン病の歩行障害およびバランス障害に焦点を当て,最近の知見を基に介入方法を解説する.また,我々の行っているパーキンソン病患者に対する外来リハビリテーションプログラムについて紹介する.セラピストは最近の知見を確認し,各患者に適したリハビリテーションプログラムを提供することが重要である.
著者
大久保 優 梛野 浩司 岡本 昌幸 千葉 達矢 徳久 謙太郎 松下 祥子 岡田 洋平
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.6, 2010

【目的】<BR> パーキンソン病(PD)患者では,発症早期より体軸内回旋の減少など体幹機能障害が起こり,その結果,歩行をはじめとした様々な日常生活動作が障害される。病期が進むと,脊柱の変形が生じ,呼吸機能や嚥下機能にまで問題が波及する症例も多く,体幹機能はPD患者のリハビリテーションを行う上で,非常に重要である。WrightらはPD患者と健常高齢者の体幹回旋の筋緊張を測定し,PD患者では有意に左右差が認められ,体幹筋の固縮に左右非対称性が認められたことを報告している。また,彼らはこの体幹筋の左右非対称性が姿勢や歩行障害に強く関与していると示唆している。これらのことから,PD患者の体幹機能を評価する上で,左右非対称性を捉えることが重要であると考えられる。しかし,PD患者の体幹機能を定量的に評価する指標は少なく,左右非対称性に着目した評価はほとんど見られない。<BR> 我々は定量的な体幹機能評価として,座位側方リーチテスト(Sit-and-Side Reach test; SSRT)を考案し,先行研究において,PD患者のSSRTの併存的妥当性について報告した。SSRTは左右各々の測定が可能であり,体幹機能の左右非対称性を捉えることができる可能性がある。そこで本研究では,SSRTの値およびその左右差を,健常高齢者とPD患者間で比較し,PD患者における体幹機能の特性について検証した。<BR>【方法】<BR> 対象は,PD患者19名(平均年齢69.6±9.0歳,男性12名女性7名,平均罹病期間6.5±5.1年,Hohen & Yahr(H&Y)stage 1:1名,2:2名,3:11名,4:5名)と年齢を一致させた健常高齢者16名(平均年齢68.8±8.6歳,男性5名女性11名)であった。全ての対象者は口頭指示を理解可能であった。腰痛や脊柱の手術の既往がある者は除外した。SSRTは,ハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定方法は,開始肢位を40cm台上端座位,上肢90°外転位とし,側方に最大リーチするように指示した。二回練習後一回測定を行い,その値をSSRTの測定値とした。また左右ともに測定し,左右の差の絶対値(左右差)についても算出した。PD患者の評価は,抗パーキンソン病薬服薬1.5~2時間後に統一した。統計解析は,Mann-WhitneyのU検定を用いてPD患者群と健常高齢者群の右側と左側SSRTの値およびその左右差について比較した。次にPD患者群の中から,既に脊柱の側彎など体幹の変形があるstage4の患者は除外し,stage3以下の患者群と健常高齢者群の右側と左側SSRTの値およびその左右差について比較した。<BR>【説明と同意】<BR> 全ての対象者には,研究の目的に関する説明を口頭にて行ない,自由意思にて研究参加の同意を得た。<BR>【結果】<BR> PD患者群では健常高齢者群と比較して左右とも有意にSSRTの値が低下していた。SSRTの左右差については有意差を認めなかった。stage3以下のPD患者群でも健常高齢者群と比較して左右とも有意にSSRTの値が低下していた。SSRTの左右差は,stage3以下のPD患者群が健常高齢者群と比較して有意に大きかった。<BR>【考察】<BR> Stage3以下のPD患者群と健常高齢者群の比較より,SSRTは軽度から中等度のPD患者と健常高齢者の差異を捉えることができ,比較的発症早期より体幹機能評価として有用であることが示唆された。また,stage3以下のPD患者群のSSRTの左右差が有意に大きかったことから,まだ著明な脊柱の変形がないPD患者では,側方のリーチ動作能力に左右差があり,体幹の可動性を含んだ体幹機能に左右非対称性を認めることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 客観的かつ定量的な評価にもとづき,長期にわたって体幹の可動性を維持することは,PD患者の身体機能やADLを維持する上で重要である。本研究結果より,SSRTはPD患者において,比較的発症早期から使用可能で,体幹機能の左右差を捉えることができる新しい定量的な体幹機能評価になり得ることが示唆された。今後はSSRTの継時的な変化について調査し,体幹の側屈変形の予測妥当性や左右差に影響を与える因子について検証する必要がある。
著者
梛野 浩司 中村 潤二 三ツ川 拓治 生野 公貴 徳久 謙太郎 岡田 洋平 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P2206, 2009

【目的】高齢者の転倒・転落は寝たきりの原因となるため重要視されている.転倒に関わる因子は内的因子と外的因子に分類され、さまざまな報告がなされている.近年、Functional Reach Test(FRT)は簡便に使用できるため高齢者の転倒予測ツールとして用いられている.しかし、FRTは前後方向のバランスを測定しているのみである.転倒に関する調査によると、後側方への転倒で大腿骨頸部骨折のリスクが3~6倍になることが示されている.このことから、前後方向へのバランスだけでなく側方へのバランスが危険な転倒を予測する因子として重要であると考えられる.そこで今回、我々は健常高齢者を対象に側方へのバランス指標として坐位での側方リーチ距離を測定し、転倒との関係について調査したので報告する.<BR><BR>【方法】対象はN県U市の転倒予防教室に参加した健常高齢者74名(男性35名、女性39名、平均年齢76.2±5.9歳)とした.全参加者に対して事前に測定の目的を説明し同意を得た上で測定を行った.測定項目は、FRTおよび坐位側方リーチ距離とした.その他、過去1年間の転倒の有無および複数回転倒の有無についてアンケート調査を行った.FRTはDuncanらのスライド法に準じて行った.坐位側方リーチについては、測定機器としてハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と、40cm台を用いた.測定方法は、開始肢位を40cm台上端座位、リーチ側上肢を90°外転位とし、最大リーチを行うよう指示した.アンケート調査の結果より対象者を転倒なし群、1回転倒群、複数回転倒群の3群に分けFRTと座位側方リーチ距離について比較を行った.また、FRTと坐位側方リーチ距離との関連性についても検討した.統計解析はKruskal-Wallis検定を使用し、有意差を認めた場合には多重比較検定を行った.FRTと坐位側方リーチ距離との関連性についてはピアソンの積率相関係数を求めた.有意水準はp<0.05とした.<BR><BR>【結果】アンケート調査の結果、転倒なし群54名、1回転倒群11名、複数回転倒群7名であった.FRT(p=0.085)では3群間に有意な差を認めなかった.坐位側方リーチ距離(p=0.035)では有意な差を認め、多重比較検定では複数回転倒群が他の2群よりも有意に低値を示した.FRTと坐位側方リーチとの関連性はr=0.123と低い相関関係であった.<BR><BR>【考察】今回の結果では、FRTでは複数回転倒群と転倒なし群で差を認めなかったことに対し、坐位側方リーチ距離では有意な差を認めたことから、複数回転倒する可能性のある高齢者を簡便に抽出することができる可能性が考えられた.身体の平衡機能には様々な要因が関わっているが、FRTと坐位側方リーチ距離において弱い相関関係しか認められなかったことから、坐位側方リーチ距離とFRTとでは異なった機能を評価できるものと考えられた.坐位側方リーチ距離は体幹機能をより反映しているものと考えられ、転倒に対する体幹機能の重要性が考えられた.
著者
三ツ川 拓治 中村 潤二 生野 公貴 徳久 謙太郎 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O3029, 2010

【目的】脳卒中片麻痺患者の歩行能力や日常生活動作(ADL)の獲得には様々な因子が関与している。特に体幹機能は、四肢の随意運動時の身体近位部の固定などに関与するため重要であるといわれている。しかし、歩行能力やADLと下肢機能との関連を報告したものは多いが、体幹機能との関連を報告しているものは少ない。先行研究では、既存の体幹機能評価法であるTrunk Control Test(TCT)とTrunk Impairment Scale(TIS)が、歩行能力とADLに関連していることが報告されており、その中でもTISのほうがより脳卒中片麻痺患者の歩行能力と関連していることが示唆されている。しかし、TISは項目数が多く、評価に時間を要する。そこで我々は、体幹での制御を必要とし、座位での側方へのリーチ距離を測定する座位側方リーチテスト(Sit-and-Side Reach Test;SSRT)を考案した。SSRTはTCTやTISとの妥当性が示されており、脳卒中片麻痺患者の体幹機能を評価することのできる新しい指標であると考えられる。そこで、本研究では新しい体幹機能評価法であるSSRTと 歩行能力やADLとの関連を検討することとする。<BR>【方法】対象は当院回復期病棟及び療養型病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者36名(男性15名、女性21名、平均年齢69.3±13.7歳)とした。SSRTの測定は、ハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定方法は、開始肢位を40cm台上端座位、非麻痺側上肢90°外転位とし、側方へ最大リーチするよう指示した。測定中は非麻痺側下肢を床面から動かさないよう注意を促した。初めの2回後の3回を測定し、その平均値を統計解析に用いた。その他の評価項目は、歩行能力としてFIM歩行項目、歩行自立度はFIM歩行項目の6以上を自立群とし、5未満を非自立群として判別した。またADLとしてBarthel Index(BI)を評価した。統計解析は、SSRTと各項目の相関をスピアマンの順位相関係数を用い算出して検討した。また歩行の自立群、非自立群の比較はt検定にて行った。有意水準はすべてp<0.05とした。<BR>【説明と同意】本研究は、研究実施施設長の承認を得て行われた。対象者には文書にて本研究の趣旨を説明し、書面での同意を得た。<BR>【結果】SSRTは全対象者では23.7±6.8cm、歩行の自立群14名では27.6±5.6cm、非自立群22名では21.1±6.4cmであった。SSRTとFIM歩行項目との間では中等度の有意な相関(ρ=0.58,p=0.0002)があった。また歩行の自立群と非自立群のSSRTの間には有意差(p=0.004)が認められた。BIは79.9±17.4点であり、SSRTとBIとの間では高い有意な相関(ρ=0.72,p<0.0001)があった。【考察】SSRTが歩行自立群と非自立群との間で有意差があったことから、SSRTで示される体幹機能が歩行自立度に関係していると考えられた。またFIM歩行項目との間で中等度の相関、BIとの間に高い相関があった。これは先行研究においてTCT、TISが歩行能力、ADLに関連しているとの報告と一致している。このことからSSRTで示される体幹機能は歩行能力やADLの獲得に関連している一つの重要な因子であると考えられた。また今回の結果から、SSRTが今後、臨床現場において有用な一指標となる可能性があると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者の歩行能力やADLに体幹機能が大きく関連しており、現在、臨床で使用されているTCTやTISとの相関も報告されている。しかしTCTやTISといった評価法は定量的ではなく客観性に欠けている。本研究で使用したSSRTはリーチ距離にて評価をするため定量的・客観的である。また項目数の多いTISに比べて簡便に評価が可能であり、患者への負担を軽減することができる。そのためSSRTは臨床的な指標であると考えられる。しかし本研究は、横断研究であるため、今後はさらに予測妥当性についても検討する必要がある。
著者
中村 潤二 三ツ川 拓治 生野 公貴 徳久 謙太郎 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O1029, 2010

【目的】近年の報告では脳卒中片麻痺患者において上下肢の障害だけでなく, 体幹屈曲筋・伸展筋・回旋筋等の筋力低下といった体幹機能障害の存在が証明されている。体幹機能は四肢の随意運動時の身体近位部の固定や起き上がり, 歩行などの基本動作の獲得のために重要であると考えられている。脳卒中患者の中で急性期に体幹機能が高い者は, 退院時の日常生活動作得点が高いとしており, 機能的予後を予測する因子としても重要であるとしている。体幹機能を評価する方法には筋電図などの特別な機器を用いた方法があるが, 臨床での使用は利便性に欠ける。簡便に体幹機能を評価する方法には古くからTrunk Control Test (TCT) が知られているが, これは4項目の身体パフォーマンスを3段階で評価しているため段階付けの幅が大きく, 天井効果があることなどが問題とされている。他の評価法としてはTrunk Impairment Scale (TIS) があり, 構成概念妥当性, 併存的妥当性, 高い再現性が報告されている。TISは静的座位バランス, 動的座位バランス, 協調性について評価しているが, 順序尺度であり項目数が17項目と多いため測定に時間を要する。そこで我々は定量的な評価が可能な座位での側方リーチテスト (Sit - and - Side Reach Test : SSRT ) 考案した。SSRTはTCT, TISとの併存的妥当性が確認されているがその再現性は報告されていない。そこで本研究の目的はSSRTの検者内・検者間再現性と測定誤差を検討することとした。<BR>【方法】対象は当院回復期病棟及び療養型病棟に入院中の脳卒中片麻痺患者32名 (男性17名, 女性15名, 平均年齢67.6± 16.4歳) とした。重篤な脊柱の変形を有する者, 高次脳機能障害等により指示を理解できない者は除外した。SSRTの測定にはハンガーラックを用いて作成したスライド式の測定器と40cm台を用いた。測定は開始肢位を40cm台上に端座位をとり, 測定器を非麻痺側肩峰の高さに合わせた後, 非麻痺側肩関節90°外転, 手指伸展位とし, 非麻痺側へ最大リーチするように指示した。測定中は非麻痺側下肢を床面から動かさないように注意を促した。SSRTは初めの2回を練習とし, その後3回測定し, 各測定値及びその平均値を統計解析に用いた。検者間再現性を検証するために測定は2名の検者で合計2セッション行った。2セッション目の測定は最初の測定より1~2日以内に測定した。また他の検者の測定結果を測定終了時まで教えないことで, 先入観に基づく測定バイアスを排除した。検者内再現性の検討には測定値間の級内相関係数 (Intraclass Correlation Coefficient: ICC) を求め, 検者間再現性の検討は各検者の測定平均値の差を対応のあるt検定にて確認し, そのICCを求めた。また測定の精度を検証するために測定標準誤差 (Standard Error of Measurement: SEM) , 最小検知変化 (Minimal Detectable Change: MDC) を算出した。有意水準は5%とした。SEMは測定値に生じる誤差を表し, MDCは検知可能な変化の最小値を表す。<BR>【説明と同意】本研究は, 研究実施施設長の許可を得て行われた。全ての対象者には文書にて本研究の趣旨を説明し, 書面での同意を得た。<BR>【結果】SSRTの測定値は平均22.8± 7.5 cmであった。各検者の測定平均値の間に有意な差はなかった (P > 0.05)。SSRTの検者内再現性は検者AにおいてICC = 0.97 (95%信頼区間 (CI ): 0.94-0.98) , 検者BはICC = 0.97 (95%CI: 0.95-0.99) であった。また検者間再現性はICC = 0.91 (95%CI: 0.82-0.96) で, SEMは2.3 cm, MDCは6.4 cmであった。<BR>【考察】今回の結果からSSRTは良好なICCを示し、検者内・検者間再現性が高いと考えられる。またSSRTを用いた場合には測定結果に2.3 cm程度の測定誤差が生じることが明らかになった。その測定誤差はSSRTの平均値の約10%程度であった。MDCは一症例のSSRTを経時的に測定し, その変化が統計学的に有意と認められる最小値であり, 1回の測定で6.4 cmの改善または悪化がないと真の変化とは言えず, それ以下は測定誤差の範囲内であることが示唆された。これらのことからSSRTは優れた再現性, 測定の精度を有していると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者において体幹機能の重要性が報告されている。体幹機能を評価する方法にはいくつかの方法が報告されているが評価の天井効果や項目数の多さ, 定量的な評価ができないといった問題点がある。SSRTは評価方法の特性上, 簡便かつ客観的で連続尺度による定量的な評価が可能である。今回の結果からSSRTは優れた再現性, 測定の精度を有しており, 脳卒中患者の体幹機能の経時的な変化を評価することも可能であると考えられる。今後はさらにSSRTの測定特性について検討していく必要がある。
著者
兼松 大和 徳久 謙太郎 宇都 いづみ 鈴木 敏裕 大成 愛 三好 卓宏 藤村 純矢 高取 克彦 庄本 康治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0680, 2007

【はじめに】<BR>ファンクショナルリーチ(FR)テストは臨床や研究場面、介護予防事業などで広く用いられている動的バランスの臨床評価指標である。先行研究によると健常成人や高齢者におけるFRテストの再現性は良好であると報告されている。しかし、脳卒中片麻痺患者においてその再現性を検討した報告は少ない。また、一症例の継時的な動的バランス変化の有無を評価する際には、測定値にどの程度の測定誤差が生じるかを知ることは有用である。本研究の目的は、脳卒中片麻痺患者におけるFRテストの検者内再現性と測定誤差を明らかにし、実際の臨床での評価場面において有用な情報を提供することである。<BR>【対象及び方法】<BR>対象は2施設に入院中の脳卒中片麻痺患者のうち、立位保持が20秒以上可能で、指示理解良好な者31名(男20名・女11名、平均年齢69.2±10.8歳)である。FRはハンガーラックにメジャーを貼り付けて作成した自作の測定器にて測定した。靴を履いた状態で測定すること、肩峰の位置から前方リーチによる最大到達点までの距離を測定し、上肢長を引いてFR算出すること以外はDuncan等による原著の方法に従った。測定は同一検者により行われ、2回の練習後、3回の測定を1セッションとし、2セッション実施した。セッション間隔は1~2日とした。<BR>【分析】<BR>検者内再現性の検討には、異なるセッションの測定値間の級内相関係数(ICC)を求めた。測定誤差の分析は一般化可能性理論により行った。セッションと反復を要因とする2要因完全クロス計画の下、主効果と交互作用の分散成分推定量を求めた。この情報を基にセッション回数や反復回数を変更した測定条件下での測定の標準誤差standard error of measurement(SEM)および最小検知変化minimal detectable change(MDC)を求めた。<BR>【結果】<BR>異なるセッションの測定値間のICC(1,1)は0.975であった。SEMとMDCは1回の測定では1.7cmと4.8cmであり、測定反復回数を変更すると2回の平均値では1.4cmと4.0cm、3回の平均値では1.3cmと3.7cmに減少した。測定セッション回数を変更すると、2回の平均値では1.4cmと3.8cmに減少した。<BR>【考察・まとめ】<BR>異なるセッションの測定値間において優秀な級内相関が得られたことから、脳卒中片麻痺患者のFRテストの検者内再現性は良好であるといえる。原著の方法と同じく2回の練習後、3回測定の平均値を使用した場合、1.3cmのSEMが生じることが明らかになった。MDCは一症例のFRを継時的に測定し、その変化が統計学的に有意と認められる最小の値であり、原著の方法では3.7cm以上の変化がないと真の変化(改善・悪化)とは言えず、測定誤差範囲内であることが示唆された。<BR>
著者
鶴田 佳世 中村 潤二 小嶌 康介 中村 佑樹 岡本 昌幸 菅野 ひとみ 尾川 達也 徳久 謙太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】「市町村介護予防強化推進事業」は,平成24年度から厚生労働省のモデル事業として13の市町村で実施された。この事業は生活範囲が狭小化した高齢者を対象に,通所と訪問を組み合わせた介護予防事業を3か月程度実施し,日常生活の改善を図った後,運動や食事を楽しむことのできる通いの場に移行して,状態の維持を図るものと位置づけられている。今回このモデル事業に参加し,行政職を含む地域の専門職と協働してアプローチすることにより機能向上のみならず,参加者の生活に密着したサービスの提供や支援を検討し,社会参加へつながった事例を経験したので報告する。【方法】事例1は要支援2の70歳代女性で肺炎後廃用症候群で,既往歴は腰椎椎体偽関節であった。ニードは腰痛が軽減し,しっかり歩きたいとのことであった。身体機能は筋力,全身持久力,歩行能力の低下があり,基本動作,ADL,IADLは一部介助であった。普段はコルセットを使用し,屋内移動は伝い歩きが何とか可能なレベルであった。事例2は要支援2の80歳代男性で両変形性膝関節症であった。ニードは体力の低下とともに辞めた趣味の再開と元気になって外出したいとのことであった。身体機能は筋力,全身持久力,歩行能力の低下があり,ADLは自立,IADL一部介助で,屋内はT字杖歩行自立,屋外は一部介助で外出の機会は少なかった。事業の開催頻度は3か月間を1クールとし,通所が1回2時間,2回/週で全24回,訪問が1人あたり1から3回/3か月であった。参加者は各クール約15名程度で,地域ケア会議は3か月間で初期,中間,最終の3回開催された。通所ではマシンやゴムバンドを使用した筋力増強運動,バランス練習,療法士による個別課題練習,訪問ではIADL実施状況の評価や指導,家屋評価,住宅改修や代替案の提案,自主練習,ADL,IADL指導などを実施した。地域ケア会議では,初期から中間,中間から最終までの間の変化,目標の見直し,各専門職の役割分担などを確認し,療法士として主に運動面,自宅環境の確認と福祉用具の選定および生活環境に合わせ活動性向上のための戦略などを提案した。評価項目は,椅子長座位体前屈(体前屈),5m歩行時間,Timed Up & Go test(TUG),握力,30秒起立試験(CS30),Frenchay Activities Index(FAI),2分間ステップ(2MS)とし,初期と3か月後に評価を行った。個別の介入として,事例1では地域ケア会議において本人が習慣にしていた行動や希望を確認し,その実現可能性を多職種にて検討した。療法士は,通所での個別歩行練習と訪問での自宅内動作確認と指導を行い,体力の向上に合わせて活動範囲を広げていくために,自宅周囲の歩行練習および教室終了後に通う場所までの移動確認などを行った。事例2では,運動継続の動機づけのために疼痛のフォローが不可欠であったため,通所では疼痛,負荷管理しながらの個別運動指導を行い,訪問では自宅内動作の確認,環境面の特性を包括担当者と検討を重ね歩行練習が可能な場所や方法の検討を行った。【結果】事例1の主な身体機能面の結果は,5m歩行時間(秒)5.1から3.9,CS30(回)11から16,FAI(点)13から19点,2MS(回)測定不可から47であった。IADLは,洗濯物の取り込みが可能となり習慣化したこと,近所の神社へのお参りや友人宅への訪問を再開するなどの活動性の向上がみられた。事例2の結果は,5m歩行時間6.3から4.3,CS3014から19,FAI20から21,2MS47から59であった。IADLは,自宅の庭の手入れの再開や家事への参加,教室終了後にボランティアに参加するなど活動性向上を認めた。【考察】事例1では,本人の元の生活を取り戻したいという意欲を目標に取り込み,関連ある目標を段階的に設定し,達成していくことで機能,活動,参加での改善がみられた。事例2では疼痛管理と自主練習の指導,個別の運動負荷設定を行うことで,同様の改善がみられた。従来の介護予防教室では,ADLやIADLの変化まで追跡するのは困難であったが,今回地域ケア会議を通して個人因子を深く検討したこと,通所と訪問の併用により機能,活動,環境の面から多職種が連携して評価・介入が出来たことでADL,IADLにまで介入し改善がみられた。それに加え予防を意識した活発な生活環境を提供することができた。【理学療法学研究としての意義】今後,地域包括ケアシステムに理学療法士が参画するうえで,地域ケア会議を含む多職種と連携していく場において,参加者中心の生活を捉えた包括的介入に効果的な関わりを持てることを示すことができた。
著者
高取 克彦 岡田 洋平 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 奥田 紗代子 鶴田 佳世 庄本 康治 嶋田 智明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.52-58, 2007-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
33
被引用文献数
4

リハビリテーション専門病棟入院中の慢性期脳卒中片麻痺患者32例を対象に,Functional reach test(FRT)を応用した非麻痺側上肢の最大リーチ見積もり距離(Perceived reachability: PR)を評価し,実際のリーチ距離との誤差(以下,誤差距離)と入院期間中に生じた転倒回数との関係を調査した。PRはリーチ目標物が遠位から近位に接近する条件で評価し,誤差距離は実測値との差を絶対値で記録した。また両者の関連性を,他の要因を含めて検討するために,調査項目にはこの他,FIM移動項目点数,Functional reach距離(FR距離),下肢Brunnstrom's recovery stage,下肢感覚障害の程度,転倒恐怖心を含めた。解析は誤差距離と転倒回数との相関と,転倒の有無で分類した2群間の誤差距離とFR距離それぞれの比較,および上記評価項目の全てを含めた転倒関連因子の抽出とした。誤差距離と過去の転倒回数との関係にはピアソンの積率相関係数を用い,転倒関連因子の抽出には目的変数を転倒の有無に2項化したステップワイズ法でのロジスティック回帰分析を用いた。結果として,誤差距離と転倒回数には有意な相関が認められた。また転倒の有無を基準に2群化した場合,誤差距離は転倒群が有意に大きかった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果では,誤差距離,FIM移動項目点数,性別が転倒関連因子として採択された。回帰式を用いた判別分析による予測判別率は85%であり,転倒群の92%は6cm以上の誤差距離を有していた。以上のことから,片麻疹患者に対するFRTを応用したPR見積もり誤差の評価は,転倒ハイリスク患者を判別する簡便な評価法の1つとなる事が示唆された。
著者
岡田 洋平 高取 克彦 梛野 浩司 徳久 謙太郎 生野 公貴 鶴田 佳世 庄本 康治
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.279-284, 2008-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
3

本研究は,地域高齢者163名(平均年齢75.9 ± 5.2歳,男性55名女性108名)を対象に,自己の身体能力の認識誤差の指標としてリーチ距離の見積り誤差(Error in estimated reach Distance: ED),および転倒恐怖心を評価し,転倒との関係について調査した。評価項目は,過去1年間の転倒歴,Functional Reach Test(FRT),ED,ED絶対値(|ED|),転倒恐怖心(Falls Efficacy Scale: FES)とした。データ解析は,「転倒無し」「1回転倒」「複数回転倒」の3群における各調査項目の比較,「複数回転倒の有無」に関係する調査項目の抽出を行った。その結果,EDは,複数回転倒群は負の値を示し,転倒無し群と比較して有意に小さく,自己のリーチ能力を過大評価する傾向にあった。複数回転倒の有無を目的変数,FRT,ED,|ED|,FESを説明変数として,年齢と性別を調整して多重ロジスティック回帰分析を行った結果,複数回転倒の予測因子としてEDとFESが選択された。以上の結果から,リーチ距離の見積り誤差が地域高齢者の複数回転倒に関連している可能性が示唆された。
著者
徳久 謙太郎 松田 充代 松尾 篤 冷水 誠 庄本 康治 鶴田 佳世 宇都 いづみ 高取 克彦 梛野 浩司 生野 公貴 岡田 洋平 奥田 紗代子 竹田 陽子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0798, 2006

【はじめに】ハンドヘルドダイナモメーター(以下HHD)は簡易かつ携帯性に優れた等尺性筋力測定器であり、先行研究によるとその再現性・妥当性は良好であるとの報告が多い。しかし従来の徒手による膝伸展筋力測定方法では、女性検者のHHD固定力に限界があり、筋力が強い場合には正確に測定できないことや、被検者の体幹筋力が弱い場合には、転倒防止のため2人のセラピストが必要になることなど、臨床的有用性にはまだ問題がある。そこで今回、HHD固定力を強化し、臨床において安全かつ簡易に測定できることを重視した測定方法である「H固定法」を考案し、その男女検者間再現性や、測定にベルトを使用した場合との同時妥当性、及び測定時間の比較により簡便性を検討した。<BR>【対象及び方法】対象は、当院通所リハビリテーション利用者の内、中枢神経疾患の既往のない者25名(男7名、女18名)である。検者は、HHD使用経験のある理学療法士男女2名で、HHDはアニマ社製μTas MF-01を使用した。測定は当院で考案したH固定法にて行った。H固定法は、被検者の肢位を車椅子座位にて下腿下垂位とし、検者のHHDを装着した上腕を同側下肢にて補強することにより、HHDの強力な固定を可能にしている。測定は、各被検者に対し男性検者・女性検者・ベルト使用にて1回ずつ、測定順序はランダムに実施した。測定結果は測定終了時まで、被検者および検者に知らせないことにより測定バイアスを排除した。測定時間は、オリエンテーションの開始から測定終了時までの所要時間を記録者が測定し、同じく検者には測定していることを知らせなかった。統計学的解析は、男女検者間の再現性を級内相関係数(以下ICC)にて、H固定法とベルトによる測定との同時妥当性をピアソンの積率相関係数にて検討した。<BR>【結果】男性検者と女性検者間のICCは0.96であった。ベルト使用時と男性検者、女性検者とのピアソンの積率相関係数は、それぞれ0.94、0.92であった。女性検者のH固定法による測定時間は平均2分26秒、ベルト使用時は平均4分9秒であった。<BR>【考察】山崎らは女性が徒手にてHHDを固定できる最大重量は平均19kgであったと報告している。本研究においては、筋力が19kgを超える被検者が7人いるにもかかわらず、1回の測定でICCが0.96という良好な検者間再現性が得られた。これはH固定法によるHHD固定力が、従来の測定方法よりも優れていることが一因であると考える。また、先行研究において妥当性が確認されているベルト使用による測定と高い相関がみられたことから、H固定法による測定は妥当性を有しているといえる。H固定法を使用した場合の測定時間は平均2分26秒であり、実際の臨床場面においても簡便に測定が可能である。H固定法による等尺性膝伸展筋力測定は、再現性・妥当性・簡便性のある臨床的に有用な測定方法である。