著者
山崎 彩夏 武田 庄平 鳥居 映太 鈴木 創三 清水 美香 黒鳥 英俊
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.59-66, 2010-06-20 (Released:2010-07-01)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

Geophagy (soil-eating) is one of the well-known behaviours in many primate species, but the factors influencing this behaviour have been less known. In the captive environment of Tama Zoological Park, 2 female Borneo orangutans (Pongo pygmaeus) showed geophagic behaviour that was restricted to a particular site in the naturalistic outdoor enclosure. We compared the properties of the soil at this site with those of soils from 7 other different sites in the enclosure to determine the differences between the soils. To this end, we examined the landform, vegetation type, the physical and chemical characteristics of the soils at these sites. The enclosure was situated on the hillside of secondary woodland comprising Fagaceae sp. with a gently sloping ridge on the east side and valley bottoms on the west side. The site at which the animals exhibited geophagic behaviour was located at the lowest area of the valley bottoms. We found that this area was thinly covered by a herbaceous layer with Gramineae sp., and most of ground surface was bare. The soil eaten by orangutans had a low density and was highly friable, soft, and wet. Chemical analysis revealed that the soil in the enclosure had a high Ca content (70-80%) and that soils at some points in the enclosure, including the soil at the site of geophagic behaviour, had high Fe and Mg contents. The site of geophagic behaviour was located at the bottom of the valley; therefore, soil ingredients may have accumulated easily in this soil. However, we could not find any definitive chemical factors to explain the geophagic behaviour of orangutans. One possible explanation is that since the site was bare with highly friable, soft, and wet soil, the orangutans would have been able to easily eat the soil from that site.
著者
山崎 彩夏 武田 庄平 黒鳥 英俊
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.23, pp.85, 2007

昨今は動物福祉の観点から、飼育動物の特性を考慮し、その欲求を理解した飼育環境の改善が求められるようになってきた。動物本来の行動がより発現されるような刺激を備えた飼育環境では、より主体的な行動の時間配分の表出が促され、行動レパートリーが増加することが知られている。本研究では、2005年3月に多摩動物公園(東京都日野市)に新設されたオランウータン飼育施設において、より多様で、立体的かつ広大化するという飼育環境の変化が、飼育下オランウータンの行動にいかなる質的・量的変容を及ぼすかに関し検証することを目的とし、中長期的・縦断的な観察を行ってきた。旧施設と比較し、新施設では、「飛び地」と称される約50本の自然林に覆われた面積2,092_m2_の放飼場、および「スカイウォーク」と称される全長152mのタワーが設置され、オランウータンによる、3次元空間のより多様な利用が可能となった。観察対象はボルネオオランウータン3個体(ジプシー;メス,推定51歳、チャッピー;メス, 34歳, ポピー;オス,6歳)とし、2005年3月から2006年11月の期間のうちの計156日、9:30~15:30の時間帯において、観察対象個体を1分間毎に走査するスキャンサンプリング法を用いて観察し、各観察対象個体の行動と利用空間を、瞬間サンプリング法を用いて記録した。観察した行動は、採食・休息・移動・社会的行動の各カテゴリーに分類した。その結果、新施設移動直後に活動性の低下傾向が確認され、新奇環境に対する反応性がみられた。その後は、採食に費やす時間の増加、移動と社会的行動に費やす時間の減少が示された。また、移動行動レパートリーの大幅な増加、特に立体的な空間を移動する際の行動レパートリーの増加が確認された。以上から、複雑な放飼場の構造と利用可能な空間の増大、採食対象の増加が、オランウータンの行動パターンに影響を与えたことが示唆された。
著者
山崎 彩夏 武田 庄平 黒鳥 英俊
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.21, pp.33, 2005

野生下では昼夜地上から10-20mの高さで過ごす事が多く樹上性の大型類人猿であるオランウータンは、飼育下においても立体的空間の中で自発的に上層部を好み、行動のタイプ別に利用する空間を使い分けている事が知られている。この様に全ての動物種は各々の生態状況に応じて特異的な形態適応・生理学的適応を遂げ、加えて行動学的性質との総合された結果として種としての独自性を持つに至る。またこの独自性こそが、動物にとって最重要となる生存・繁殖の為に、限られた時間をどのようにやりくりするのかを決定づける要因となり、その自発的に決定された時間の配分パターンは我々に様々な示唆を与えてくれるであろう。本研究では東京都日野市の東京都多摩動物公園で飼育されるボルネオオランウータン3個体、ジプシー(メス、48才)、チャッピー(メス、31才)、ポピー(オス、4才)の3世代に渡る母子を対象として、それまでの比較的平面的な旧飼育施設から、平成17年3月に完成した、高さ12m長さ150mを超える空中施設「スカイウォーク」を含め立体的広がりを持つような新オランウータン飼育施設に移動した場合、各対象個体が展示時間内に採食・休息・移動にあてる時間の配分、そして利用空間の在り方が、従来の飼育施設と比較してどのように変容し新環境に適応を遂げてゆくのか、その行動観察の第一報を報告する。恐らくオランウータンにとってより必需な行動ほど、より時間配分レベルの変化量が少ないまま維持されると推察される。さらにはこれまで潜在的欲求としては存在するが環境要因的に表出されなかった行動が増加する可能性もある。行動時間配分の変化を比較する事で飼育下オランウータンの生活において、どの行動の比重がより高いのかも示す事ができるだろう。
著者
山崎 彩夏 武田 庄平 黒鳥 英俊
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.22, pp.74, 2006

平成17年3月に多摩動物公園(東京都日野市)で完成した「行動展示(その動物種本来の行動特性の発現を促す機能を備えた飼育展示環境)」を導入した国内最大規模のオランウータン飼育施設が完成した。本研究では、空間が立体的広がりと複雑な環境刺激を有するようになるという飼育環境の構造的・質的変化に伴い、飼育下オランウータンにおける各行動が占める時間割合や活動性、空間利用等が如何に変容をもたらし、新規環境に対しどのような適応過程を遂げるのかに関し、中長期的な行動観察を中心として比較検討することを目的とする。<br> 観察は多摩動物公園で飼育されるボルネオオランウータン、ジプシー(メス、推定50才)、チャッピー(メス、32才)、ポピー(オス、5才)の3個体を対象とし、9時30分-15時30分の時間帯において、1分間隔の瞬間サンプリング法により、各個体の行動を行動目録に基づき観察シートに記録した。同時に放飼場平面図に、個体毎に利用した位置と高度を記録した。記録した行動は行動カテゴリーに沿って採食、休息、移動に分類し、各行動項目において観察対象個体が費やす行動時間配分を算出した。観察は旧飼育施設では2005年3月4日から2005年3月22日までの期間中の15日間、新飼育施設では2005年4月28日の一般公開から約1年間行った。<br> 2005年7月の第21回霊長類学会大会では、新規飼育環境へ移動直後にオランウータンが示した行動変容について報告したが、本発表ではより中期的な適応過程の経過を示す。
著者
金森 朝子 久世 濃子 山崎 彩夏 バナード ヘンリー マリム・ティトル ペーター 半谷 吾郎
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;ボルネオ島マレーシア領サバ州北東部に位置するダナムバレイ森林保護区は,第一級保護林に指定されている低地混交フタバガキ林である.保護区内にある観光用ロッジ Borneo Rainforest Lodge周辺2平方 kmでは,エコツアーのガイドや観光客によって豊富な動物相が確認されており,今後はエコツーリズムだけでなく学術研究や学習活動の利用が期待されている.しかし,これまでに生息相の把握を目的とした本格的な調査は行われておらず,基礎的なデータ整備を行う必要がある.そこで,本研究ではカメラトラップ法による調査を実施した.また,調査期間中には,数年に一度爆発的な果実量の増加をひきおこす一斉結実が起こった.哺乳類相の季節変化についても知見を得たのであわせて報告する. 調査方法は,赤外線センサーを内蔵した自動撮影カメラを,調査地内にあるトレイル 8本(計11km)に 500m間隔で 20台設置した.カメラは,常に 20台が稼働するように,約 1ヶ月間隔でカメラ本体もしくは SDカードと電池交換を行った.調査期間は,2010年 7月から 2011年 8月までの約 14ヶ月間,総カメラ稼働日数は 6515日であった.その結果,少なくとも 29種の哺乳類が撮影された.もっとも高い撮影頻度指標(RAI)の種は,順にマメジカ 0.11(撮影頻度割合の33.8%),ヒゲイノシシ 0.07(24.3%),スイロク0.02(7.5%)だった.その他,撮影頻度は低いものの,ボルネオゾウ,オランウータン,マレーグマ,ビントロン,マーブルキャット,センザンコウなどが撮影された.また,一斉結実期には,マメジカ,ヒゲイノシシ,スイロクの RAI値と果実量の増加に正の相関がみられた.ヒゲイノシシは,一斉結実期よりコドモを連れた親子の写真が増加する傾向がみられた.これらの結果を用いて,本調査地の哺乳類相と一斉結実による影響を詳しく紹介する.