著者
川邉 千津子 石井 洋平 藤木 僚 小路 純央 森田 喜一郎
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.451-461, 2013-10-15

要旨:「神経衰弱」実施による脳機能の精神生理学的評価および治療効果の検証へと繋げるため,高次脳機能障害(患者)群と健常群を対象に,前頭極部,前頭葉背外側部,頭頂葉前中部の酸素化ヘモグロビン変動量を近赤外分光法を用い検討した.結果は,患者群は健常群と比較し有意な低下(前頭極部,前頭葉背外側部,頭頂葉前中部いずれもp<0.001)を認めた.また酸素化ヘモグロビンは,健常群では時間経過に伴う増加や左前頭葉背外側部と右頭頂葉前中部で対側と比較し増加を認めたが,患者群では時間経過に伴う増加や左右差を認めなかった.患者群は「神経衰弱」の遂行に関与するワーキングメモリーを司る部位が十分に賦活されていないことが確認された.
著者
浅海 靖恵 森田 喜一郎 松岡 稔昌 小路 純央 中島 洋子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2028, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】事象関連電位のP300成分は、認知機能を反映する精神生理学的指標として、統合失調症などの精神障害者様をはじめとし多くの研究がなされてきた。一般に、アルツハイマー型認知症患者様のP300潜時は延長すると報告されている。我々もアルツハイマー型認知症患者様では、P300振幅の低下と潜時の延長という特徴があると報告してきた。今回、もの忘れ外来に受診された方を対象に、泣き、笑い写真提示時のP300成分の解析を行うと共に、HDS-R、MMSEおよびMRIの検査を実施し認知症患者様群の特性を検討したので報告する。【方法】久留米大学もの忘れ外来に受診された被験者34名(72.73±7.51歳)を対象とした。総ての被験者は、非認知症群(HDS-Rが21点以上、MMSEが24点以上)20名、認知症群(HDS-Rが20点以下あるいはMMSEが23点以下)14名であり、2群間の年齢に有意差は観察されなかった。総ての被験者は右ききで、脳梗塞、脳出血等の既往が無く、言語機能・聴覚機能にも障害はなかった。P300測定には日本光電NeuroFaxを使用した。事象関連電位は、視覚オドボール課題を用い、標的刺激(20%の出現確率)として、赤ん坊の「泣き」または「笑い」写真を、非標的刺激(80%の出現確率)として、赤ん坊の「中性」写真を用いた。総ての被験者に、「赤ん坊の泣いている写真または笑っている写真が出たら直ぐ、ボタンを押すように」教示した。「泣き」写真、「笑い」写真は、被験者ごと順序を変更した。脳波は、国際10-20法に基づき、両耳朶を基準電極として18チャンネル(F3,F4,C3,C4,P3,P4,O1,O2,F7,F8,T3,T4,T5,T6,Fz,Cz,Pz,Oz)から記録した。P300成分は、Fz,Cz,Pz,Oz から最大振幅、潜時を解析した。P300振幅は、時間枠350-600 msの最大陽性電位とした。P300潜時は、P300最大振幅の時点とした。眼球の動きは、日本光電の修正ソフトを使用し、さらに±50μV以上の振れは除外した。認知症症状評価尺度として、スクリーニングテストは、HDS-R,MMSEを用い、MRI検査はVSRADのZスコアを用いた。統計処理は、群間比較に2元配置分散分析および1元配置分散分析、多重比較検定にFisherのPLSD、相関の検定にピアソンの積率相関係数を使用、いずれも危険率5%未満を有意とした。【説明と同意】総ての被験者には、当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した。尚、当研究は、久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている。【結果】P300最大振幅は、認知症群が非認知症群より有意に低下し、「泣き」「笑い」の表情間における差はなかった。P300潜時は、認知症群が非認知症群より有意に延長し、認知症群でFz,Czにおいて、非認知症群では、Cz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かった。P300成分と症状評価尺度との関係では、年齢と潜時の間に、被験者全体において「泣き」Fz、Czで、非認知症群において「泣き」「笑い」全チャンネルで正の相関が見られた。HDS-Rと最大振幅の間に、被験者全体において「泣き」「笑い」Cz,Pzでやや正の相関が見られ、 HDS-R、MMSEと潜時の間に、被験者全体において「泣き」Pz「笑い」Czでやや負の相関が見られた。VSRADのZスコアとP300の間には、被験者全体において「泣き」「笑い」全チャンネルで潜時との間に正の相関が、Fz,Czで最大振幅との間に負の相関が見られた。なおVSRADのZスコアは認知症群が非認知症群より有意に大きい値であった。【考察】今回の結果において、P300最大振幅が、認知症群で有意に低下したことは、認知症群では非認知症群に比べ、注意資源の分配量が低下していることを示すものであり、P300潜時が有意に延長したことは、認知症群の注意資源の分配速度が低下し、刺激の評価時間が延長していることを示すものである。またP300潜時が、認知症群でFz,Czにおいて非認知症群でCz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かったことは、非認知症群同様、認知症群においても「泣き」提示に強く情動が喚起し注意分配機能を増大させたと考える。認知症症状尺度とP300の関係において、年齢と潜時の間、VSRADのZスコアと潜時との間に被験者全体において有意な正の相関が見られた。このことより、情動関連視覚課題を用いた視覚誘発事象関連電位P300の測定は、侵襲もほとんど無く、いずれの場所でも検査が可能で認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となりえる。【理学療法学研究としての意義】今後、さらに症例数を増やし、非認知症群をより詳細にMCI等のように分類し、認知症への移行が懸念されるハイリスク中間群の早期発見・予防に役立つP300の有用性を検討していきたい。
著者
浅海 靖恵 森田 喜一郎 松岡 稔昌 小路 純央 中島 洋子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2028-A4P2028, 2010

【目的】事象関連電位のP300成分は、認知機能を反映する精神生理学的指標として、統合失調症などの精神障害者様をはじめとし多くの研究がなされてきた。一般に、アルツハイマー型認知症患者様のP300潜時は延長すると報告されている。我々もアルツハイマー型認知症患者様では、P300振幅の低下と潜時の延長という特徴があると報告してきた。今回、もの忘れ外来に受診された方を対象に、泣き、笑い写真提示時のP300成分の解析を行うと共に、HDS-R、MMSEおよびMRIの検査を実施し認知症患者様群の特性を検討したので報告する。<BR><BR>【方法】久留米大学もの忘れ外来に受診された被験者34名(72.73±7.51歳)を対象とした。総ての被験者は、非認知症群(HDS-Rが21点以上、MMSEが24点以上)20名、認知症群(HDS-Rが20点以下あるいはMMSEが23点以下)14名であり、2群間の年齢に有意差は観察されなかった。総ての被験者は右ききで、脳梗塞、脳出血等の既往が無く、言語機能・聴覚機能にも障害はなかった。P300測定には日本光電NeuroFaxを使用した。事象関連電位は、視覚オドボール課題を用い、標的刺激(20%の出現確率)として、赤ん坊の「泣き」または「笑い」写真を、非標的刺激(80%の出現確率)として、赤ん坊の「中性」写真を用いた。総ての被験者に、「赤ん坊の泣いている写真または笑っている写真が出たら直ぐ、ボタンを押すように」教示した。「泣き」写真、「笑い」写真は、被験者ごと順序を変更した。脳波は、国際10-20法に基づき、両耳朶を基準電極として18チャンネル(F3,F4,C3,C4,P3,P4,O1,O2,F7,F8,T3,T4,T5,T6,Fz,Cz,Pz,Oz)から記録した。P300成分は、Fz,Cz,Pz,Oz から最大振幅、潜時を解析した。P300振幅は、時間枠350-600 msの最大陽性電位とした。P300潜時は、P300最大振幅の時点とした。眼球の動きは、日本光電の修正ソフトを使用し、さらに±50μV以上の振れは除外した。認知症症状評価尺度として、スクリーニングテストは、HDS-R,MMSEを用い、MRI検査はVSRADのZスコアを用いた。統計処理は、群間比較に2元配置分散分析および1元配置分散分析、多重比較検定にFisherのPLSD、相関の検定にピアソンの積率相関係数を使用、いずれも危険率5%未満を有意とした。<BR><BR>【説明と同意】総ての被験者には、当研究を書面にて説明し同意を得たのち施行した。尚、当研究は、久留米大学倫理委員会の承認を得て行っている。<BR><BR>【結果】P300最大振幅は、認知症群が非認知症群より有意に低下し、「泣き」「笑い」の表情間における差はなかった。P300潜時は、認知症群が非認知症群より有意に延長し、認知症群でFz,Czにおいて、非認知症群では、Cz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かった。P300成分と症状評価尺度との関係では、年齢と潜時の間に、被験者全体において「泣き」Fz、Czで、非認知症群において「泣き」「笑い」全チャンネルで正の相関が見られた。HDS-Rと最大振幅の間に、被験者全体において「泣き」「笑い」Cz,Pzでやや正の相関が見られ、 HDS-R、MMSEと潜時の間に、被験者全体において「泣き」Pz「笑い」Czでやや負の相関が見られた。VSRADのZスコアとP300の間には、被験者全体において「泣き」「笑い」全チャンネルで潜時との間に正の相関が、Fz,Czで最大振幅との間に負の相関が見られた。なおVSRADのZスコアは認知症群が非認知症群より有意に大きい値であった。<BR><BR>【考察】今回の結果において、P300最大振幅が、認知症群で有意に低下したことは、認知症群では非認知症群に比べ、注意資源の分配量が低下していることを示すものであり、P300潜時が有意に延長したことは、認知症群の注意資源の分配速度が低下し、刺激の評価時間が延長していることを示すものである。またP300潜時が、認知症群でFz,Czにおいて非認知症群でCz,Pz,Ozにおいて「泣き」が「笑い」より有意に短かったことは、非認知症群同様、認知症群においても「泣き」提示に強く情動が喚起し注意分配機能を増大させたと考える。認知症症状尺度とP300の関係において、年齢と潜時の間、VSRADのZスコアと潜時との間に被験者全体において有意な正の相関が見られた。このことより、情動関連視覚課題を用いた視覚誘発事象関連電位P300の測定は、侵襲もほとんど無く、いずれの場所でも検査が可能で認知症の早期発見に有用な精神生理学的指標となりえる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】今後、さらに症例数を増やし、非認知症群をより詳細にMCI等のように分類し、認知症への移行が懸念されるハイリスク中間群の早期発見・予防に役立つP300の有用性を検討していきたい。
著者
小路 純央 森田 喜一郎 柳本 寛子 内村 直尚
出版者
久留米大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

我々は心理教育、認知行動療法、作業療法、軽スポーツからなる復職支援プログラムを実施し、BDI-II、SDS、HAM-D、SASS-Jに加え、今回多チャンネル近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いて、客観的評価としての有用性について検討した。プログラム施行前後で、診断名が変更となった方もおり、外来のみでの診断の困難さが示唆された。またうつ症状の改善を評価するだけでなく、社会適応能力を含めた評価が必要であることが示唆された。さらに多チャンネルNIRSより健常者に比較し脳酸素化Hb濃度変動がうつ病群で有意に低く、プログラムにより前頭前野、側頭領域において血流変動が改善することが示唆された。