著者
山邊 時雄 田中 一義
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本研究は、特異な磁気物性、特に強磁性あるいは反強磁性を示す有機高分子の分子設計ならびに電子状態の理論的解明などを目的として実施したもので、その研究実績の概要は以下のようである。(1)安定な強磁性有機高分子として期待できるポリ(m-アニリン)の分子設計を行い、併せてその電子状態、特にスピン状態の解析を非制限ハートリー・フォック法に法づく結晶軌道法によって行った。その結果、本ポリマーの適当な酸化により、主として窒素原子上に強磁性的スピン相関を示す電子状態をとりうることが明らかとなった。またポリマー鎖中のフェニル基への適当な置換基導入により、スピン状態の制御を行いうることも明らかとなった。(2)有機強磁性体としての潜在的可能性を有する、何種類かのポリ(フェニルニトレン)の電子状態および磁気的性質についての解析俎、非制限ハートリー・フォック法に基づく結晶軌道法によって行った。その結果、π性スピンはベンゼン環中をスピン分極を伴いながら非局在化しており、長距離磁気的秩序配列が可能であることが明らかとなった。一方、σスピンは1価の窒素上に比較的局在化していることも明らかとなった。以上により、ポリ(フェニルニトレン)はポリ(mーフェニルカルベン)と同様に、強磁性ポリマーの有効な候補でありうることが結論された。(3)3回対称性を有する非ケクレ有機分子に対して、非経験的分子軌道法を用いてその高スピン状態の理論的解析を行った。1,3,5ートリメチレンベンゼン及び1,3,5ートリアミノベンゼンのトリカチオンは、ほぼ縮退した3つの非結合軌道を持ち、4重項状態はヤーン・テラー変形した2重項状態より安定で、基底4重項であることが明らかとなった。これは別途得られている実験結果ともよく一致している。
著者
山邊 時雄 立花 明知 田中 一義
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究において実施したものは以下に記するように、実験の部と理論の部に大別される。その大要と実績を併せて記載する。1.本研究における実験の部では、熱処理法・熱CVD法および有機合成法によって種々の有機磁性体材料を調製し、併せてそれらの磁気物性を中心とする固体物性の測定・解析を行った。まず熱処理法で調製したアルキレン・アロマティック系樹脂の磁気物性として、3重項以上のスピン配列を示すことが磁化曲線ならびに電子スピン共鳴の測定より得られた。これらのことより、部分的ではあるが強磁性的なスピン相関が現われることが結論づけられた。さらに熱CVD法によりアダマンタンを炭素化させた材料では、より明確な強磁性的スピン相関の存在が結論づけられ、超常磁性との関係の議論も行っている。なおポリ(mーアニソン)については以下の部であわせて述べる。2.上記の実験的研究と並行して,理論の部では強磁性的スピン配列を示す高分子材料の分子設計・磁気的性質の予測などを実施した。計算法としては非制限的ハ-トレ-・フォック法に基く結晶軌道法解析プログラムを新たに開発した。これによりポリ(mーフェニルカルベン)の強磁性発現が確認された。さらに強磁性を示すと期待できるポリジフェニルカルベンのスタッキング配向性,ポリパラシクロファンの強磁性発現の可能性などについての解析も実施し、特に前者では特別な配向ピッチ角において単量体間の強磁性的相互作用が、発現することが明らかとなり分子設計上、有用な示唆を与えた。一方、ポリ(mーアニソン)の酸化あるいは脱水素状態が強磁性を有することを新たに予測し、あわせてこの高分子の実際の合成を開始し、所期の物質を得ることに成功した。その磁気物性の測定もあわせて実施しており、この高分子において特異的な強磁性相関の存在することを明らかにした。