著者
杉山 広 森嶋 康之 亀岡 洋祐 荒川 京子 川中 正憲
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.927-931, 2004-08-25
被引用文献数
7

関東地方における大平肺吸虫陽性カニの検出は,千葉県内を流れて太平洋に注ぐ河川に限られていた.そこで埼玉県・東京都を流れて東京湾に注ぐ荒川を選び,下流にある東京都の7つの区に12の調査地区を定めて,カニの採集と肺吸虫の検出を試みた.その結果,検査したクロベンケイガニ922匹のうち177匹(19%)から肺吸虫メタセルカリアが検出された.寄生率は葛飾区四ツ木地区が最多(89%)で,陽性カニ1匹当たりのメタセルカリアの平均寄生数(32.9個),および最大寄生数(190個)も最多を示した.メタセルカリアは楕円形を呈するものが大部分で,大きさ(内嚢の外径)は302μm×232μm(50個の平均値),口吸盤背縁に穿棘を,体肉内に赤色顆粒を認めた.試験感染ラットから得た成虫は,卵巣が複雑に分岐し,皮棘は群生していた.このようなメタセルカリアと成虫の形態学的特徴から,虫体を大平肺吸虫と同定した.メタセルカリアを検索材材料として得たリボソームDNA・ITS2領域の塩基配列からも,この結論が支持された.カニからの大平肺吸虫メタセルカリアの検出は,東京都ではこれが初めての報告となる.
著者
吾妻 健 ウォン Z. ブレーラー D. ロー C.T. イトイ I. ウパタム S. 杉山 広 田口 尚弘 平井 啓久 川中 正憲 波部 重久 平田 瑞城 BLAIR David LO Chin-tson ITHOI Init UPATHAM Suchart WANG Zaihua
出版者
帯広畜産大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

アジアに於ける日本住血吸虫類には、日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫の3種が知られているが、具体的な相互の類縁関係については、未だ不明である。本研究では、これら3種の系統類縁関係を調べるため、1)ミトコンドリアDNAの塩基配列、2)染色体のC-バンドパターン、3)中間宿主貝の核型、4)中間宿主貝の感受性、5)終宿主の感受性、及び6)終宿主における肉芽腫形成反応、について分析実験を行なった。1)ミトコンドリアDNAの塩基配列:本研究ではチトクロームCオキシダーゼサブユニットI(COI)領域のPCR増幅を試みた。各サンプルはTEバッファーでホモジナイズし、フェノール/クロロフォルムで2回、クロロフォルムで1回、処理した後、エタノール沈殿により、DNAを回収した。回収したDNAはテンプレートとして、PCRを行なった。プライマーは、5'- TTT TTT GGG CAT CCT GAG GTT T -3'及び5'- TAA AGA AAG AAC ATA ATG AAA AT -3'である。PCRの条件は、95℃ 1分、50℃ 1分、72℃ 3分、30サイクルである。得られた増幅断片はTAベクターにクローニングして、ABIのオートシーケンサー(373A)を用いて塩基配列を調べた。ホモロジー検索及び系統樹作成はClustalV(近隣接合法)とPaup(最大節約法)を用いて行なった。その結果、2つの異なる方法とも同じ結論に達した。即ちマレー住血吸虫は日本住血吸虫よりは、メコン住血吸虫に近く、メコン住血吸虫とクラスターを形成することが分かった。比較のために用いたアフリカ産のマンソン住血吸虫とビルハルツ住血吸虫は一つのクラスターを形成し、アジア産の日本住血吸虫類から隔たっていることが分かった。2)染色体のC-バンドパターン:日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫のC-バンド分析を行ったところ、日本産の日本住血吸虫では、W染色体長腕のC-バンド内だけに真性染色体質の挿入が認められたが、メコン住血吸虫及びマレー住血吸虫では、両腕のC-バンド内に真性染色体質の挿入が認められた。さらにC-バンドの量はメコン住血吸虫及びマレー住血吸虫において日本住血吸虫より増加していることが観察された。このことから、メコン住血吸虫とマレー住血吸虫がより近縁であると推定され、ミトコンドリアDNAの結果と一致した。3)中間の宿主貝の核型と感受性:これは、宿主-寄生虫関係の進化と寄生虫自身の種分化との関係を明らかにするために行われた。まず、宿主貝の染色体について核型分析を行ったところ、a)マレー住血吸虫の第一中間宿主貝Robertsiella gismaniでは2n=34で性染色体はXY型であるが、Y染色体は、点状であること、b)メコン住血吸虫の第一中間宿主貝Neotricula apertaでは2n=34であるが、Y染色体は存在せずXO型であること、c)日本住血吸虫の第一中間宿主貝Oncomelania nosophora(ミヤイリガイ)では、2n=34で、性染色体はまだ未分化であること、等が明らかになった。4)中間宿主貝への感受性:日本産の日本住血吸虫とマレー住血吸虫をOncomelania nosophora(ミヤイリガイ)、O.minima(ナタネミズツボ)、Bythinella nipponica(ミジンニナ)の3種の貝に感染させたところ、両住血吸虫ともOncomelania nosophora(ミヤイリガイ)に感染し、セルカリアまで発育することが明らかとなった。4)終宿主の感受性:メコン住血吸虫及びマレー住血吸虫のセルカリアをマウス(ddY)、ハムスター(シリアン)、スナネズミ(MGS)の3種の終宿主への感染実験を行なったところ、すべてにおいて感染が成立することが分かった。15EA07:終宿主における肉芽腫形成反応:日本住血吸虫、メコン住血吸虫、マレー住血吸虫のセルカリアをマウスとラットに感染させ、肉芽腫形成反応の程度を比較した。まず、マウスでは3種住血吸虫とも著明な細胞反応を示したが、3種に差は認められなかった。しかし、ラットでは各々異なる程度の反応を認めた。即ち、肉芽腫形成反応はメコン住血吸虫で最も弱く、マレー住血吸虫で、最も強い反応を示した。一方、肝内虫体に対する細胞反応は虫卵に対する反応と逆にメコン住血吸虫で最も強く、マレー住血吸虫で、最も弱い反応を示した。このことから、宿主細胞の認識は虫体と虫卵で大きく異なることが分かった。
著者
古屋 宏二 川中 正憲 山野 公明 佐藤 直樹 本間 寛
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.320-326, 2004
被引用文献数
4

北海道の多包性エキノコックス症患者血清材料を用いて, 市販エキノコックス症血清診断キット"<I>Echinococcus</I> Western Blot IgG" (以下FIA (French immunoblot assay) と略; Ldbio Diagnostics, Lyon, France) の臨床検査的評価を行った. 使用した80血清のうち64検体は術前多包性エキノコックス症患者血清, 9検体は術後患者血清, 7検体は北海道の一次検診でELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) 陽性となり感染が疑われた住民の血清であった.<BR>1987年から1993年の間に北海道立衛生研究所で実施したウエスタンブロット血清検査法 (Hokkaido Western blot method, 以下HWBと略) による試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち53例が陽性, 6例が疑陽性であっ た (陽性例+疑陽性例の割合: 92.2%). 53陽性例のうち43例が多バンド形成の完全型, 10例が寡バンド形成の不完全型と判定された.<BR>一方, FIAによる試験では, 64例の術前多包性エキノコックス症患者血清のうち60例 (93.8%) が陽性, 4例が陰性であった. 60例の陽性例のうち, 47例 (78.3%) がP3, 5例 (8.3%) がP4, 8例 (13.3%) がP5パターンを示した. HWBで完全型と判定された血清のすべてはFIAでP3パターンとなり, 高力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>反対に, HWBで不完全型あるいは疑陽性と判定された血清のほとんどはP4あるいはP5のような他のパターンとなり, 低力価抗体血清を示唆する結果となった.<BR>極端に低力価の抗体を示す症例の病理学的解釈はさておき, FIAの使用はHWBで判定が苦慮される疑陽性例について血清学的に判定を容易にするなど, FIAは高感度で有用な試験法であると考えられた.