著者
孝口 裕一 山野 公明 八木 欣平 奥 祐三郎 松本 淳 浦口 宏二
出版者
北海道立衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

イヌの抗多包条虫ワクチンの開発は将来的に飼いイヌからヒトへ、あるいは終宿主動物の感染率を長期的に下げる有力な手段になる可能性がある。一方、イヌに感染と駆虫を繰返すと部分的な感染抵抗性を示すという報告があり、再感染によって誘導される虫体排除機序を解明することはワクチン開発を行う上で重要であると考えられる。本研究ではイヌに多包条虫を繰返し実験感染させ、従来の糞便検査に加え、分子生物的な解析を行うことにより主要な虫体排除機序の一端を明らかにした。また、繰り返し感染により感染抵抗性を獲得したイヌの虫体排除能は短期的に消失せず、イヌの抗多包条虫ワクチン開発の可能性を裏付けた。
著者
古屋 宏二 川中 正憲 山野 公明 佐藤 直樹 本間 寛
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.320-326, 2004
被引用文献数
4

北海道の多包性エキノコックス症患者血清材料を用いて, 市販エキノコックス症血清診断キット"<I>Echinococcus</I> Western Blot IgG" (以下FIA (French immunoblot assay) と略; Ldbio Diagnostics, Lyon, France) の臨床検査的評価を行った. 使用した80血清のうち64検体は術前多包性エキノコックス症患者血清, 9検体は術後患者血清, 7検体は北海道の一次検診でELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 陽性となり感染が疑われた住民の血清であった.<BR>1987年から1993年の間に北海道立衛生研究所で実施したウエスタンブロット血清検査法 (Hokkaido Western blot method, 以下HWBと略) による試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち53例が陽性, 6例が疑陽性であっ た (陽性例+疑陽性例の割合: 92.2%). 53陽性例のうち43例が多バンド形成の完全型, 10例が寡バンド形成の不完全型と判定された.<BR>一方, FIAによる試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち60例 (93.8%) が陽性, 4例が陰性であった. 60例の陽性例のうち, 47例 (78.3%) がP3, 5例 (8.3%) がP4, 8例 (13.3%) がP5パターンを示した. HWBで完全型と判定された血清のすべてはFIAでP3パターンとなり, 高力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>反対に, HWBで不完全型あるいは疑陽性と判定された血清のほとんどはP4あるいはP5のような他のパターンとなり, 低力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>極端に低力価の抗体を示す症例の病理学的解釈はさておき, FIAの使用はHWBで判定が苦慮される疑陽性例について血清学的に判定を容易にするなど, FIAは高感度で有用な試験法であると考えられた.