著者
中澤 秀一 小澤 薫
出版者
静岡県立大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、憲法 25 条で保障された「健康で文化的な生活」を営むためには、生計費が最低どの程度必要になるのかについて明らかにするために各地で最低生計費の試算を行った。その結果、現在の最低賃金制度や社会保障制度のもとでは、「健康で文化的な生活」を営むことは難しいことが明らかになった。最低賃金は少なくとも1300円、人間らしい労働時間を考慮に入れれば1500円以上が必要であるし、子どもを育てている世帯では住宅費や教育費を軽減する社会保障制度がなければ、貧困問題はますます深刻になっていくだろう。
著者
小澤 薫
雑誌
経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.49, pp.227-239, 2017-10-10

本研究では,生活保護ケースワーカー,査察指導員の業務とそれへの意識から福祉事務所が直面している課題を明らかにすることを目的としている。研究対象は,新潟県内の福祉事務所で,生活保護業務を担当する現業員と査察指導員の全員とし,郵送で調査を行った。「担当ケース数」「所持資格」「経験年数」「訪問計画通りの訪問」「仕事への意識」などの項目から分析を行った。「希望の部署でなかった」「早く異動したい」という現在の職場・仕事に対して否定的な回答が多かった。その背景として,過重な業務量,専門性の欠如,指導支援体制の未確立という点が挙げられた。住民の福祉を守る最前線としての福祉事務所において,生活保護業務の意義を確認し, 1 人ひとりの住民,利用者に向き合う体制,組織として課題に取り組む体制が求められている。あわせて,国の決定だけでなく,自治体として住民の福祉を支えていく体制の在り方を見直していく必要がある。
著者
小澤 薫
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.132-140, 2013-03-20

本稿は,高齢者の所得保障と年金に関して,高齢者の生活実態と公的年金制度の動向,今後の方向性,課題について明らかにするものである。まず,多くの論者が活用する政府統計による高齢者の生活実態に関する著作,論文を取り上げ,さらに近年進められている最低生計費調査にも触れた。生活問題を検討するためには,収入と支出の両面で考える必要がある。次に制度上現れる低年金者,無年金者の問題,進む年金制度の「改定」によって現れる定年年齢と年金支給開始年齢の間にある「空白期間」について,雇用の現状を踏まえて検討した。その上で,公的年金のあり方とその財源について,社会保障の理念に立ち返り,進む社会保障制度改革の議論について,批判的にみた。そして,高齢者の所得保障として,年金だけでなく社会制度を体系的に捉えることの重要性と,単なる所得保障ではなく,国民の生活を保障する「生活保障」の視点が不可欠であることを指摘している。