著者
小林 幹夫 濱道 寿幸
出版者
宇都宮大学農学部
雑誌
宇都宮大学農学部演習林報告 (ISSN:02868733)
巻号頁・発行日
no.37, pp.187-198, 2001-03

1998年2月から12月まで、奥日光・小田代原南測山地林の約4km2に出現するササ類の分布、生態(稈の生長、葉の展開、冬芽形成、隈取形成、積雪深、エンドファイトの有無)、生存枯死状況、ニホンジカによる食害状況を調べ、相互の因果関係を分析した。調査地内にはササ属ミヤコザサ節、クマイザサ、オクヤマザサ、ミヤコザサ-チマキザサ複合体(ミヤコチマキと呼称)、スズダケ、ナンブスズの6分類群が出現した。これらの分布図に生存枯死状況を重ね合わせた結果、ミヤコチマキ、オクヤマザサが全面枯死もしくは枯死寸前の状況にある反面、クマイザサ、ミヤコザサ、ナンブスズ及びスズダケでは健全であった。23ヶ所に2×2mの方形枠を設け、各プロット内におけるシカの食害状況を追跡調査した結果、互いに隣接する場所にもかかわらず、ミヤコチマキ、オクヤマザサ、ミヤコザサが顕著に食害を受けるのに対して、クマイザサ、ナンブスズ、スズダケはほとんど受けなかった。これらの結果は、シカがミヤコチマキ、オクヤマザサ、ミヤコザサを選択的に摂食することを示した。選択的食害を受ける3者の間での生存枯死状況の相違は冬芽が形成される位置に依存すること、積雪やエンドファイトの有無は選択性の直接的な要因ではないことが分った。
著者
田邊 純 成松 翔太 石栗 太 飯塚 和也 増山 知央 横田 信三 吉澤 伸夫
出版者
宇都宮大学農学部
巻号頁・発行日
no.48, pp.117-121, 2012 (Released:2013-10-08)

林木育種において,苗木の木材性質及び曲げ性能の評価は,材質優良家系の早期選抜のために重要である。本研究では,4年生少花粉品種由来のスギ2家系(南会津4及び東白川9)を用いて,木材性質及び曲げ性能を評価し,材質の早期選抜の可能性を検討した。成長形質,木材性質及び曲げ性能に関して,使用した2家系間に有意な差が認められた。容積密度及び晩材仮道管S2層ミクロフィブリル傾角(MFA)は,スギ未成熟材における過去に報告された値とほぼ同様の値(30°)を示した。苗木の曲げヤング率(MOE)は,気乾密度及びMFAと関係があったことから,MFA及び気乾密度によって,MOEを早期推定できることが示唆された。しかしながら,供試した材料のほとんどに圧縮あて材が存在していた。そのため,苗木を用いてMFAを指標として材質を早期評価するためには,圧縮あて材の存在に注意すべきであることが明らかとなった。
著者
松木 愛子 村上 毅 田坂 聡明 有賀 一広 松英 恵吾
出版者
宇都宮大学農学部
雑誌
宇都宮大学農学部演習林報告 (ISSN:02868733)
巻号頁・発行日
no.52, pp.25-30, 2016-05

作業道新設のための踏査や林分構成の把握のため,森林内微地形や樹木位置などの簡易な測定が必要とされている。本論文では,市販のレーザ距離計(Leica DISTO A6)とArduino制御の1軸,2軸回転テーブルを使用した簡易な3D測定装置を製作し,林分内の微地形,樹木位置などをポイントクラウドデータとして簡易に測定する手法を検討する。作業道通過予定点周囲の地形測定実験を実施した結果,1軸回転テーブルを用いた装置では,ポール横断測量の距離分解能10cmを上回る詳細な測定ができることが明らかにされた。さらに,2軸回転テーブルを用いた携帯型の3D測定システムを作成し,林分内の2点においてポイントクラウドデータの作成を行った後,これらの3次元点群データにマージし,樹木位置および枝下高の自動推定のためのアルゴリズムの検討を行った。この結果,今回開発した3D測定システムでは,樹木位置の推定は可能であるが,胸高直径推定を行うためには点密度が低く,また合成時の誤差が大きいため明確な推定は困難であることが明らかにされた。
著者
中善寺 涼 林 宇一
出版者
宇都宮大学農学部
巻号頁・発行日
pp.43-53, 2017 (Released:2019-06-21)

厚生労働省によると、死亡数は今後増加し、2039年に推計で約166万人とピークを迎える。今後死亡数増加に伴って葬儀件数の増加が見込まれ、葬儀では棺などで木材が利用されており、葬儀を通じた木材需要の拡大が期待される。一方で、葬儀における過去や現在の木材利用状況について扱った研究は、山田(2007)などで部分的に記述されているに限られる。そこで本研究では、葬儀における木材利用の中で、ほぼ必須とされる棺と、葬儀だけでなく追善供養にも用いられる卒塔婆について原料の変遷を明らかにすることを目的とする。棺の原料は当初、国産のモミを使用していたが、やがて南洋材などの外材利用が進み、また棺自体も1990年前半以降は中国で主に生産されるようになった。卒塔婆は、全国生産量の60~70%が東京都の多摩地域西部にあるa町周辺で作られており、原料はモミを使用し、当初は地元産を使用していたが、資源の枯渇に伴い周辺県から調達を開始し、現在は国産の他、欧州、中国などから輸入している。
著者
三瓶 広幸 石栗 太 飯塚 和也 横田 信三 吉澤 伸夫
出版者
宇都宮大学
雑誌
宇都宮大学農学部演習林報告 (ISSN:02868733)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.5-8, 2008-03-31

木材は、高い断熱性と調湿作用があり、夏涼しく、冬暖かく感じられ、紫外線を吸収し目に優しく、抗菌作用、衝撃緩衝作用を持つなど人間生活にとって優しい素材であり、適度に吸音し音響性にも優れている。また、木材は軽くて強く、金属やコンクリートなどと比べ、製造、加工時の消費エネルギーも少なく、環境に負荷の少ない材料でもある。このように木材は優れた特性を有しており、さらに、森林資源の循環利用、二酸化炭素の吸収、貯蔵等、地球温暖化防止の面からも重要であり、今後ますます利用拡大を促進していく必要がある。このような状況の中、木材利用拡大の一環として、学校生活に優れた木材の特性を取り入れ、鉄筋コンクリートRC校舎を木造校舎に建て替える動きがある。栃木県においても鹿沼市立鹿沼西中学校では、木造校舎への建て替えが行われた。そこで、木材の持つ特性の効果を評価し、今後、木造校舎建設の推進など、木質資源の利用拡大を促進していくための資料とすることを目的とするため、鹿沼西中学校において、以前の鉄筋コンクリートRC校舎と現在の木造校舎での生活・教育環境の違いを比較するアンケート調査を実施した。