著者
杉浦 利江 高橋 由佳 坂本 忍 稲森 美穂 山田 浩昭 米積 信宏 森下 博子 前田 美都里 川合 智之
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, 2018

安城更生病院(以下当院と略す)は,病院のスタッフ全員が,将来ビジョンを見据えた地域の病院となるためのプロジェクトに取り組んでいる。医事課を担当する病院職員は,「地域住民の健康と幸福」というスローガンの下,このプロジェクトに関わっている。達成に向けて3つの目標,すなわち1.未収金管理における回収の改善,2.委託金削減,3.委託取引件数の減少,を設定した。具体的な内容は,1.コンビニ決済の利用による未収金の回収,2.限度額適用認定証の周知および国民健康保険対象者の高額療養費貸付制度の推進による高額療養費の回収,3.無戸籍者への戸籍取得支援並びに健康保険の給付支援である。コンビニ決済の利用による未収金の回収額は約9万円/月であり,無戸籍者への戸籍取得支援並びに健康保険の給付支援により約8万円の回収が可能であった。さらに,限度額適用認定証利用の周知および高額療養費貸付制度の利用の推進は,年間約1,700万円の回収額を生みだした。今回の取り組みにより2016年の4月から8月の委託金の平均月額は890,188円で,委託件数は12件,2017年にはそれぞれ305,615円,10件へと削減することができた。本プロジェクトは,患者の自主的な医療費の支払いを促し,回収額の増加並びに委託金や委託取引件数の削減をもたらした。
著者
田實 直也 山田 浩昭 石川 一博 伊藤 祐 鈴木 和広 近藤 国和
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.199, 2008

〈緒言〉当院の電子カルテシステムは、効率的で安全な医療提供を追求するために2002年に紙カルテから全面移行した。稼動後6年が経過したが、不慮のトラブルは極めて稀で、半年に1回の保守停止以外はほぼ不眠不休で機能してきた。しかし、今回は更新に伴う停止時間が約27時間と算出された。このような長期停止は当院にとって前代未聞の出来事であり、様々な対策が必要となった。ここでは、今回のような病院機能の停止状態に対し、どのような対策を行ったかを報告する。<BR>〈方法〉院内では長時間停止が判明して、即管理職を中心に対応策を検討した。当初は三次救急医療を担う病院としての対応を模索したが、システム停止により情報網が寸断された状態では、求められる医療の提供が出来ないのは確実であることや、1日の救急外来患者が350名を越すため、処理が追いつかず飽和状態になることが予想されるなどから、対策として、最低限の患者数へ絞り込みを行い、この急場を乗り切るという苦渋の決断を強いられた。このため受け入れ先の確保や住民周知という難題に直面した。特に、地域住民の周知については短期的ながら患者の受療行動を抑制することになり、市民と近隣病院へ強く協力を働きかける方法を検討した。以下が行った対策である。<BR>1_県に救急の受診制限が問題ないか確認<BR>2_他病院への協力を要請<BR>3_救急隊へ搬送停止協力の依頼<BR>4_市広報へ掲載依頼<BR>5_周辺医師会へ連絡<BR>6_自院のホームページへ掲載<BR>7_地域の回覧板に依頼<BR>8_院内掲示・配布<BR>院内の対応は、停止中の職員を通常より増員し、今回の停止にあわせて臨時運用マニュアルを作成し、職員周知会を開催した。また、不測の事態に備えて定期的に行われているダウン時シミュレーションも運用参考とした。<BR>〈結果〉当日に電話や窓口でお断りする患者もいたが、対策が功を奏し、停止中の救急外来受診者数は期間中143人(前々週同期間374人、システム停止時間中実患者24人)となり、一定の効果を得ることが出来た。期間中救急の現場に大きな混乱もなく、停止時間も予定より6時間短く終了し、無事乗り切ることが出来た。今回行った対策の結果については、概ね以下の通りである(番号は前述〈方法〉欄記載に対応する)。<BR>1_医療圏内で十分な協力体制を敷くことができれば問題ないとの回答であった。<BR>2_近隣病院長会議や救急医療ネットワーク会議にて全面的な協力が得られ、他院の一部では期間中に増員体制で臨む協力が得られた。<BR>3_他院が救急搬送を受け入れてくれたため、特に問題はなかった。<BR>4_医療圏内12市町の広報へ掲載を依頼したが、断られる市もあった。<BR>7_安城市内の回覧板にて回覧協力を得た。<BR>8_院内数箇所に看板、ポスターを設置し、救急外来では、全患者に1ヶ月間リーフレット配布を行った。<BR>〈まとめ〉今回の試みは、早期に電子カルテを導入した当院が、更新作業をどのように行い、どのような対応策を検討したかという点以外にも、近年救急外来のコンビニ化が叫ばれる中、短期的ながら受け入れ先を明確化して明示すれば、患者の受療行動はかなりの確立でコントロールできるという二つの結果を導き出すことになった。通常業務における電子カルテの有用性を改めて実感するとともに、病院も行政との連携体制を強化し、地域を巻き込んだ広報周知活動を行うことによって、在るべき医療提供体制の機能分担体制構築に望みを見出す結果となった。