著者
須藤 崇行 真貝 富夫 山村 千絵
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.282-288, 2014-12-31 (Released:2020-04-30)
参考文献数
20

【目的】嚥下障害に対する間接訓練として,冷圧刺激(Thermal-tactile stimulation:以下TTS)が知られている.TTS は,嚥下誘発の感受性を高めるとされている一方で,その効果は必ずしも得られないという報告もあり,効果や作用機序は明確になっていない.本研究は,TTS 効果の基礎的研究を進めるために,嚥下反射惹起の刺激として舌根部への注水刺激を用い,前口蓋弓へのTTS が嚥下の潜時に及ぼす影響を検討した.【対象と方法】被験者は,摂食嚥下機能に問題のない健常若年成人10 名とした.空嚥下させた後に,舌背後部へ水を1.0 ml/min の速度で注水し,嚥下反射が惹起されるまでの潜時を5 回測定した.休憩の後にTTS を行い,再び注水により惹起される嚥下反射の潜時を5 回測定した.そして,TTS 前後の潜時を比較した.【結果】TTS 施行前の全被験者5 回分の平均潜時は13.8±6.7 秒(平均値±標準偏差)であるのに対して,TTS 施行後は11.2±5.6 秒となり,TTS 後に有意な潜時の短縮が認められた(p<0.05).また,TTS 後の各回の平均潜時は,1 回目から5 回目(TTS から約10 分経過時)まで順に,11.3±4.7 秒,10.7±5.1 秒,11.7±6.9 秒,11.2±5.8 秒,11.4±5.5 秒であった.TTS 後,各回すべてにおいて,潜時の有意な短縮が認められた(p<0.05).【結論】注水刺激による嚥下反射の潜時は,前口蓋弓へのTTS 施行後すぐに短縮し,その効果は10 分以上継続した.TTS は,嚥下反射の惹起を促進する方法として,臨床的にも有用であることが示唆された
著者
長井 勇太 山村 千絵
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.131-140, 2014-08-31 (Released:2020-04-30)
参考文献数
27

【目的】 本研究は,とろみ調整食品による粘度付加を行った溶液で,甘味,塩味,酸味の味覚閾値や味覚強度がどう変化するかについて調べることを目的に行った.【対象と方法】 健常成人16 名を被験者とした.ショ糖(甘味),塩化ナトリウム(塩味),酒石酸(酸味)を蒸留水に溶かし,濃度の異なる味溶液を調製した.トロミパワースマイルを用い,各味質において,とろみ無添加溶液,1%とろみ溶液,2%とろみ溶液を調製した.認知閾値の測定時は,3 味質ともに6 段階の濃度の溶液を設定し,明らかに味質が感知できる最低濃度を認知閾値とした.味覚強度の測定時は,3 味質ともに閾値上濃度に設定し,とろみ無添加溶液の味覚強度を基準として,1% とろみ溶液と2% とろみ溶液の味質をどの程度の強さで感じたかを,-3 から+3 までの7 段階で評価させた.【結果】 1.認知閾値:甘味では,とろみ無添加溶液と比べ,2% とろみ溶液は閾値が有意に大きかった(p<0.05).塩味では,各溶液間で有意差はなかった.酸味では,とろみ無添加溶液と比べ,1% とろみ溶液(p<0.001),2% とろみ溶液(p<0.001)は,閾値が有意に大きかった.また,1% とろみ溶液と比べ,2% とろみ溶液は閾値が有意に大きかった(p<0.05).2.味覚強度:甘味では,2% とろみ溶液は,他の溶液よりも有意に甘味が弱いと評価された(p<0.01).塩味では,各溶液ともに同程度の塩味であると評価された.酸味では,とろみ溶液はとろみ無添加溶液よりも有意に酸味が弱く(p<0.001),かつ,2% とろみ溶液のほうが1% とろみ溶液よりも有意に酸味が弱い(p<0.001)と評価された.【結論】 飲食物にとろみを付けると,粘度により味の感じ方が弱くなるが,とろみ調整食品に含まれている成分によって,異なる味の変化を示す場合があることが示唆された.
著者
金子 雄太 山村 千絵
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.131-139, 2012-08-31 (Released:2020-06-07)
参考文献数
19

呼吸機能や咳嗽力は,姿勢の影響を受けやすいことが報告されている.一般的に,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて経口摂取を行わせる際には,頭頸部と体幹の複合的な姿勢調整を行い,嚥下がしやすく誤嚥が起こりにくいとされている姿勢をとらせる.しかし,適切な姿勢に調整された場合でも,誤嚥やむせが起こることがある.その時に素早く効果的に誤嚥物を排出できる姿勢,あるいは,食事中に楽に安定して呼吸が行える姿勢等を見いだしておくことは重要であると考える.本研究では,摂食・嚥下リハビリテーション時を想定した頭頸部と体幹の複合的な姿勢変化により,呼吸機能や咳嗽力がどの程度変化するかを,呼吸機能に問題のない健常成人を用いて調査することで,上記の問題を解決するための基礎データを得ることとした.測定姿勢は,車椅子に座った状態で,① リクライニング90 度頭頸部0 度(R90HN0),② リクライニング90 度頭頸部屈曲30 度(R90HN30),③ リクライニング30 度頭頸部0 度(R30HN0),④ リクライニング30 度頭頸部屈曲30 度(R30HN30)の4 通りを,ランダムにとらせた.呼吸機能や咳嗽力に関する測定項目は,1 回換気量(TV),予備吸気量(IRV),予備呼気量(ERV),最大吸気量(IC),肺活量(VC),咳嗽時最大呼気流量(PCF),最大呼吸流量(PEF)とした.その結果,安静時呼吸に関わる測定項目であるTV は,姿勢変化の影響を受けず,努力性呼吸に関わる測定項目であるIRV, ERV, IC, VC, PCF, PEF は,姿勢変化による影響を受けた.呼吸機能検査では,呼気に関する測定値(ERV)は,体幹の姿勢に関してR90 のほうがR30 より有意に大きく,頭頸部の姿勢に関してHN0 のほうがHN30 より有意に大きかった.咳嗽力検査では,PCF は体幹の姿勢に関して,R90 のほうがR30 より有意に大きかった.測定値と問診の結果を総合すると,体幹と頭頸部の姿勢の組み合わせでは,R90HN0 が最も呼吸を行いやすく,誤嚥物を排出する際など,強い呼出を行うのに有効な姿勢であることが示唆された.
著者
伊藤 晃 山村 千絵
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.134-144, 2010-08-31 (Released:2020-06-26)
参考文献数
35

【目的】唾液は咀嚼や嚥下に重要であり,唾液分泌が少ない場合は,マッサージや口腔の運動により分泌を促す方法がとられている.しかし,これらを適応できるのは,意識レベルが良好で自発運動が可能な人たちが主である.本研究では,患者さんの状態によらず簡便に行うことができるニオイ刺激に注目し,ブラックペッパーオイル(Black Pepper Oil, 以下BPO)とカルダモンオイル(Cardamon Oil, 以下CO)のニオイを嗅がせることにより,唾液分泌量がどう変化するかを定量的に調べることを目的とした.【対象と方法】被験者は,アレルギー,口腔乾燥症状,嗅覚障害等がない健康な成人男女43 名(男性18名,女性25 名,平均年齢±標準偏差=21.8±1.2 歳)とした.ニオイ刺激の試料はアロマオイル100%の原液を用い,BPO,CO および無臭対照試料のホホバオイル(jojoba oil, 以下JO)の3 種類とした.それらをスティック状のムエットに塗布し,被験者の鼻孔の前30 mm の位置に呈示し,通常呼吸によりニオイを嗅がせた.ニオイを嗅いでいる間の唾液分泌量を30 秒間ワッテ法にて4 回ずつ測定し,その平均値を測定値とした.認知的要因が唾液分泌に影響を及ぼす可能性を排除するため,ニオイ試料の名前の開示は実験終了後に行った.【結果】安静時やJO 刺激時に比べ,BPO 刺激時やCO 刺激時に唾液分泌量が有意に増加した.BPO 刺激時とCO 刺激時の唾液分泌増加量に有意差はなかった.また,男性と女性による増加量の差はなかった.【考察】BPO は島皮質を活性化し嚥下反射の潜時を短縮すること等がすでに明らかになっており,BPO のアロマパッチは嚥下リハビリテーションの臨床に応用されている.さらに,本研究により,BPO やCO には唾液分泌促進効果があることが定量的に示された.ニオイ刺激を用いて,唾液分泌等の口腔内環境を改善させることができる可能性が示唆された.
著者
原口 裕希 山村 千絵
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.171-175, 2012 (Released:2012-06-13)
参考文献数
13

〔目的〕姿勢変化が咀嚼の効率へ与える影響を調べること.〔対象〕健常成人23人とした.〔方法〕4通りの姿勢をランダムにとらせ,試料の咀嚼開始から嚥下までを筋電図で記録し解析した.〔結果〕咀嚼回数はリクライニング30度頭頸部屈曲30度(R30-HN30)がリクライニング90度頭頸部0度(R90-HN0)より多かった.総咀嚼時間はリクライニング30度頭頸部0度(R30-HN0)とR30-HN30がR90-HN0より長かった.バースト持続時間はR30-HN0が他の姿勢より長かった.咀嚼周期はR30-HN0がR90-HN0より長かった.バースト持続時間の変動係数はR30-HN0がR90-HN0より大きかった.〔結語〕咀嚼の効率はR30の姿勢で悪く,R90-HN0の姿勢のときが最も良いことが示唆された.
著者
阿志賀 大和 水野 智仁 山村 千絵
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.301-309, 2013-12-15

座位安定性が咬合機能に及ぼす影響を明らかにするために,咬合バランス,咬合面積,咬合力,平均圧,最大圧を測定し検討した.対象は健常若年者10名とした.姿勢は安定座位と不安定座位の2種類とし,安定座位時の咬合バランスから咬合良好群と咬合やや不良群に分け,咬合良好群-安定,咬合良好群-不安定,咬合やや不良群-安定,咬合やや不良群-不安定の4群間で比較した. 咬合バランスは咬合やや不良群で不安定座位時に悪くなりやすく,咬合面積は咬合良好群-不安定が咬合やや不良群-安定や,咬合やや不良群-不安定より有意に大きく(p<0.05),咬合力は咬合良好群-不安定が咬合やや不良群-安定より有意に大きかった(p<0.05).平均圧,最大圧は有意差がなかった. 咬合・咀嚼機能を有効に発揮させるために,座位の安定性を高める必要があると考えられた.
著者
田村 裕 櫻井 晶 山村 千絵 Tamura Yutaka Sakurai Akira Yamamura Chie
出版者
新潟歯学会
雑誌
新潟歯学会雑誌 (ISSN:03850153)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.135-142, 2009-12

嚥下リハビリテーションを含む口腔治療の現場では,口腔湿潤度を知ることは治療計画を立てる上で有益である。そのため口腔粘膜水分量や唾液分泌量が測定されているが,両者の関係性は不明である。本研究は両者の関係を調べることと,2種類の保湿剤が唾液分泌量に及ぼす効果を知ることを目的に実施した。研究は,口腔乾燥症状を呈する疾患がない健康な成人男女20 名を用いて行った。最初に,口腔水分計(ムーカス^<【○!R】>)による口腔粘膜水分量とワッテ法による唾液分泌量を継時的に同時測定することにより両者を比較し,関連が見られるか調べた。次に,口腔湿潤度を高めるために,臨床現場で使用されている二種類の保湿剤(ハニーウェット^<【○!R】>とメンバーズ洗口液^<【○!R】>)の効果を継時的に比較し,各々の保湿効果の特徴から使用目的の明確化を試みた。安静時の口腔粘膜水分量と唾液分泌量には相関は認められなかった。このことから口腔湿潤度は,簡易的に測定できる口腔粘膜水分量のみでは判定しにくいことが示唆された。保湿剤の実験では,どちらの保湿剤も,水道水刺激時と比べ有意に唾液分泌量が増加した。さらに,唾液分泌量の継時的変化を見ると,ハニーウエット^<【○!R】>は刺激直後に分泌量が急増する特徴があり,メンバーズ洗口液^<【○!R】>は刺激後,分泌量増加の持続が長いという特徴が見られた。使用目的として,口腔乾燥が重度で食事前などに即効を期待する場合にはハニーウエット^<【○!R】>を,常時,口呼吸で口腔内が乾燥してしまう場合などにはメンバーズ洗口液^<【○!R】>が適すると考えられた。In the present study, we have investigated the relationship between oral mucosa humidity and salivary flow rate, which affect the oral wetness firstly, and then examined the time-dependent changes in the moisturizing effects of the two different types of moisturizers which are used in clinical practice, in order to higher the oral wetness. Subjects were 20 healthy adults selected from both sexes who have no history of disease associated with dry mouth symptoms. First, oral mucosal humidity (%) under a resting condition was determined by using an oral moisture checker (Mucus^<TM>). Total amount of saliva (g) was determined ordinary by using a cotton method. No significant correlation between mucosal humidity and salivary flow rate was observed. Since mucosal humidity and salivary flow rate have different implications with each other, it is difficult to evaluate by measuring only mucosal humidity in order to determine the oral wetness.Then, time-dependent changes in oral wetness with applying two moisturizers (Honey Wet^<TM> and Members mouthwash fluid^<TM>) were investigated. Stimulation with Honey Wet^<TM> caused sharp increase in salivary volume which returned to resting level within 20 min after the stimulation; whereas the stimulation with Members mouthwash fluid^<TM> resulted in a mild increase in comparison to Honey Wet^<TM> , however, the salivary volume was significantly greater than those of resting and tap water stimulation, even 30 min after the stimulation. Considering the application in clinical practice, Honey Wet^<TM> is recommended when the marked dry mouth was observed and/or immediately before meal, where the increase in salivary flow is desired in order to swallow foods easily; on the other hand, Members mouthwash fluid^<TM> is recommended when symptoms of dry mouth are observed because of habitual mouth-breathing and long-lasting moisturizing effects are desired.