著者
田實 直也 山田 浩昭 石川 一博 伊藤 祐 鈴木 和広 近藤 国和
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.199, 2008

〈緒言〉当院の電子カルテシステムは、効率的で安全な医療提供を追求するために2002年に紙カルテから全面移行した。稼動後6年が経過したが、不慮のトラブルは極めて稀で、半年に1回の保守停止以外はほぼ不眠不休で機能してきた。しかし、今回は更新に伴う停止時間が約27時間と算出された。このような長期停止は当院にとって前代未聞の出来事であり、様々な対策が必要となった。ここでは、今回のような病院機能の停止状態に対し、どのような対策を行ったかを報告する。<BR>〈方法〉院内では長時間停止が判明して、即管理職を中心に対応策を検討した。当初は三次救急医療を担う病院としての対応を模索したが、システム停止により情報網が寸断された状態では、求められる医療の提供が出来ないのは確実であることや、1日の救急外来患者が350名を越すため、処理が追いつかず飽和状態になることが予想されるなどから、対策として、最低限の患者数へ絞り込みを行い、この急場を乗り切るという苦渋の決断を強いられた。このため受け入れ先の確保や住民周知という難題に直面した。特に、地域住民の周知については短期的ながら患者の受療行動を抑制することになり、市民と近隣病院へ強く協力を働きかける方法を検討した。以下が行った対策である。<BR>1_県に救急の受診制限が問題ないか確認<BR>2_他病院への協力を要請<BR>3_救急隊へ搬送停止協力の依頼<BR>4_市広報へ掲載依頼<BR>5_周辺医師会へ連絡<BR>6_自院のホームページへ掲載<BR>7_地域の回覧板に依頼<BR>8_院内掲示・配布<BR>院内の対応は、停止中の職員を通常より増員し、今回の停止にあわせて臨時運用マニュアルを作成し、職員周知会を開催した。また、不測の事態に備えて定期的に行われているダウン時シミュレーションも運用参考とした。<BR>〈結果〉当日に電話や窓口でお断りする患者もいたが、対策が功を奏し、停止中の救急外来受診者数は期間中143人(前々週同期間374人、システム停止時間中実患者24人)となり、一定の効果を得ることが出来た。期間中救急の現場に大きな混乱もなく、停止時間も予定より6時間短く終了し、無事乗り切ることが出来た。今回行った対策の結果については、概ね以下の通りである(番号は前述〈方法〉欄記載に対応する)。<BR>1_医療圏内で十分な協力体制を敷くことができれば問題ないとの回答であった。<BR>2_近隣病院長会議や救急医療ネットワーク会議にて全面的な協力が得られ、他院の一部では期間中に増員体制で臨む協力が得られた。<BR>3_他院が救急搬送を受け入れてくれたため、特に問題はなかった。<BR>4_医療圏内12市町の広報へ掲載を依頼したが、断られる市もあった。<BR>7_安城市内の回覧板にて回覧協力を得た。<BR>8_院内数箇所に看板、ポスターを設置し、救急外来では、全患者に1ヶ月間リーフレット配布を行った。<BR>〈まとめ〉今回の試みは、早期に電子カルテを導入した当院が、更新作業をどのように行い、どのような対応策を検討したかという点以外にも、近年救急外来のコンビニ化が叫ばれる中、短期的ながら受け入れ先を明確化して明示すれば、患者の受療行動はかなりの確立でコントロールできるという二つの結果を導き出すことになった。通常業務における電子カルテの有用性を改めて実感するとともに、病院も行政との連携体制を強化し、地域を巻き込んだ広報周知活動を行うことによって、在るべき医療提供体制の機能分担体制構築に望みを見出す結果となった。
著者
鈴木 和広 加藤 活大 西村 大作 鈴木 夏生 矢口 豊久 池内 政弘 神谷 泰隆 平松 武幸 水野 志朗 三宅 隆
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.275, 2006

<b><緒言></b> 愛知県厚生連では、傘下9病院の医局長が幹事となって、愛知県厚生連医師会が運営されている。毎年、幹事会で決定された活動テーマに沿って各病院から現状報告と問題提起がなされ、幹事会での議論を経て、医師会総会で幹事会活動報告としてその総括がされている。2003年度の活動テーマは「救急医療」と決定されたが、これは、今後ますます救急医療に対する地域からの要請が高まり、その重要性が増すであろうことから、各病院の現状を把握の上、病院間で情報を交換し、それぞれの救急体制の整備に役立てることが目的であった。<BR><b><方法></b> 各病院の幹事を通じて、2002年度の救急来院患者数、救急車搬入数、救急入院患者数などの統計および人員配置と教育体制に関してアンケート調査を行った。さらに、各病院が抱える問題点を列挙し、幹事会で報告の後、対策について議論を交わした。<BR> 救急来院患者数などの各統計量については、Mann-WhitneyのU検定を用いて解析を行った。<BR><b><結果></b> 9病院全体で、年間約16万名の救急患者を診療し、2万3千台以上の救急車を受け入れていた。施設数では県全体の3.6%に当たる病院群が、出動救急車の10%強に応需している計算となった。救急来院患者の7.4%が入院を必要としており、全入院患者の1.05%を占めていた。立地別に見ると、都市型に分類される病院群のほうが郡部型に分類されたそれらよりも、救急来院患者数、救急車搬入数および救急入院患者数が有意に多かった。配置人員については、診療時間内は多くの病院が各科での対応となっており、研修医を含めた医師および看護師が、救急外来に常駐している施設は少数であった。休日の日直体制での平均配置人数は医師が3.1名、看護師が3.2名であり、当直では、それぞれ3.1名と2.9名であった。教育については、定期的な講習会、講演会あるいは症例検討会が行われている施設は少数であった。問題点として、もっとも重視されたのは人員不足であり、医師、看護師のみならず、診療協助部門、事務部門の各部門でも、多数の救急患者への対応には職員数が十分でないとの指摘がされた。<BR><b><考察></b> 立地条件による差異はあるが、各病院ともその規模に応じた救急患者の受け入れを行っており、愛知県下の病院群のなかでも救急医療への寄与は大きいと考えられた。しかし、人的資源の不足および救急医療の質の確保が問題点としてあげられており、救急医療向上のためには、職員の啓蒙のみならず、厚生連の病院間あるいは地域の医療機関の間での取り組みが必要になると思われた。