著者
鈴木 越治 小松 裕和 頼藤 貴志 山本 英二 土居 弘幸 津田 敏秀
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.786-795, 2009 (Released:2009-10-02)
参考文献数
53
被引用文献数
2 1

A central problem in natural science is identifying general laws of cause and effect. Medical science is devoted to revealing causal relationships in humans. The framework for causal inference applied in epidemiology can contribute substantially to clearly specifying and testing causal hypotheses in many other areas of biomedical research. In this article, we review the importance of defining explicit research hypotheses to make valid causal inferences in medical studies. In the counterfactual model, a causal effect is defined as the contrast between an observed outcome and an outcome that would have been observed in a situation that did not actually happen. The fundamental problem of causal inference should be clear; individual causal effects are not directly observable, and we need to find general causal relationships, using population data. Under an “ideal” randomized trial, the assumption of exchangeability between the exposed and the unexposed groups is met; consequently, population-level causal effects can be estimated. In observational studies, however, there is a greater risk that the assumption of conditional exchangeability may be violated. In summary, in this article, we highlight the following points: (1) individual causal effects cannot be inferred because counterfactual outcomes cannot, by definition, be observed; (2) the distinction between concepts of association and concepts of causation and the basis for the definition of confounding; (3) the importance of elaborating specific research hypotheses in order to evaluate the assumption of conditional exchangeability between the exposed and unexposed groups; (4) the advantages of defining research hypotheses at the population level, including specification of a hypothetical intervention, consistent with the counterfactual model. In addition, we show how understanding the counterfactual model can lay the foundation for correct interpretation of epidemiologic evidence.
著者
鈴木 越治 小松 裕和 頼藤 貴志 山本 英二 土居 弘幸 津田 敏秀
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.796-805, 2009 (Released:2009-10-02)
参考文献数
56
被引用文献数
3 3

Confounding is frequently a primary concern in epidemiological studies. With the increasing complexity of hypothesized relationships among exposures, outcomes, and covariates, it becomes very difficult to present these hypotheses lucidly and comprehensively. Graphical models are of great benefit in this regard. In this article, we focuse on directed acyclic graphs (DAGs), and review their value for confounder selection, categorization of potential biases, and hypothesis specification. We also discuss the importance of considering causal structures before selecting the covariates to be included in a statistical model and the potential biases introduced by inappropriately adjusting statistical models for covariates. DAGs are nonparametric and qualitative tools for visualizing research hypotheses regarding an exposure, an outcome, and covariates. Causal structures represented in DAGs will rarely be perfectly “correct” owing to the uncertainty about the underlying causal relationships. Nevertheless, to the extent that using DAGs forces greater clarity about causal assumptions, we are able to consider key sources of bias and uncertainty when interpreting study results. In summary, in this article, we review the following three points. (1) Although researchers have not adopted a consistent definition of confounders, using DAGs and the rules of d-separation we are able to identify clearly which variables we must condition on or adjust for in order to test a causal hypothesis under a set of causal assumptions. (2) We also show that DAGs should accurately correspond to research hypotheses of interest. To obtain a valid causal interpretation, research hypotheses should be defined explicitly from the perspective of a counterfactual model before drawing DAGs. A proper interpretation of the coefficients of a statistical model for addressing a specific research hypothesis relies on an accurate specification of a causal DAG reflecting the underlying causal structure. Unless DAGs correspond to research hypotheses, we cannot reliably reach proper conclusions testing the research hypotheses. Finally, (3) we have briefly reviewed other approaches to causal inference, and illustrate how these models are connected.
著者
小松 裕和 鈴木 越治 土居 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.397-403, 2009-07-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

「研究仮説」の善し悪しが臨床研究の質を決めると言っても過言ではない。しかし,研究仮説の立て方,洗練の仕方について記載した文献は少なく,多くの臨床医は不十分な研究仮説をもとに臨床研究を行っている。研究仮説を立てるにあたっては,対象者・曝露(介入)・コントロール・結果をきちんと定義し,反事実モデルをもとに十分に検討と議論を重ねていくことが何よりも重要である。その上で,近年疫学分野で用いられるようになっているDirected Acyclic Graph(DAG)をもとに,研究計画や解析計画を立てること,調整が必要な交絡要因について検討することが重要である。DAGは簡単な規則をいくつか理解してしまえば非常に有用なツールであり,臨床研究を行う際にも,論文を読む際にも役に立つものである。
著者
小松 裕和 鈴木 越治 土居 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.794-800, 2009-09-15 (Released:2009-11-09)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

関連と因果関係は異なる(Association is not causation)。これは有名な言葉であるが,「関連と因果関係が異なるときバイアスが生じている」と定義されている。そして,連載第3回で紹介した反事実モデルとdirected acyclic graph(DAG)はバイアスを理解し,整理する上で非常に役立つツールである。交絡バイアスはDAGの共通原因によって生じるもの,選択バイアスはDAGの共通結果を調整することによって生じるものとして整理し,情報バイアスは「系統的でない誤分類(non-differential misclassification)」を理解することが有用である。一方,結果の解釈にあたっては,バイアスが「真の値」から「推定値」を「どの方向」に「どの程度」ずらすようなバイアスか,つまり過大評価(away the null)するバイアスか,過小評価(toward the null)するバイアスかを2×2表を用いて検討をすることが重要である。
著者
小松 裕和 鈴木 越治 土居 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.288-293, 2009-05-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
5
被引用文献数
2 1

わが国においても臨床研究の重要性の認識は確実に高まってきているが,未だ地域中核病院を中心として行われる臨床研究は量的に少なく,質的にも英文での論文化に耐えうるものはほとんど見受けられない。これは臨床医の多くが統計学的な知識を重視するあまり,疫学的視点が不十分であるために起きている現象である。検定やp値を重視する傾向,バイアスについて十分な考察ができていないこと,治療や曝露の影響を定量的に推定しないことなどは,その好例である。臨床研究を行う上で,母集団と標本,サンプルサイズの計算,基本属性の比較,交絡要因の多変量解析による調整などに用いられる統計学の知識はあるに越したことはないが,臨床研究を実施するにあたっては疫学の知識がかなりの程度必要であることが多くの臨床医に理解されていない。とくに研究仮説の明確化,コントロール群の設定,解析モデルの構築,研究結果とバイアスの考察において,疫学的視点がなければ質の高い臨床研究は行うことができないのである。
著者
村上 穣 小松 裕和 高山 義浩
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.18-23, 2011-05-30 (Released:2011-08-18)
参考文献数
12

本邦ではいまだ感染症科のない医療機関が多く,そうした医療機関では院内感染への対応は各科の担当医師に委ねられている。とくにカンジダ血症のような重篤な感染症では必ずしも適正な診療が行なわれていないことが考えられる。我々は感染症科のない地域基幹病院である佐久総合病院において,2004年から2008年までに血液培養陽性でカンジダ血症と確定診断された全43例を対象に,カンジダの菌種,背景因子,治療の内訳,合併症,予後,米国感染症学会 (IDSA) ガイドラインの遵守率についてretrospectiveに検討した。カンジダの菌種はCandida albicansが最多であった。背景因子としては患者の84%に抗菌薬が投与され,79%に中心静脈カテーテル (CVC) が留置されていた。経験的治療としてはfosfluconazoleとmicafunginがそれぞれ35%を占めていたが,23%の患者は抗真菌剤が投与されていなかった。CVCが留置されていた34例中,診断後に抜去されたのは23例であった。カンジダ眼内炎の検索目的で眼科紹介が行なわれたのは42%であった。IDSAガイドラインの遵守率は42%で,カンジダ血症発症から28日後の死亡率は33%であった。本調査結果により当院ではカンジダ血症の診療について課題が多いことが明らかになったが,このような状況は感染症科のない地域基幹病院の一般的な現状と考えられる。今後はカンジダ血症に対するガイドラインに沿った適正な診療が行なわれる体制を,感染症科のない地域基幹病院でも定着させてゆくことが必要である。
著者
小松 裕和 鈴木 越治 土居 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.338-344, 2009-06-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
8
被引用文献数
3 2

論文の読み方(批判的吟味critical appraisal)は研究を行う上で基本的な技術であり,最近ではEBMの実践にあたり臨床医にも求められる能力になっている。論文を読むことを苦手とする臨床医は非常に多いが,筆者らは疫学の基本的知識と論文の書き方について勉強することが,論文を読む技術を習得する一番の近道ではないかと考えている。疫学の基本的知識としては,曝露(治療)のアウトカムへの影響を定量的に推定するために必要な疫学指標と効果指標についての理解,バイアスを考えるのに必要な研究デザインについての理解が非常に重要である。一方,論文の読み方に関しては,論文の段落構造を理解し,段落ごとに読んでいく「パラグラフリーディング」が行えるようになれば,論文を読む効率は飛躍的に向上する。そして,論文の書き方に関する各種ガイドラインを参考にしながら,論文を読んでいくことは一番のトレーニングである。
著者
小松 裕和 鈴木 越治 土居 弘幸
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.10, pp.851-859, 2009-10-15 (Released:2009-12-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

臨床研究に必要な統計的知識としては,基本属性の比較を行うにあたって「どの場合にどの検定を用いればよいか」がまず整理できることと,「交絡要因の調整」に用いられる多変量解析としてロジスティック回帰分析を理解することが基本となる。そして,臨床研究では生存期間をアウトカムとして用いる研究が多いことから,生存解析についての知識を習得することも必要である。基本属性の比較にあたっては,各種変数が「連続量変数」か「カテゴリー変数」か理解し,「2グループ」で比較するのか「3グループ以上」で比較するかによって用いる検定を決定する。ロジスティック回帰分析はアウトカムが二値の場合に用いられることが多く,曝露の影響をオッズ比として推定することができる。一方,生存解析で用いるCox比例ハザードモデルでは曝露の影響をハザード比として推定することができる。忙しい臨床のなかで臨床研究の知識を身につけるには,「疫学をしっかりと勉強してから,必要な統計的知識を増やしていくこと」が効率的であろう。