著者
有馬 大輔 梅木 昭秀 山本 哲史
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.73-76, 2019-01-15 (Released:2019-02-02)
参考文献数
5

心肺蘇生の際の胸骨圧迫に伴うさまざまな合併症が報告されている.大動脈解離術後に心肺停止に陥り胸骨圧迫による偽腔破裂を呈したと考えらえた症例を経験した.症例は79歳の女性.上行大動脈にentryを呈した急性大動脈解離(Stanford A型,DeBakey I型)の診断で,緊急手術を施行した.術後は特に問題なく経過し,POD 5にICUを退室するも,POD 6に痰詰まりから心肺停止となり,胸骨圧迫が施行された.蘇生したが,左胸腔ドレーンから血性排液が増加したため,施行した造影CT検査で下行大動脈偽腔から左胸腔に造影剤の流出を認めた.硬膜外血腫も同時に呈しており,保存的加療と低体温療法を施行した.幸い輸血と止血剤の投与で血管外漏出が停止した.開心術症例の胸骨圧迫後には,造影CTなどで出血の確認をするべきで,大動脈解離術後の胸骨圧迫では,稀ではあるが偽腔破裂が生じ得る可能性が示唆された.
著者
山本 哲史
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

冬尺蛾は冬季に繁殖活動を行うが、著しい低温や積雪のある場所では、真冬期に活動せず、環境の穏やかな初冬期や晩冬期に繁殖する。極東アジア地域で多様化した冬尺蛾の1属Inurois属は12種を含み、それぞれの種は温暖地では真冬期を中心に成虫が出現するが、寒冷地では初冬か晩冬だけに活動する。Inurois属の1種クロテンフユシヤクでは、このような種間に見られる成虫出現時期の変異が種内に見られる。これらの状況から申請者は「寒冷地における真冬の寒さが、時間的生殖隔離を引き起こしている」と仮説を立て、クロテンフユシャクを材料として検証を行った。以後、温暖地の個体を温暖地型、寒冷地で厳冬の前と後に出現する個体をそれぞれ初冬型、晩冬型と呼ぶ。まず、寒冷地である仙台、小淵沢、岐阜の3地点で、同所的な初冬集団と晩冬集団を採集し、AFLP(増幅断片長多型)とミトコンドリアDNA(以降、mtDNA)をマーカーに用いて固定指数(Fst)を算出し、遺伝的分化を検討した。その結果、仙台、小淵沢、岐阜の全てで同所的な初冬集団と晩冬集団は有意に遺伝的に分化していることがわかった。次に、寒冷地と温暖地の比較研究のために京都と岐阜では1週間置きにサンプリングを行い、1週間おきの分集団間での遺伝的隔離を調べた。その結果、岐阜の初冬集団内、晩冬集団内、そして京都の集団のように連続して成虫が出現する場合には遺伝的に隔離されないが、岐阜の初冬-晩冬集団間のように成虫の出現が2つの時期に分離している場合には遺伝的に隔離されることがわかった。また、11週間連続という長期にわたって成虫が出現する京都では出現時期が離れるほど遺伝的隔離の程度が大きくなる傾向も見られた。以上のことからクロテンフユシャクは寒冷地において初冬型と晩冬型は時間的に隔離されていることが明らかとなった。この時間隔離は冬の寒さによって引き起こされていると考えられ、本種は真冬の寒さによって種分化の初期段階にあると考えられた。