著者
Kudo Shinichi Nomura Yoshiko Segawa Masaya Fujita Naoyuki Nakao Mitsuyoshi Sara Hammer Carolyn Schanen Terai Itaru Tamura Masahide
出版者
北海道立衛生研究所
雑誌
北海道立衛生研究所報 = Report of the Hokkaido Institute of Public Health (ISSN:04410793)
巻号頁・発行日
no.52, pp.103, 2002-11-29

MeCP2の遺伝子変異は、Rett症候群以外の疾患の患者でも見つかり、X染色体性の精神発達遅滞を伴う男性患者においても報告された。これらの患者ではMBD内の変異として137番目のGluからGlyと140番目AlaからValのアミノ酸変異が確認された。これらの変異に関して、開発した二つの機能解析系を用いて解析を行ったところ、140番目の変異では、メチル化DNAに対しての転写抑制活性は完全に維持されており、137番目の変異ではわずかに転写抑制活性の低下がみられる程度であった。また、マウス細胞のヘテロクロマチン親和性についても140番と137番目の変異は共に明らかな点状の像を示し、親和性は維持されていた。これらの遺伝性の精神発達遅滞を伴う男性患者でのMeCP2の変異は、その機能への影響がレット症候群の場合と比較して軽度であるため、Rett症候群とは異なる病態を呈する成因となっている可能性が示唆された。
著者
孝口 裕一 山野 公明 八木 欣平 奥 祐三郎 松本 淳 浦口 宏二
出版者
北海道立衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

イヌの抗多包条虫ワクチンの開発は将来的に飼いイヌからヒトへ、あるいは終宿主動物の感染率を長期的に下げる有力な手段になる可能性がある。一方、イヌに感染と駆虫を繰返すと部分的な感染抵抗性を示すという報告があり、再感染によって誘導される虫体排除機序を解明することはワクチン開発を行う上で重要であると考えられる。本研究ではイヌに多包条虫を繰返し実験感染させ、従来の糞便検査に加え、分子生物的な解析を行うことにより主要な虫体排除機序の一端を明らかにした。また、繰り返し感染により感染抵抗性を獲得したイヌの虫体排除能は短期的に消失せず、イヌの抗多包条虫ワクチン開発の可能性を裏付けた。
著者
平間 祐志
出版者
北海道立衛生研究所
雑誌
北海道立衛生研究所報 (ISSN:04410793)
巻号頁・発行日
no.52, pp.73-77, 2002

有機塩素系農薬やPCBsなどの化学物質は広く環境中に分布し、食物連鎖によってより高次の生物に蓄積することが知られている。これらの化合物の中にはエストロゲン作用や催奇形性、免疫能の低下をひきおこす原因となる物質も含まれており、野生動物やヒトへの影響が懸念されている。これらの化合物の生体中での蓄積や代謝についての特徴を把握することは、化学物質の暴露による影響を予測する上できわめて重要なことと考えられる。PCBsは理論的に209種類の異性体・同族体が存在する。PCBsは多成分からなる混合物として製造されたため、その製品中には約140種類の異性体・同族体を見いだすことができる。日本では鐘淵化学のカネクロールKC-300、KC-400、KC-500、KC-600が主なPCBs製品であり、これらの製品の組成はドイツやアメリカで製造されたクロフェンやアロクロールなどのPCBs製品とほぼ同等であることが知られている。環境を汚染しているPCBsはこれらのPCBs製品であるが、高次の生物に残留しているPCBs組成はその起源となるPCBs製品とは異なったものとなっている。これは食物連鎖の末端から順次高等な生物に取り込まれていく過程で、体内で誘導される薬物代謝酵素チトクロームP-450群によって代謝されていくためである。北極圏に生息するタラ、アザラシ、シロクマは垂直的な食物連鎖の典型であり、それぞれの体内に残留するPCBsは複雑な組成から単純な組成に変化している。暴露源のPCBs組成と生物に残留するPCBs組成の両方を測定することによって、それぞれの生物に固有の薬物代謝能を知ることができる。また、生物体内に残留しているPCBs組成を調べることにより、汚染源のPCBs組成を推定することも可能であると考えられる。本報では組成が既知のPCBsとしてのKC-300、KC-400、KC-500、KC-600を含むコーンオイルを調製し、これをマウスに一回、経口投与し、肝臓に残留するPCBs異性体・同族体の濃度と組成を解析することによって、PCBsの化学構造と代謝の関係を明らかにすることを目的とした。
著者
神 和夫
出版者
北海道立衛生研究所
巻号頁・発行日
2002-11-29

1996年以降、北海道東部を中心に急増したオオワシ、オジロワシの鉛中毒の原因がエゾシカ猟に使用された鉛製ライフル弾であることを解説した。増えすぎたエゾシカの個体数管理が急務とされ、有害駆除や冬季の猟銃が行われているが、ハンターによって回収されず、放置される個体がある。こうしたエゾシカ体内にはライフル弾の鉛破片が残っており、越冬のために飛来したワシ類がこの死体を摂食するため鉛中毒を発症する。オオワシ・オジロワシは海ワシ類と呼ばれ、本来は主に沿岸で魚類を餌としているが、最も餌の不足する厳冬期にエゾシカの死体があることから、ワシ類の生態に変化が生じたと考えられた。鉛弾の使用禁止、純銅弾・フェイルセーフ弾の推奨など、行政の取り組みについても触れた。
著者
田村 正秀 三好 正浩 工藤 伸一 吉澄 志麿 伊木 繁雄 沢田 春美
出版者
北海道立衛生研究所
巻号頁・発行日
2002-11-29

北海道では、道内の各保健所を窓口とするHIV抗体検査について、道立衛生研究所が週一回まとめて検査を実施している。検査結果の告知は、検体の送付及び確認検査に要する日数を考慮して採決の2週間後に行っているが、検査依頼者にとっては待機日数が長く心理的負担が大きい。そこで、簡便かつ短時間で血液中におけるHIV抗体の有無が判定できるイムノクロマトグラフィー法を応用したHIV抗体迅速診断キットが、即日告知をふまえた検査手法として保健所への導入が可能であるかを検討し、その結果を報告した。
著者
中山 憲司 中島 美知子 浦口 弘子 山崎 由香 林 三起子 林 玲子 市原 侃 久保 亜希子 加藤 芳伸
出版者
北海道立衛生研究所
巻号頁・発行日
2002-11-29

道央圏の岩見沢・小樽・北広島市3市で実施された3歳児検診時の尿検査検体を用いたウィルソン病(WND)のパイロットスクリーニングに関して報告した。本スクリーニングでは、尿中セルロプラスミン(Cp)濃度を指標とした。平成13年6月27日から平成14年1月18日までに、968名がWNDスクリーニング検査を受診し、受診率は90.4%に達し、WNDスクリーニングの高いニーズが明らかとなった。再検査数は68名、再検率は7.02%となった。要再検査検体では、正常と判定された群と比較し、有意な(p<0.001)Cp濃度の低下が認められた。再検査対象者のうち、12名について再々検査を実施した。現在までに、6名に対して精密検査受診勧奨を行った。2名が精密検査を受診し、1名について病因遺伝子の解析を実施した。