著者
小林 愛
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2017-03-31

人と動物の関係に関する研究は、人と動物の心的つながりや、動物からの恩恵など今日までに様々行われている。特にコンパニオンアニマルからもたらされる恩恵は人と動物の日常的な関係から生じると考えられている。適切な社会化、人との良い経験、身体的接触は人と動物の関係の基礎であり、人と動物の情緒的つながりである絆の形成に寄与する。社会性の高い犬と比較し、猫は単独行動をする動物であることから、人から自由気ままな動物で、人に対して社交性がないという印象を受けている。しかし、近年人と猫の相互作用に関する研究が発展し、猫も人に対する社交性があり、人と直接的に関わりをもつことが明らかとなってきた。例えば、大人は猫に話しかけ猫が近づいてくるのを待つが、子どもは積極的に猫に近づくため、猫は子どもよりも大人を好むことが示されており、人側の関わり方により猫の行動が変化することが示されている。また、シェルターから猫を譲渡された飼い主に猫を選んだ理由を調査した研究では、猫の活発で友好的な行動を理由に挙げた飼い主が多く、猫の行動が飼い主の猫との関わりの起点となっていることが示唆されている。これらのことから猫との直接的な関わり方が人と猫の双方に影響し、関係性を変化させていくことが考えられた。そして関わりの場面における両者の行動学的ならびに生理学的な評価を得ることが、人と猫の関係の理解に重要と考えた。そこで本研究は人と猫の日常的な関わり方、特に人が猫をなでるという行為に着目し、人が猫をなでることによる人と猫への影響を生理学的に明らかにすることを目的とした。1章 日常的な人と猫の関わり方の調査と人から猫への愛着に関与する関わり方の抽出 愛着は幼児と母親の間で形成される情緒的絆の起点であり、個体間の関係性の根本をなす。人と猫においては、猫への愛着が高い飼い主は飼育放棄することが少ないことが報告されており、人と猫の間においても愛着を介した絆が存在する可能性がある。このことから、人と猫の両者の関係の評価として愛着に着目した。猫と飼い主の交流時間や交流内容が、家族構成や飼育環境の違いにより異なることが明らかとなっているが、どのような日常的な関わり方が猫への愛着に関係するかを明らかにした研究はない。第1章では猫の飼い主と猫の日常的な関わり方の調査研究を行い、飼い主の猫に対する愛着に関与した関わり方を明らかにすることを目的とした。猫の飼い主を対象にウェブにてアンケート調査を行なった。調査項目は4部構成であり、第一部は年齢や性別などの猫に関する基本情報17問、第二部は「猫に話しかけるか」、「猫は近づいてくるか」などの猫と飼い主の普段の関わり方についての21問、第三部は飼い主の猫に対する愛着34問、第四部は年齢や性別などの飼い主自身の基本情報の10問の回答を得た。有効回答数は602部であり、最も多かった関わり方は飼い主が「猫に話しかけること」(97%)であり、次いで「猫は飼い主になでられることが好き」(90%)であった。「飼い主が猫の要求を受け入れること」は61%、「猫とコマンドによる交流をする」は14%であった。「猫をなでる」と「猫の要求を受け入れる」は飼い主の猫への愛着に強く関与していた。この他にも「交流時間」、「猫が飼い主の近くにいる」、「コマンドによる交流」が愛着に関与しており、全て正の関連があった。第2章 猫をなでることによる人のストレス緩衝作用 第1章で明らかにした人の猫への愛着形成に関与する日常的な関わり方のうち、「猫をなでる」に着目した。これまでの研究でペットをなでることを含んだ交流は、人の血圧と心拍数の減少をもたらすことが報告されている。この効果が心疾患のリスクの軽減に寄与していると示唆されており、心疾患リスクの軽減の要因としてストレスの緩衝作用が考えられる。このことから猫との「なでる」を介した交流が人のストレスを軽減させると仮説を立てた。そこで第2章では、猫との交流が人のストレス負荷に与える生理的影響を調べた。 心疾患と猫アレルギーのない大学生11名(男性8名、女性3名、平均年齢21.1±0.3歳)を対象にした。11名のうち6名は供試猫と、5名は供試犬と普段から関わりがあった。実験の流れは20分の安静(pre)ストレス負荷として暗算(MA)5分、猫との交流、犬との交流、交流なしのいずれかを行う20分間の交流(Int)、15分安静(post)であった。3つの交流の順序はランダムであり、全て異なる日に行なった。本研究室で飼育している猫と犬各1頭が実験に参加した。人は唾液中コルチゾール濃度と心拍変動(HRV)、心理尺度(POMS2)、猫と犬をなでた時間を評価指標とした。また、猫と犬の評価も行いHRVと人になでられた時間を評価指標とした。HRV解析では時間領域解析を行いRR間隔であるRRI、自律神経全体の指標であるSDNN、副交感神経活性の指標であるRMSSDを算出した。RRI、SDNN、RMSSDはすべてpre、Int、post、に比べMAが有意に小さくなった。交流20分間のSDNNは交流なしよりも猫との交流で有意に小さくなった。唾液中コルチゾール濃度に有意差はなかった。POMS2の活気スコアの変化量は交流なしと比較し猫と犬との交流後で有意に高くなった。猫は人になでられていない時よりなでられている時にRRIが長くなった。猫のSDNNとRMSSDは人になでられている時となでられていない時で有意差はなかった。猫とは反対に、犬はなでられていない時はなでられている時に比べRRI、SDNN、RMSSD全てで有意に大きくなった。人になでられている時間と猫のRMSSDに正の相関がありSDNNとの相関関係はなかった。 以上の結果から、ストレス負荷課題は人にとってストレスとなり自律神経系を活性化させた。交流なしに比べ猫との交流でSDNNが小さかったことは、副交感神経活性には差がなかったため交感神経活性が抑制されたことが考えられた。従って猫との交流はストレス軽減効果がある可能性が示された。さらに猫や犬との交流により活気が増加したことから、猫と犬の交流は人のポジティブな気分を増加させることが示された。猫はなでられている時間が長いほどリラックスする、またはリラックスしているほど猫は人になでられることを受け入れることが考えられた。猫にとって人になでられることは、猫同士で行う相互グルーミングの役割となる可能性が考えられた。一方犬では、人になでられている時にリラックスせず自律神経系が活性化した。これは普段行なっている遊びやコマンドによる交流を期待していたことが考えられた。第3章 猫をなでることによる人の情動中枢への影響 2章で猫をなでることを含んだ交流により人のポジティブな気分の増加が示された。人は猫をなでるとき、猫の様子や行動を読み、猫のリラックスした状態を感じ「柔らかくて気持ちいい」などの情動が付随して起こることが予想される。このことから、猫をなでることは人の社会的情動の中枢に影響する可能性がある。社会的情動に関連のある脳部位として下前頭回に着目した。3章では猫をなでることが人の情動制御中枢に与える影響を明らかにすることを目的とした。 右利きで猫アレルギーのない麻布大学に在籍中の学生30名(男性10名、女性20名、平均年齢20.0±1.6歳)を対象に実験を行なった。猫は2章と同じ猫を用いた。頭部前頭葉に16ヶ所の血流量を評価できるNIRSを装着し、同時に胸部に心拍計を装着した。6つの接触課題(猫のぬいぐるみの背中に手を置く(TP)、猫のぬいぐるみを一定の速さでなでる(SP)、猫のぬいぐるみを自由になでる(FP)、本物の猫の背中に手を置く(TC)、本物の猫を一定の速さでなでる(SC)、本物の猫を自由になでる(FC))をランダムに行なった。各課題後に感情評価を行い、心拍データは心拍変動解析に用いRMSSDとSDNNを算出し自律神経活性を評価した。その結果、女性の右下前頭回ではぬいぐるみよりも猫に接触したときに活性が高くなった。さらに女性の右下前頭回の活性は人のRMSSDと正の相関、SDNNと負の相関があり、感情価はぬいぐるみよりも猫に接触したときに高かった。右下前頭回は表情やジェスチャーを見たときに活性することが報告されており、猫に触れたことにより活性した可能性がある。女性にとって猫に触れること、猫をなでることは快情動とリラックスを伴うことが示唆された。総合考察 猫をなでることは日常的に多く行われており、人の猫への愛着に関与することが示された。さらに、猫のリラックス状態と人になでられる時間は正の関係があった。これより猫がリラックスしている時になでることは直接的な関わりを長くすることにつながること、またはなでる時間が長いほど猫はリラックスすることが考えられた。そして人は猫をなでると快感情とリラックスを伴うことが示され、相互に作用していることが明らかとなった。人との良い経験と身体的接触は人と動物の絆形成に寄与することがいわれており、リラックスを伴う猫をなでる関わり方を繰り返すことは、人と猫の情緒的結びつきを生じさせる要因となる可能性が示された。男性への影響は検討の余地があるが、日常的に猫をなでることは人と猫の友好的な関係構築に有用であると考察した。
著者
小澤 秀介 小林 愛子 高津 亜希子 神田 博仁 山折 大 塩沢 丹里 大森 栄
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.202-208, 2016-03-10 (Released:2017-03-16)
参考文献数
20

We report the case of a 35-year-old pregnant woman treated with the calcium channel blocker, nifedipine, for maintenance tocolysis. She was hospitalized due to preterm labor at 21 weeks of gestation by her previous physician. A rash appeared following ritodrine hydrochloride administration for maintenance tocolysis. After changing to magnesium sulfate, a rash appeared again. As these rashes were suspected to have been induced by ritodrine hydrochloride and magnesium sulfate independently, consecutive treatment with these drugs was difficult. Therefore, she was transferred to our hospital for follow-up. At 28 weeks 6 days of gestation, treatment with nifedipine for maintenance tocolysis was started after receiving written informed consent, and the medication was approved by the institutional review board of our hospital. The attending pharmacist considered fetal/neonatal adverse effects of nifedipine, such as teratogenicity, fetotoxicity, and neonatal complications, as well as maternal side effects, such as headache, constipation, and excessive blood pressure drop. The pharmacist provided drug information about nifedipine to the attending physicians and nurses, and gave medication counseling to the patient. Following oral administration of 80 mg of nifedipine daily (20 mg every 6 hours), headache and constipation were evident but gradually improved. Neither excessive blood pressure drop nor exacerbated uterine contraction was observed throughout the period of nifedipine treatment. This medication was finished at 34 weeks 5 days of gestation and the patient was discharged at 36 weeks 2 days of gestation. She delivered a baby at 40 weeks 3 days of gestation.
著者
小林 愛
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2017

元資料の権利情報 : 本論文の一部は以下のとおり公表されている。Part of this dissertation is an Accepted Manuscript of an article published by Taylor & Francis in Journal of Anthrozoös on 2017, available online: http://wwww.tandfonline.com/10.1080/08927936.2017.1335115Kobayashi, Ai ; Yamaguchi, Yusuke ; Ohtani, Nobuyo ; Ohta, Mitsuaki(2017). The Effects of Touching and Stroking a Cat on the Inferior Frontal Gyrus in People, 30(3), 473-486.
著者
赤石(喜多) 記子 五月女 まりえ 小林 愛美 山下 美恵 長尾 慶子
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.153-162, 2011-04-05
被引用文献数
2

スペルト小麦粉にレーズン,麹,ヨーグルトより得た発酵液を添加したドウ及びパンを作り,物性面,機能面,嗜好面から検討した。・麹発酵液添加ドウは[ストレート法]よりも[中種法]で調製した方が,グルテンの伸展性が低下し,パンの膨化性が悪く,破断エネルギーが高値を示した。・ヨーグルト発酵液添加ドウは[ストレート法]よりも[中種法]で調製した方がパンの比容積は上昇し,破断エネルギーは低値を示した。・走査型電子顕微鏡観察よりパン内部の気泡状態は物性に影響を及ぼすことが明らかとなった。・ドライイーストパンよりもこれら発酵液添加パンの抗酸化性は高く,官能評価でもレーズン,ヨーグルト発酵液添加パンの嗜好性は高かったことより,パンに食品素材由来の発酵液を添加することの有用性が認められた。

2 0 0 0 OA 西洋演劇史

著者
小林愛雄 著
出版者
赤城正蔵
巻号頁・発行日
1914

2 0 0 0 OA 秋の調べ(一)

著者
小林 愛雄[作詞]
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1985-11

1 0 0 0 近代詞華集

著者
小林愛雄 著
出版者
春陽堂
巻号頁・発行日
1912