- 著者
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小杉 亮子
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.216, pp.153-168, 2019-03-29
本稿では,1960年代に拡大・多発した学生運動(1960年代学生運動)について,先行研究が大規模社会変動にたいする反応や挑戦としてのみ位置づける傾向にあったのにたいし,より多面的かつ立体的な1960年代学生運動像を提示することをめざし,新たな視角として,社会運動論の戦略・戦術分析を導入する。具体的には,本稿では,1968~1969年に東京大学で発生した東大闘争における戦略・戦術を検討する。その結果,次のことが明らかになった。第一に,東大闘争では直接行動戦略がとられ,さらに,それが非暴力よりも対抗暴力を志向していったために,腕力・体力の有無と闘争での優劣や闘争参加資格とが連関するようになっていた。第二に,東大闘争終盤においては,対抗暴力が軍事的な実力闘争へと傾斜し,闘争の軍事化が見られた。第三に,1960年代学生運動の直接行動戦略が対抗暴力を志向するものとなった要因には,新旧左翼運動が持っていた実力闘争志向や武装主義と,アジア,アフリカ,ラテンアメリカにおける脱植民地・独立運動に影響を受けた第三世界主義とがあった。また本稿では,今後の展開可能性として,軍事的男性性概念の導入によって,ジェンダー的観点からなされてきた1960年代学生運動論と本稿の知見が接続しうることを示す。ジェンダー的1960年代学生運動論では,1960年代学生運動における性別役割分業や女性性の周辺化が1970年代以降の女性解放運動に与えた影響にかんする知見が蓄積されてきた。軍事的男性性という観点から,1960年代学生運動における女性参加者の動機や経験にアプローチすることによって,1960年代学生運動の軍事化とそれが運動の展開過程にもたらした影響について,さらに新たな光を当てることが可能になるだろう。