著者
小川 玲子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.241-263, 2019 (Released:2021-02-16)
参考文献数
55
被引用文献数
1 2

急速な少子高齢化が進行する東アジアにおいて,家事や介護や育児などの再生産労働を担う移住労働者は増加しており,アジアにおけるリージョナルなケア・チェーンが形成されつつある.本稿はリージョナルとナショナルなレベルにおける移住ケア労働者の構築過程を明らかにすることを目的とする.第1に比較の枠組みとして,移民レジームとケアレジームという概念を導入し,2つのレジームの交錯点に日本,台湾,韓国における移住ケア労働者を位置づけた.東アジアの福祉国家は家族主義的であることが指摘されてきたが,移住ケア労働者の①市民権とケアの質,②労働条件とケア労働市場における配置,③グローバル化する福祉国家における配置は,東アジアにおいて異なる形で行われていることが明らかになった.第2に本特集号の趣旨に照らし,日本向けの移住ケア労働者の構築過程を新制度論の観点から検討し,その過程で他者化されていくプロセスを明らかにした.技能実習生「問題」は,一部の悪徳業者や雇用主による逸脱したケースではなく,移住労働者を日本向けに成型する公式・非公式の制度の相互作用により再生産され,構造化されている.アジアに対するオリエンタリズムを克服し,ケア労働におけるキャリアパスをつくり,移住労働者を対等なパートナーとして受け入れなければ,ケアの未来はない.長期的な視野に立ち,ケア労働と移民の社会的地位を高めるような受け入れのあり方を模索する時に来ている.
著者
平野 裕子 小川 玲子 川口 貞親 大野 俊 大野 俊
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

2008年より日本インドネシア経済連携協定(以下「JIEPA」)に基づき、インドネシア人看護師らが来日したのを皮切りに、2009年からは、日本フィリピン経済連携協定(以下「JPEPA」)に基づくフィリピン人看護師らが来日した。本制度における外国人看護師の導入は、国が公的な形で導入した最初の医療福祉専門職の受入れにあたり、今後の日本の受入れ態勢を整備すると同時に、国際化社会における看護師の移住の観点から起こりうる様々な問題を抱えていた。本研究では、JIEPA,JPEPA制度に基づく外国人看護師の移住のパターンの比較を行う。本研究の研究成果の概要は以下のとおりである。1.JIEPA、JPEPAでは、看護師の受入れスキームは一部を除き、ほぼ共通していたが、実際に来日する看護師たちの社会的人口学的特徴及び来日動機は、インドネシア人、フィリピン人の間でかなり異なっていた。2.看護師の国籍によってかなり特徴は見られたにもかかわらず、日本の病院側は、「学習意欲がある者」「患者に対する接遇態度がよい者」を高く評価する傾向があり、その傾向には国籍別に差は見られなかった。3.病院側は、外国人看護師を受入れた後に職場が活性化したことを高く評価しており、その傾向には、受入れた看護師の国籍別に差は見られなかった。