著者
小黒 浩明 山口 修平
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.20-25, 2017 (Released:2017-08-09)
参考文献数
22

【要旨】アルツハイマー型認知症の治療早期に抗コリンエステラーゼ阻害剤の2剤、塩酸ドネペジルおよびガランタミンを投与した。ドネペジル投与群ではアパシーの改善、ガランタミン投与群では前頭葉機能の改善効果が得られた。記憶検査については改善をみなかった。これらの抗認知症薬は投与初期からアパシーと前頭葉機能賦活効果をもたらす可能性があり、同じ抗コリンエステラーゼ阻害作用でもそれぞれの使い分けができるかもしれない。
著者
小林 祥泰 小黒 浩明 卜蔵 浩和 山口 修平
出版者
島根大学(医学部)
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

高齢者の転倒に重要な因子と考えられる歩行時の危険予知能力を、事象関連電位および機能的MRIで明らかにするために、昨年に引き続き以下の研究をおこなった。被験者が実際に歩いている感覚を持つような、仮想現実空間を実現した歩行動画ビデオを昨年の段階で完成した(ソフト開発会社との共同作成)。動画ビデオの中には、歩行を妨害する刺激、すなわち突然接近する自動車やボールなどの場面を音と共に挿入した。本年度はこの刺激を用いて事象関連電位P3の測定を行った。まず若年の健常者において基礎的な検討を行った。被験者は動画中の標的刺激(アニメの犬)に対してボタン押しを行い、課題実行中の事象関連電位を測定した。そして妨害刺激に対する事象関連電位も記録し、標的刺激の反応と比較した。脳波は頭皮上16カ所から記録し、事象関連電位の頭皮上の分布も検討した。その結果、標的刺激に対する事象関連電位P3は潜時301ms、振幅13.3μVで頭頂後頭部優位に出現した。一方、妨害刺激に対する事象関連電位P3は潜時320ms、振幅11.4μVで前頭部優位であった。予期しない新奇な刺激に対する生体の反応は、定位反応(orienting response)として知られており、事象関連電位では新奇性関連P3が出現する。今回の妨害刺激に対する事象関連電位P3は、その潜時や電位の頭皮上の分布の検討結果から、新奇性関連P3と同様の反応を見ていると考えられる。その後さらに、歩行障害を呈する種々の神経疾患患者(パーキンソン病、進行性核上性麻痺、多発性脳梗塞等)での測定を行った。実際に歩行は行わないため、事象関連電位の測定は全例で可能であった。その結果、一部の患者で妨害刺激に対する事象関連電位の低下、遅延を認め、本システムによる測定が、歩行時の様々な危険物に対する認知能力の定量的評価に使用できる可能性が示唆された。今後さらに転倒の客観的指標との相関を検討することで、疾患との関連、脳内病変部位との関連、一般認知機能、特に前頭葉機能との関連、さらに歩行障害に対する治療の効果などの検討に応用が可能である。機能的MRIに上る検討も今後の課題であるが、妨害刺激に対する反応の脳内神経ネットワークの詳細が明らかになることが期待される。
著者
権 哲峰 ト蔵 浩和 飯島 献一 小黒 浩明 山口 修平
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.175-181, 2008 (Released:2008-04-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

目的:脳萎縮およびその進行に関する,無症候性脳梗塞(以下SBIと略す)や高血圧の影響について検討した.方法:脳ドックを受診した神経学的に異常のない健常成人109名(平均58.6±5.8歳)を対象とし,MRI-T1強調画像水平断で頭蓋内腔に占める脳実質の割合をBrain atrophy index(以下BAIと略す),脳断面積に占める脳室の割合をVentricular area index(以下VAIと略す)とし,それぞれ基底核と側脳室体部レベルで測定した.そして平均4.9年後に同様の測定を行い,危険因子やSBIの有無により脳萎縮の進行に差があるかを検討した.結果:年齢,性,脂質異常,肥満,喫煙歴,アルコール多飲の頻度はSBI(+)群とSBI(-)群,および高血圧群と非高血圧群で差はなかった.SBI(+)群では,基底核レベル,側脳室体部レベルともにBAIが有意に低下し(基底核レベル:p=0.02,側脳室体部レベルp=0.05),また側脳室体部レベルでのVAIも,SBI群で有意に増加していた(p=0.03).高血圧群では,基底核レベルでの初回測定時BAIは有意に低下していたが(p=0.007),側脳室体部レベルのBAI,両レベルでのVAIは非高血圧群と有意差は認められなかった.SBIや高血圧の有無による,年間のBAI, VAIの変化については有意な差がなかった.結論:無症候性脳梗塞や高血圧は,脳萎縮や脳室拡大と関連することが示唆されたが,その影響は無症候性脳梗塞の方が強いことが示唆された.