著者
山本 博樹 深谷 達史 高垣 マユミ 比留間 太白 小野瀬 雅人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.209-230, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
70

2020年度より順次実施の学習指導要領からは「主体的・対話的で深い学び」が目指されることになる。これに対して,教師や生徒同士の説明実践に期待が寄せられるが,説明とは説き手の「説く」と受け手の「明らかになる」から成る言語活動だったはずである。ところが,一方的に「説く」だけで決して受け手自身が「明らかに」ならない言語活動が授業に紛れ込むことがある。説明という言語活動の特徴や構造を取り違えたり,短絡的に「深い学び」に直結すると誤解する場面に出会ったりもする。実は,説明活動は受け手の「明」に関わる認識論上の難題を含むのであり,これに対する教育心理学サイドの貢献を時に振り返る機会があってもよい。ここから児童生徒の「深い学び」を実現する説明実践が耕されていくからである。そこで,本論文では,説明の原義に由来する難題に研究者がいかに立ち向かってきたかを振り返り,説明実践に対する教育心理学の貢献を議論したい。想定した論点は以下の3点である。(1)説き手である教師や児童生徒は受け手の理解不振を把握できているか(論点1),(2)同じく受け手の理解不振を本当に改善できているか(論点2),また受け手の理解不振の把握・改善を基点とした説明力の育成は進んでいるか(論点3),である。
著者
山本 博樹 織田 涼 島田 英昭
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.89.17015, (Released:2018-05-25)
参考文献数
24

We examined the hypothesis that the effect of signaling on students' prose comprehension is significant only when structure strategies are deficient during production. Participants included first-year high school students (N = 120, mean age 16.0) and university students (N = 120, mean age 20.8). Students' tendencies to use structure strategies were evaluated and classified as lower-structure (LS) or upper-structure (US) strategy using the median (23 high school students and 25 university students). Participants performed sentence arrangement, recall, and reconstruction tasks. Each task consisted of expository sentences with or without signaling. The results indicated the following: (a) Signaling facilitated structure identification in organizational processes in the US strategy group of high school students, which improved their prose comprehension, whereas no effects were evident in the LS strategy group. (b) An identical effect was seen in the LS strategy group of university students, whereas it was not observed in the US strategy group. These results support our hypothesis. The boundary conditions for the effect of signaling on students' prose comprehension are discussed from the perspective of the production deficiency in structure strategy.
著者
山本 博樹 織田 涼 島田 英昭
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.240-250, 2018 (Released:2018-08-28)
参考文献数
24

We examined the hypothesis that the effect of signaling on students' prose comprehension is significant only when structure strategies are deficient during production. Participants included first-year high school students (N = 120, mean age 16.0) and university students (N = 120, mean age 20.8). Students' tendencies to use structure strategies were evaluated and classified as lower-structure (LS) or upper-structure (US) strategy using the median (23 high school students and 25 university students). Participants performed sentence arrangement, recall, and reconstruction tasks. Each task consisted of expository sentences with or without signaling. The results indicated the following: (a) Signaling facilitated structure identification in organizational processes in the US strategy group of high school students, which improved their prose comprehension, whereas no effects were evident in the LS strategy group. (b) An identical effect was seen in the LS strategy group of university students, whereas it was not observed in the US strategy group. These results support our hypothesis. The boundary conditions for the effect of signaling on students' prose comprehension are discussed from the perspective of the production deficiency in structure strategy.
著者
山本 博樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.46-62, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
85
被引用文献数
3

本稿の目的は,2015年7月から2016年6月末までの1年間を中心に,教授・学習研究の動向を概観し,今後の展望を考察することである。授業の中ではたくさんの教師が説明実践に本質的な問題を抱えていることに加えて,説明実践にかかわる問題が教授・学習領域に要請された重要な研究課題となっている。それ故,説明実践に焦点をあてて,説明実践の支えになると考えられる教授・学習領域の1年間の動向を概観する。概観にあたっては,説明実践を支援モデルの観点から捉えて,次の5つの節に分けて検討したい。それらは,1) 授業での説明の役割,2) 授業中の理解不振・学習不適応,3) 説明方略・理解方略,4) 教科に即した説明実践,5) 説明力の育成,である。これらの概観を過去30年にわたる研究動向の中に意味づけた上で,今後の展望を示す。最後に,説明の原点に立ち返り,説明実践が抱える難題を示し,この解決に資する研究推進上の原則を示したい。本稿を通して,教授・学習研究が説明実践の支えになるという可能性を提示する。
著者
山本 博樹
出版者
大阪学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

情報化社会では、受け手に情報を「分かりやすく」伝達するにはどうすればよいかという問題が重視される。同時に、このような社会では、映像情報の重要性が高いため、映像情報をいかに「分かりやすく」伝えるかを考察することが急務である。これまでの研究から、理解を支援する画面構成については、受け手の認知過程に適合するような画面構成が重要であると考えられてきた。すなわち、物語を題材とした場合、主人公の目標構造を構造化するように画面を構成することが、受け手の理解を支援することが示されている。主人公の行為が物語の最終的な問題解決にどのように結びついているかは行為の重要度と呼ばれ、階層化されているが、階層の高い行為は基本動作であり、基本動作を踏まえた画面構成が物語の理解を支援すると考えられている。そこで、本研究では、基本動作を踏まえた画面構成が物語理解の構成過程に及ぼす効果について実験研究を行った。実験では、幼稚園を被験者にし、3群を構成した。課題として簡単な出来事について数枚からなる絵画物語を作った。それらは内容が同じであっても、基本動作として重要度の高い動作が描かれた基本動作条件と基本動作として重要度の低い動作が描かれた非基本動作条件、ならびに規範的な動作が描かれた規範動作条件の三つであった。理解テストとして、絵画をランダムな順序で提示し、それらが正順になるように配列させた。各条件が理解の構成過程にどのような効果を及ぼしているかを分析するために、絵画配列行動を下位行動を分析し、また、構成結果がどれくらい正順と相関しているかについても分析を行った。以上の結果から、重要度の高い基本動作に対応させて画面を構成することが理解を支援することが示された。