著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.237-252, 2023-09-30 (Released:2023-10-06)
参考文献数
32

教訓帰納は,問題解決後に学習者が教訓を引き出す学習方略であり,その有効性が示唆されている。ところが,国語,中でも文章読解の学習における教訓帰納の介入研究は,学習者の実態からその必要性が示唆されているにもかかわらず,ほとんど行われてこなかった。そこで,本研究では,認知カウンセリングの事例から,文学的文章の学習において学習者が教訓帰納を身に付ける過程で,どのようなつまずきを示し,そのつまずきに対してどのような介入が求められるかを分析することを試みた。クライエントは,文学的文章の心情理解や記述問題を苦手とする小学4年生の女子で,読むコツ(読解方略)や問題を解くコツ(問題解決方略)を教訓として抽出することはしていなかった。そこで全10回の学習相談を通じ,カウンセラーとのやりとりを通じて抽出した教訓を用いて問題解決を促すとともに,学習方略として自ら教訓帰納を活用できるよう支援を行った。その結果,教訓帰納を学習方略として意識化できるようになり,学習意欲や学習観の面においても改善が認められた。考察では,文章読解において教訓帰納を促すための介入のポイントや研究の課題が論じられた。
著者
深谷 達史 三戸 大輔
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.44140, (Released:2021-05-26)
参考文献数
39

教育界では,自らの興味・関心を追究するような探究の学習の重要性が強調される.本研究では,探究の学習の中でも,小学校で課されることの多い夏休みの自由研究を対象に,課題の設定を主に支援する特別授業を実施した.公立小学校6年生の1学級において,2時間の特別授業を行い,設定したテーマについて調べたいことを問いとして設定させ,問いについての仮説やそれを検証する方法を考えさせた.夏休み終了後,リッカート式の項目による自己評価を求めたところ,授業を受けなかった対照群の児童に比べ,授業を受けた介入群の児童は包括的・観点別,いずれの自己評価も高い値を示した.また,探究スキルの意識化を表す,自由研究をうまく進めるコツをたずねた自由記述でも,授業での主な学習事項を挙げる児童が多かった.最後に,これらの成果を生んだ要因を考察するとともに,残された課題について考察した.
著者
山本 博樹 深谷 達史 高垣 マユミ 比留間 太白 小野瀬 雅人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.209-230, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
70

2020年度より順次実施の学習指導要領からは「主体的・対話的で深い学び」が目指されることになる。これに対して,教師や生徒同士の説明実践に期待が寄せられるが,説明とは説き手の「説く」と受け手の「明らかになる」から成る言語活動だったはずである。ところが,一方的に「説く」だけで決して受け手自身が「明らかに」ならない言語活動が授業に紛れ込むことがある。説明という言語活動の特徴や構造を取り違えたり,短絡的に「深い学び」に直結すると誤解する場面に出会ったりもする。実は,説明活動は受け手の「明」に関わる認識論上の難題を含むのであり,これに対する教育心理学サイドの貢献を時に振り返る機会があってもよい。ここから児童生徒の「深い学び」を実現する説明実践が耕されていくからである。そこで,本論文では,説明の原義に由来する難題に研究者がいかに立ち向かってきたかを振り返り,説明実践に対する教育心理学の貢献を議論したい。想定した論点は以下の3点である。(1)説き手である教師や児童生徒は受け手の理解不振を把握できているか(論点1),(2)同じく受け手の理解不振を本当に改善できているか(論点2),また受け手の理解不振の把握・改善を基点とした説明力の育成は進んでいるか(論点3),である。
著者
深谷 達史 三戸 大輔
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.213-224, 2021-09-10 (Released:2021-09-22)
参考文献数
39

教育界では,自らの興味・関心を追究するような探究の学習の重要性が強調される.本研究では,探究の学習の中でも,小学校で課されることの多い夏休みの自由研究を対象に,課題の設定を主に支援する特別授業を実施した.公立小学校6年生の1学級において,2時間の特別授業を行い,設定したテーマについて調べたいことを問いとして設定させ,問いについての仮説やそれrを検証する方法を考えさせた.夏休み終了後,リッカート式の項目による自己評価を求めたところ,授業を受けなかった対照群の児童に比べ,授業を受けた介入群の児童は包括的・観点別,いずれの自己評価も高い値を示した.また,探究スキルの意識化を表す,自由研究をうまく進めるコツをたずねた自由記述でも,授業での主な学習事項を挙げる児童が多かった.最後に,これらの成果を生んだ要因を考察するとともに,残された課題について考察した.
著者
深谷 達史 植阪 友理 田中 瑛津子 篠ヶ谷 圭太 西尾 信一 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.88-104, 2016-03-30 (Released:2016-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
16 11

学習者同士の教えあいは, 内容の理解だけでなく, 日常的な学習場面における効果的な学習方略の使用をも促す可能性がある。本研究では, 学習法の改善を企図した2つの教えあい講座の実践を報告した。2010年度の予備実践では, 理解することの重要性や教えあいのスキルを教授したにもかかわらず, 生徒の問いが表面的である, 教え手が聴き手の理解状態に配慮しないという問題が確認された。これらの問題は, 生徒が「断片的知識/解法手続きを一方的に教える」という教授-学習スキーマを保持するために生起したものと考えられた。そこで, 2012年度の本実践では, こうしたスキーマに働きかける指導の工夫を取り入れ, 「関連づけられた知識を相互的に教えあう」行動へと変容させることを目指した。高校1年生320名に対し, 講演を中心とした前半と2回の教えあいを中心とした後半(計6時間)の教えあい講座を行った。教えあいの発話と内容理解テストの分析から, 理解を目指したやり取りがなされ, 教えあった内容の理解が促進されたことが示された。また, 説明することで理解状態を確認する方略や友人と教えあいを行う方略の使用が講座により増加したことが明らかとなった。
著者
深谷 達史 戸部 栄子 立見 康彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.414-428, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
30
被引用文献数
3

説明行為に関する知識である説明スキーマは, 説明的な文章の読解と表現に共通して働く知識である。例えば, 説明的な文章が主に「問い-説明-答え」の要素からなるという知識に基づき, 説明的文章の内容を整理して読んだり, 書いたりできると想定される。本研究では, 小学4年生の1学級を対象に, 説明スキーマに基づく方略使用を促し, 論理的な読み書き能力を育成することをねらいとする, 2つの説明的文章の単元の実践を行った。2つの実践では, 単元の前半に説明スキーマを明示的に教授し, 問いの文を同定した上で, 説明と問いへの答えをまとめるなど, 説明スキーマを活用して教科書の教材を読み取らせた。単元の後半では, 問い-説明-答えの要素に基づき, 授業時間外に読んだ関連図書の内容を説明する文章を作成した。また, 実践においては, ペアやグループで読んだことや書こうとしていることを説明, 質問しあう言語活動を行い, 内容の精緻化を図った。質問紙やテストによる調査結果から, 実践後には説明スキーマを活用する態度やスキルを表す得点が高くなったことが示された。今後, 他教科や探究的な学習においても説明スキーマに基づく指導を展開していくことが期待される。
著者
犬塚美輪 島田英昭 深谷達史 小野田亮介 中谷素之
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画の趣旨 論理的文章の読み書きは,教授学習の中の中心的活動の一つである。自己調整学習の研究や指導実践が数多く実施され,読解や作文を助ける方略やその指導が提案されてきた。 本シンポジウムの第一の目的は,読むことと書くことの関連性を捉え,その観点から新たな論理的文章の読み書きの指導を考えることである。読むことと書くことの研究は,別の研究領域として扱われることが多かった。しかし,両者は本来テキストによって媒介されるコミュニケーションとしてつながりを持つものと考えられる(犬塚・椿本,2014)。従来明示的でなかった読むことと書くことのつながりを意識することで,読み書きの研究・実践に新たな視点を提示したい。 第二の目的は,感情の側面を視野に入れた読み書きのプロセスを検討することにある。論理的文章の読み書きでは,動機づけ以外の情動的側面に焦点があてられることが少ないが,その一方で,情動要因の影響を示す研究も増えている。特に実践の場では学習者の情動的側面は無視できない。これらの観点を総合的に踏まえ,論理的文章の読み書きの指導について検討したい。感情と論理的文章の読み書き島田英昭 文章の読み手は感情を持つ。論理的文章を書いても,読み手の感情によっては論理的に読まれない。本シンポジウムでは,読み手の感情が文章の読みに影響することを示した,話題提供者自身の実験研究を2点紹介し,論理的文章の読み書きについて二重過程理論の観点から考える。 第1の実験研究は,読解初期の数秒間における読みのプロセスである(島田, 2016, 教育心理学研究)。実験参加者は,タイトル,挿絵,写真の有無等が操作された防災マニュアルの1ページを2秒間一瞥し,そのページをよく読んでみたいか,そのページがわかりやすそうか,の質問に答えた。その結果,タイトル,挿絵,写真の存在が,読み手の動機づけを高めることを示した。また,タイトルのような文章の構造に関わる情報の効果は,挿絵・写真のような付随的な情報の効果に比べ,より高次の認知プロセスによることが示唆された。 第2の研究は,共感と読みの関係である(Shimada, 2015, CogSci発表)。教員養成課程の学生が,「わかりやすい教育実践報告書の書き方」と題されたマニュアルを読み,内容に関するテストへの回答,主観的わかりやすさの評価等を行った。マニュアルは2つの条件で作成し,一つは書き方のマニュアルに特化した統制条件,もう一つは執筆者のエピソードや挿絵等を追加した実験条件であり,実験条件は執筆者への共感喚起を意図したものであった。その結果,実験条件は統制条件に比べ,内容テストの得点は低かったが,執筆者に対する共感,主観的わかりやすさが高かった。 これらの実験研究は,読み手が文章を読むときに,動機づけや共感等の感情が影響していることを示している。ここから,論理的文章の読み書きについて,二重過程理論の観点から考える。二重過程理論とは,人間の思考や意思決定が無意識的,直観的で素早いシステム1と,意識的,熟慮的で遅いシステム2の並列処理により行われるというモデルである。このモデルから,読み手が論理的文章を論理的に読むための条件として,(1)読み手がシステム2を働かせる動機づけを高めること,(2)読み手がシステム1の感情的偏りに気づき,論理的情報を論理的に処理すること,の2点が浮かび上がる。本シンポジウムでは,読み手のこのような特性に基づき,「論理的に読んでもらえる論理的文章」について議論する。自ら方略的に読み書く児童を育てる授業実践―小学校4年生における説明的な文章の指導―深谷達史 文章を的確に読むための知識は,文章を的確に書くためにも有用であることがある。例えば,説明的な文章が主に「問い-説明-答え」の要素からなるという知識は,説明文を読む場合のみならず書く場合にも活用可能だろう。本研究は,説明的な文章の読解と表現に共通して働く知識枠組みを「説明スキーマ」と捉え,小学校4年生1学級を対象に,説明スキーマに基づく方略使用を促す2つの説明的文章の単元の実践を行った。 実践1は1学期の5月に(単元名「動物の秘密について読んだり調べたりしよう」),実践2は2学期の10月に行われた(単元名「植物の不思議について読んだり知らせたりしよう」)。2つの実践では,単元の前半に説明スキーマを明示的に教授し,問いの文を同定するなど,説明スキーマを活用して教科書の教材を読み取らせた。単元の後半では,問い-説明-答えの要素に基づき,授業時間外に読んだ関連図書の内容を説明する文章を作成した。また,こうした単元レベルの主な手だての他,1単位時間の工夫としても,ペアやグループで読んだことや書こうとしていることを説明,質問しあう言語活動を設定し,内容の精緻化を図った。 効果検証として3つの調査を行った。事前調査は4月に,事後調査は11月(表現テストのみ12月)に実施した。第1に,質問紙調査を行った。例えば,読みと書きのコツについて自由記述を求めたところ,読み・書きの両方で,事前から事後にかけて説明スキーマに基づく記述数の向上が認められた。第2に,実際のパフォーマンスを調べるため,授業で用いたのとは別の教科書の教材をもとにテストを作成し,回答を求めた。その結果,問いの文を書きだす設問と適切な接続語を選択する設問の両方で,正答率の向上が確認された。最後に,事後のみだが,他教科(理科)の内容でも,自発的に説明スキーマに基づく表現を行えるかを調査したところ,大半(9名中8名)の児童が,問い-説明-答えの枠組みに基づいて表現できた。自己調整学習の理論では,他文脈での方略活用が目標とされることからも(Schunk & Zimmerman, 1997),論理的に読み書く力を育てる試みとして本研究には一定の意義があると思われる。意見文産出における自己効力感の役割小野田亮介 意見文とは「論題に対する主張と,主張を正当化するための理由から構成された文章」として捉えられる。主張を正当化する理由には,自分の主張を支持する「賛成論」だけでなく,主張に反する理由である「反論」とそれに対する「再反論」が含まれるため,論理的な意見文には,これらの理由が対応し,かつ一貫していることが求められる。それゆえ,意見文産出に関する研究では,学習者が独力で適切な理由選択を行い,一貫性のある文章を産出するための目標や方略の提示が行われてきた(e.g., Nussbaum & Kardash, 2005)。 ただし,理由間の一貫性を考慮した文章産出は認知的負荷の高い活動であるため,上述の介入を行ったとしても全ての学習者が目標を達成できるとは限らない。忍耐強く文章産出に取り組むためには,文章産出に対する動機づけが不可欠であり(e.g., Hidi & Boscolo, 2006),中でも「自分は上手に文章を産出できる」といった自己効力感を有することが重要だと指摘されている(e.g., Schunk & Swartz, 1993)。したがって,目標達成を促す介入を行ったとしても,そもそも学習者の意見文産出に対する自己効力感が高くなければ,介入の効果は十分には得られない可能性がある。 ところが,筆者のこれまでの研究では,意見文産出に対して高い自己効力感を有する学習者ほど,目標達成に消極的であるという逆の結果が確認されてきた(小野田,2015,読書科学)。その原因として考えられるのは,意見文産出に対する自己効力感が「自分なりの書き方への固執」と関連している可能性である。すなわち,「自分は上手に意見文を産出できる」と考えている学習者は,書き方を修正する必要性を感じにくいため,意見文産出の目標や方略を外的に与えられたとしても書き方を修正しようとしなかった可能性がある。 ここから,意見文産出指導では自己効力感がときに介入の効果を阻害することが予想される。その場合には,学習者の自己効力感を揺らしたり,一時的に低減させるような指導が必要になるのかもしれない。本発表では,これらの研究結果について紹介しつつ,説得的な意見文産出を支援するための工夫について考えていきたい。
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.236-251, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
64
被引用文献数
7 4

学習中のモニタリングについて, 学習した複数のテキストに対し, 各テキストの学習の度合いを評定させ(学習判断), 学習判断値と実際のテスト成績との間の個人内連関を算出することで検討がなされてきた。本研究では, 独立の研究における統計的分析の結果をデータとして統合的分析を行うメタ分析を用いて, 学習したテキストに対してなされる学習判断(メタ理解)の正確さに影響を与える要因を検討した。39編の論文における63研究から収集された161統計値を対象に分析を行ったところ, 中央値.270(四分位偏差.101)という値が示され, 読み手が必ずしも十分なモニタリング能力を保持していない可能性が示唆された。また, テキストの困難度, 表象レベル, 学習判断の指標, 課題の実施順序という4つの要因の影響を調べたところ, テキスト困難度では「困難」よりも「標準」の方が, 学習判断の指標では「理解の容易度」よりも「テキスト理解度」の方が高いという結果が得られた。一方, 課題の実施順序と表象レベルに有意な差は見られなかった。最後に, メタ分析の一般的問題に関する本研究の位置づけを示すとともに, 本研究の限界と今後の研究への示唆を考察した。
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.30-46, 2019-03-30 (Released:2019-09-09)
参考文献数
95
被引用文献数
2

本稿では,2017年から2018年に『教育心理学研究』に掲載された論文と,2018年9月に開催された日本教育心理学会第60回総会で発表された研究を中心に,近年の教授・学習・認知研究を概観した。レビューの一つの視点として「主体的・対話的で深い学び」に立脚し,子ども(学習者)の学びに関する知見を,主体的な学び,対話的な学び,深い学び,それぞれに関連する研究と,3つの学びを統合した授業デザインに関連する研究とに分け,整理した。また,新学習指導要領の理念を実際の教育として実現するためには,教師研究が重要となることから,大人(教師)の学びに関する知見をもう一つの視点として設定し,レビューを行った。その上で,(1)教師研究は重要であるにもかかわらず,本領域において数多くなされているとはいえず,教師の学びを明らかにするような更なる発展が望まれること,(2)実践への関心が高まっているにもかかわらず,実践カテゴリーの論文数は増えておらず,研究者が実践の機会を持つなど実践研究を行う基盤を構築する必要があることなど,今後の研究を進める上での課題と展望が示された。
著者
深谷 達史
出版者
心理学評論刊行会
雑誌
心理学評論 (ISSN:03861058)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.246-263, 2012 (Released:2018-08-18)
著者
深谷 達史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.342-354, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
27
被引用文献数
1 2

様々な学習領域に共通する知識構築活動として自己説明が知られている。いくつかの研究によって学習者の自己説明を訓練する効果が示されているが, どのような訓練が科学的概念に関する深い理解の達成を可能にするかは十分明らかではない。そこで本研究は, 生物・生態システムなどの働きを捉える枠組みであるSBF理論を参照し, 有効だと考えられる自己説明訓練法を提案し, その効果を検証することを目的とした。学習講座に参加した中学2年生を, システムの構成要素の仕組みと機能について質問および解答作成を行った実験群(n=48)と, そうした制限を設けずに質問および解答作成を行った対照群(n=26)に割り当て, 訓練の効果を検討した。その結果, 文章中に答えが明記されていない理解テストにおいて, 実験群のテスト成績が対照群よりも高い傾向が見られた。また, テストの文章を学習する際に記入を求めたコメントの分析から, 仕組みと機能に関する推論(SBF説明)がテスト成績に影響を及ぼしていたことが示された。本研究の結果より, 生物・生態システムの仕組みと機能を捉えるSBF理論に基づく自己説明訓練が, 科学的概念の理解を促す上で有効である可能性が示唆された。
著者
深谷 達史
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.266-275, 2014
被引用文献数
2

Prior studies have investigated whether the expectation that one will explain learned materials after learning (explanation expectancy) promotes text comprehension. Such researches, however, have had inconsistent results. In Study 1, we examined whether an elaborative explanation orientation, which refers to the belief that it is important to elaborate and organize a passage when explaining, moderated the effect of explanation expectancy. The results showed neither a moderation effect nor an effect of explanation expectancy. This suggests that the effect size of explanation expectancy was not large, so that a single experimental research with limited sample size could not reliably find a positive effect. In Study 2, a meta-analysis was conducted to infer more accurately the influence of explanation expectancy on text comprehension. Based on a sample of 7 reports (<i>n</i> = 289), the results showed that the effect size <i>g</i> for explanation expectancy was 0.51 (95%<i>CI</i> = (0.10, 0.91)). This finding demonstrates that the inconsistent results of previous research could be caused by small sample sizes, and explanation expectancy improves text comprehension.
著者
深谷 達史
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.266-275, 2014 (Released:2014-08-25)
参考文献数
38
被引用文献数
1 2

Prior studies have investigated whether the expectation that one will explain learned materials after learning (explanation expectancy) promotes text comprehension. Such researches, however, have had inconsistent results. In Study 1, we examined whether an elaborative explanation orientation, which refers to the belief that it is important to elaborate and organize a passage when explaining, moderated the effect of explanation expectancy. The results showed neither a moderation effect nor an effect of explanation expectancy. This suggests that the effect size of explanation expectancy was not large, so that a single experimental research with limited sample size could not reliably find a positive effect. In Study 2, a meta-analysis was conducted to infer more accurately the influence of explanation expectancy on text comprehension. Based on a sample of 7 reports (n = 289), the results showed that the effect size g for explanation expectancy was 0.51 (95%CI = (0.10, 0.91)). This finding demonstrates that the inconsistent results of previous research could be caused by small sample sizes, and explanation expectancy improves text comprehension.
著者
深谷 達史 小山 義徳
出版者
日本読書学会
雑誌
読書科学 (ISSN:0387284X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.115-126, 2013-09-17 (Released:2017-03-02)
参考文献数
18

This study examined students' difficulties of explanation activity in university lecture class. Study 1 examined the students' impression to the explanation activities, and the result showed that most of the students thought the activity positive manner. However, the result also suggested that many students felt anxious of the activity because they were not sure how to explain. In Study 2, to reduce their anxiety, students were instructed to give examples for topics hard to understand and to check listeners' understanding. The results showed that although students' confidence to their explanation rose after the instruction, most of their examples just mimicked what on the texts, and some contained inappropriate examples. Based on these results, we discussed the way of effective instruction for explanation activity.
著者
深谷 達史
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.190-201, 2011 (Released:2011-09-07)
参考文献数
28
被引用文献数
3

Self-Explanation is considered to be one of the effective ways to elicit active knowledge construction in general domain. Although the effects of promoting self-explanation have been demonstrated in a variety of domains, there is some discrepancy on the effect on scientific conceptual learning between prior researches. To address this issue, the approach taken here was to develop new prompts based on SBF theory, in which complex systems were described in terms of function and behavior of the components, and to compare the new one (SBF prompts) with the one used in prior researches (Generic prompts). 47 students participated in an experiment and were randomly assigned to SBF prompts group, Generic prompts group, and control group (think-aloud without prompts). Results showed that the performance of SBF prompts group was better than that of control group on inference questions which refered to the function or behavior of components in the text. On the other hand, Generic prompts were not so effective for eliciting self-explanation inferences and for increasing performance on post-tests. In addition, protocol analysis reveled that a learning gain by SBF prompts was mediated by SBF-based explanations during learning. These results suggest that we have to use the prompts which require inferences and monitoring based on a SBF theory to promote scientific conceptual understanding.
著者
深谷 達史 植阪 友理 太田 裕子 小泉 一弘 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.512-525, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
40
被引用文献数
1 5

近年の教育界では,基礎的な知識・技能の習得と活用に加え,自立的に学習を進める力として学習方略の習得が求められている。「教えて考えさせる授業」は,この両者の育成を目指したもので,(a)教師が意味理解を重視して基本事項を説明する,(b)ペア説明などで学んだことを生徒が確認する,(c)発展的事項を協同で解決する,(d)授業で学んだことをふり返るという4段階からなる。本研究では,研究授業や講演を含む,教えて考えさせる授業を中心とした算数の授業改善に取り組んだ公立小学校において,導入間もない1年目と導入から時間が経った2年目の比較を通じて,児童の学力と教師の指導がどう変わったかを検証した。全国学力・学習状況調査の結果,2年目の方が,算数A問題とB問題の成績が高く,算数Aの標準偏差が低かった。また,問題解決時の図表活用方略の使用を調べたところ,2年目の方が,図を使わずに不正解のケースが少ない一方,図を使って正解に至るケースが多かった。さらに,教師が指導案を作成する課題において,的確な働きかけを表す指導案得点が2年目の方が高い傾向が見られた。考察では,これらの成果を生んだ理由などを考察した。
著者
深谷 達史 小山 義徳
出版者
日本読書学会
雑誌
読書科学
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.115-126, 2013

<p>This study examined students' difficulties of explanation activity in university lecture class. Study 1 examined the students' impression to the explanation activities, and the result showed that most of the students thought the activity positive manner. However, the result also suggested that many students felt anxious of the activity because they were not sure how to explain. In Study 2, to reduce their anxiety, students were instructed to give examples for topics hard to understand and to check listeners' understanding. The results showed that although students' confidence to their explanation rose after the instruction, most of their examples just mimicked what on the texts, and some contained inappropriate examples. Based on these results, we discussed the way of effective instruction for explanation activity.</p>