著者
山野 宏章 和田 哲宏 田坂 精志朗 福本 貴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1264, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】野球肘は成長期の野球選手に多く,発見が遅れ重症化すると選手生命に関わることから,予防,早期発見が重要視されている。その発生要因としては投球数や練習量だけでなく,肩関節周囲筋の筋力や柔軟性などの身体的要因も関わっているとの報告がされている。しかし,野球肘を発症する選手の身体的特徴は,一貫した報告がされていない。また,スポーツ現場で野球肘の評価をするにはポータブルエコーを用いて医師が行うのが一般的で,理学療法士や指導者が簡易に評価できる指標はストレステストや痛みの問診等しかなく,十分ではないのが現状である。そこで本研究の目的は,エコー診断や各種身体機能検査を含めた評価をもとに,野球肘の発症あるいは重症度に関係する要因を包括的に検討することとした。【方法】奈良県の少年野球選手436名を対象とした野球肘検診において野球歴・投球時痛などのアンケート調査,医師によるエコー検査とストレステスト,理学療法士による柔軟性検査を実施した。そこで得た結果を基に野球肘の重症度を5段階に分けた。統計解析は,5段階の重症度を従属変数,アンケートの結果,エコー所見,ストレステストの結果,柔軟性検査の結果を独立変数とし,重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。なお,統計解析にはSPSS statistics ver. 22(IBM,Chicago,IL)を使用した。【結果】重回帰分析の結果,外側エコー異常所見,内側エコー異常所見,肘関節伸展での違和感,肩関節水平内転テスト(以下:HFT),投球時痛,肩関節外旋での違和感,肘内外側のしびれ感の7項目が独立した因子として抽出された。標準偏回帰係数は外側エコー異常所見0.684,内側エコー異常所見0.331,肘関節伸展での違和感0.268,HFT0.056,投球時痛0.045,肩関節外旋での違和感0.052,肘内外側のしびれ感-0.037であった。自由度調整済み決定係数は0.882であり,Durbin-Watsonの検定は2.134であった。【結論】柔軟性検査のうち唯一抽出されたHFTの減少については,肩関節後方の軟部組織の柔軟性の低下を示している。これは投球動作時に体幹,肩甲帯から受けるエネルギーを適切に上肢に伝えることを困難にし,肘関節の適切な運動を阻害する。その結果,肘関節に異常なストレスを与え,野球肘の発症に繋がると考えられる。本研究の結果から,エコー検査が重症度予測に有用であると考えられるが,通常医師が行うエコー検査と比較した場合,エコー検査以外の重症度に影響する因子である痛みやしびれ,違和感の聴取,HFTの測定は理学療法士や指導者が簡易的に実施できる。そのため,スポーツ現場でこれらの評価を定期的に実施することにより,野球肘の予防や早期発見に繋がる可能性があると考えられる。
著者
岸田 和也 石垣 智也 平田 康介 山野 宏章 松本 大輔
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.53-59, 2019 (Released:2019-02-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

〔目的〕回復期リハ病棟退院直後に訪問リハを利用した日常生活活動に介助を要する者の家族介護負担軽減とその関係要因を検討すること.〔対象と方法〕17名を対象に介護負担尺度(J-ZBI_8)の開始時と30日後,終了時(180日後または調査終了時)との変化量と各評価項目の相関分析を行った.〔結果〕介護負担軽減は,30日後では頻回な訪問リハの実施,良好な利用者家族関係,頻回な家族教育,密なケアマネジャーとの連携,終了時では頻回かつ密な家族教育と有意な関係を認めた.〔結語〕退院後の介護負担軽減には,短期的には集中的な介入による頻回な家族教育,良好な利用者家族関係の支援や他職種連携,中長期的には指導内容を実践できるよう,密な家族教育が重要であることが示された.
著者
熊澤 浩一 幸田 仁志 坂東 峰鳴 山野 宏章 梅山 和也 粕渕 賢志 福本 貴彦 今北 英高
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0536, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】フォワードランジ(以下,FL)とは,片脚を前方へ踏み出し,踏み出した脚の膝と股関節を曲げることで,姿勢を変えて体重を前脚にかける運動である。FLによって下肢の筋力,柔軟性,バランスの総合的な評価とトレーニングを行うことができ,スポーツ選手から高齢者まで幅広く用いられる。臨床現場において,膝前十字靭帯損傷など下肢運動器疾患を有する人を対象にFLを行う際では,踏み出し時に加わる膝関節への負荷を考慮して,前後に脚を広げた状態を開始肢位として行う場合もある。しかしながら,FLに関する先行研究では踏み出しの有無による膝関節への負荷軽減効果については分析されていない。そこで,本研究の目的は,膝関節への機械的ストレスの指標とされる外部膝関節モーメントを用いて,FL時の踏み出しの有無が膝関節へ及ぼす影響を検討することとした。【方法】対象は,下肢に整形外科疾患の既往のない男性12名(年齢20.8±2.0歳,身長171.6±7.6cm,体重63.9±7.6kg)とした。測定には,三次元動作解析装置(Vicon社)と床反力計(AMTI社)を用いた。対象者は利き足(ボールを蹴る足)を前脚とした踏み出し有りと無しのFLを各3回ずつ実施した。その際,踏み出し及び前後開脚幅は棘果長の80%,足幅は上前腸骨間距離,前脚足尖方向は前方と規定した。踏み込みの速度を統一するためにメトロノームを用い,2秒で踏み込み,2秒で開始肢位に戻るよう指示した。また,FL時は可能な限り前脚に体重をかけ,前脚踵が床から離れない範囲で足尖方向に膝を屈曲させた。動作中の外部膝関節屈曲モーメントと外部膝関節内外反モーメントを体重で除して正規化し,3回計測した平均値のピーク値を解析対象とした。統計学的解析には,踏み出しの有無の違いによる各モーメントの差異について対応のあるt検定を用いた。なお,有意水準は5%とした。【結果】外部膝関節内外反モーメントは,全例内反モーメントを示した。踏み出し有りのFLでは,外部膝関節屈曲モーメント0.89±0.19Nm/kg,外部膝関節内反モーメント0.65±0.23Nm/kgであった。踏み出し無しのFLでは,外部膝関節屈曲モーメント0.75±0.19Nm/kg,外部膝関節内反モーメント0.65±0.13Nm/kgであった。踏み出し無しでのFLは踏み出し有りと比較して,外部膝関節屈曲モーメントが有意に減少しており(p<0.05),外部膝関節内反モーメントには有意な差がなかった(p=0.89)。【結論】踏み出し無しのFLは,踏み出し有りと比較して膝関節へ加わる外部膝関節屈曲モーメントを軽減できるが,外部膝関節内反モーメントは軽減されないことが示された。踏み出し有りのFLは,外部膝関節内反モーメントを増加させることなく,外部膝関節屈曲モーメントを加えることができる。臨床では,踏み出し無しのFLが一様に膝関節への機械的ストレスを軽減するものでは無いことを念頭におき,運動方法を選択する必要があろう。