著者
齋藤 佑樹 上江洲 聖 金城 正太 友利 幸之介 東 登志夫
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.22-31, 2012-02-15

要旨:我々は,作業に焦点を当てた目標設定における意思決定を共有するためのiPad用アプリケーションである作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を開発した.ADOCでは,日常生活上の作業場面のイラスト94項目の中からクライエントにとって重要な作業をクライエントと作業療法士がそれぞれ選び,協業しながら目標設定を行う.今回,重度失語症のA氏に対してADOCを用いた結果,A氏が意味のある作業に気付き,作業に焦点を当てた実践へと展開するきっかけを作ることができた.この経験から,ADOCは意思疎通が困難なクライエントとの作業に焦点を当てた意思決定の共有を促進する有用なツールであることが示唆された.
著者
西村 翔太 梅田 顕 谷村 睦美 延東 浩輝 竹林 崇
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.96-103, 2018-02-15

要旨:回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者に対し,病棟実施型Constraint-induced movement therapy(以下,CI療法)を看護師と分業して実施したので,結果を報告する.当院の病棟実施型CI療法の適応を満たした6名の亜急性期片麻痺患者に対して,1日40分の病棟実施型CI療法を10週間毎日行った.上肢機能評価は,Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA),Motor Activity Log(以下,MAL)を介入前後に採取した.結果,FMAとMALは,介入前後にかけて有意な変化を認めた.病棟実施型CI療法は有用なアプローチである可能性がある.
著者
瀧野 貴裕 竹林 崇 竹内 健太 友利 幸之介 島田 真一
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.661-668, 2018-12-15

要旨:脳卒中後上肢麻痺への治療戦略として課題指向型練習が挙げられるが,課題指向型練習単独では生活での麻痺手の使用頻度向上にはつながらないとの報告がある.今回,重度上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対し,早期から課題指向型練習を実施した.当初から上肢機能は改善したが,生活での麻痺手の使用頻度には全く変化がなかったため,Aid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(以下,ADOC-H)を用いてTransfer Package(以下,TP)を実施し,麻痺手の行動変容を試みた結果,生活での麻痺手の使用頻度が向上し,麻痺手使用に肯定的な意見を聞くことができた.回復期でのADOC-Hを用いたTPは,麻痺手の使用頻度を促進する可能性があると考えられた.
著者
阿比留 睦美 酒井 浩 澤田 泰洋 山根 寛
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.593-601, 2011-10-15

要旨:音楽刺激は,視覚刺激と比較し,より効率的に注意機能を促進するとされているが,その効果は十分明らかになっていない.そこで健常者を対象に,近赤外線分光法を用い音楽活動時の前頭葉の賦活状況を分析し,注意障害の訓練における音楽の効果を検証した.活動は,「注意課題」と「二重課題」を想定した活動を用いた.その結果,「注意課題」では有意な傾向はみられなかったが,「二重課題」で実行機能に関与するとされている左側前頭葉背外側の賦活が有意に確認できた(p<0.05).単独で用いるには課題の提示方法などに工夫が必要であるが,前頭葉背外側を用いるとされる注意機能の訓練に,音楽利用の可能性が示唆された.
著者
野口 卓也 京極 真
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.230-238, 2018-04-15

要旨:本論の目的は,精神科デイケアを利用するクライエントを対象に,Well-being(以下,幸福)を促進する作業への関わりの状態を測定できるポジティブ作業の等化評価(以下,EAPO)を活用し,臨床有用性を検討することだった.方法は,クライエントにEAPOを用いて評価を行い,介入は評価結果を参考にしながら幸福を促進する作業の学習機会を提供して支援した.その結果,クライエントは幸福を促進する作業への関わりが徐々に良好な状態となり,社会参加への制約が軽減された.EAPOは,幸福を促進する作業に根ざした実践で,作業療法士のリーズニングを補助し,多職種連携を円滑にする有用なツールであった.
著者
竹林 崇 花田 恵介 内山 侑紀 道免 和久
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.662-671, 2016-12-15

要旨:脳卒中後に非流暢性失語と右片麻痺を呈した慢性期の一症例に対して,両側の一次運動野への経頭蓋直流電気刺激と総指伸筋に対する末梢電気刺激を用いたニューロモデュレーション(Neuro-Modulation;以下,NM)後にCI療法を実施した.その結果,麻痺側上肢のFugl-Meyer Assessmentは,臨床上意味のある向上を示した.さらに,標準失語症検査における呼称を含む言語機能に改善を認めた.本症例報告は,NMとCI療法による手段的・応用的作業における麻痺手の使用が,言語機能を改善する可能性を示した.この報告により,作業療法の一部が言語練習を補完する可能性が示唆された.
著者
徳竹 いづみ 小林 正義 杉村 直哉 冨岡 詔子
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.38-46, 2008-02-15

要旨:本研究の目的は,長期入院患者と合意される作業療法目標の特徴を明らかにすることである.合意面接に同意した72名の入院患者を対象に「合意内容調査票」を用いて調査した結果,「身体・健康管理」,「楽しみ・趣味」,「気分転換」に関することが対象者と合意されやすい目標であり,面接を2回行った37名の結果からは,合意内容が作業療法経過に沿って発展していくことが確認された.これらの結果は,長期入院患者と理解しやすいことばで目標を合意することの重要性を示しており,対象者と作業療法目標を分かち合う過程は日常生活に意味や価値をもたらし,長期入院による二次的な機能低下を防ぐための基本的な援助過程と思われた.
著者
川邉 千津子 石井 洋平 藤木 僚 小路 純央 森田 喜一郎
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.451-461, 2013-10-15

要旨:「神経衰弱」実施による脳機能の精神生理学的評価および治療効果の検証へと繋げるため,高次脳機能障害(患者)群と健常群を対象に,前頭極部,前頭葉背外側部,頭頂葉前中部の酸素化ヘモグロビン変動量を近赤外分光法を用い検討した.結果は,患者群は健常群と比較し有意な低下(前頭極部,前頭葉背外側部,頭頂葉前中部いずれもp<0.001)を認めた.また酸素化ヘモグロビンは,健常群では時間経過に伴う増加や左前頭葉背外側部と右頭頂葉前中部で対側と比較し増加を認めたが,患者群では時間経過に伴う増加や左右差を認めなかった.患者群は「神経衰弱」の遂行に関与するワーキングメモリーを司る部位が十分に賦活されていないことが確認された.
著者
宮前 珠子 藤原 瑞穂
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.533-539, 2001-12-15

「これまで質的研究は,人類学,歴史学,政治学領域のみで使われてきたが,最近ではそれ以外の,伝統的には“量的研究”の領域であった心理学や,社会学,教育学,行政学,そして都市工学においても使われてきている」1)(Bailey,2001,p.40)と言われ,多くの学問領域は「現象学的アプローチに近づいてきており,実験的アプローチからは離れつつあり,厳密さには多少欠けるがより現実的になっている」8)(Yerxa,1991,p.201)とも言われる.保健医療分野での質的研究の先駆けは,米国人社会学者GlaserとStrauss(1965)による「死のアウェアネス理論と看護」2)であり,ここで初めて使われたのがグラウンデッドセオリーアプローチであった.これを機に,看護領域では急速に質的研究が注目され広く行われるようになる.作業療法領域ではこれから遅れること十数年,1980年代はじめよりごく一部の研究者によって質的研究が行われ始め,1990年代に広くその適切性,重要性が認識され多くの研究が発表されるようになってきた.但しこれは米国のことであり,我が国ではそれから遅れること約10年,1990代の終わり頃になってようやく質的研究が注目されるようになり,学会発表でも見られるようになったばかりである. この小論は,1966年から2000年まで35年間のThe American Journal of Occupational Therapy(以下,AJOTと略す)における質的研究に関する文献を,MEDLINEで検索しまとめたものである.質的研究に関連する論文としては,「質的研究について述べた文献」と「質的研究方法を使った研究」の2つに分けることができる.
著者
田中 真 小山内 隆生 加藤 拓彦 小笠原 寿子 和田 一丸
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.363-374, 2012-08-15

要旨:統合失調症患者57名と健常者30名を対象として,ぬりえ課題を用いて線画の呼称と塗った色の分析を行った.線画の呼称を正答し,かつ線画に対応した色を塗ることができた者が共に8割以上であった線画は,健常者群では12項目全てであったが,統合失調症群ではバナナとミカンの2項目であった.四つ葉のクローバーとピアノは,統合失調症群で判別できた者は健常者群よりも有意に少なかった.残りの8項目は,線画を正しく呼称していたにも関わらず対応した色を塗ることができない者が多かった.統合失調症群のぬりえの特徴は,線画を認知できるが健常者が選んだ色とは異なる色を塗る者が多いことであった.