著者
岡崎 桂一 村上 欣治
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.405-411, 1992 (Released:2008-05-15)
参考文献数
15
被引用文献数
3 7

チューリップの自家不和合性を打破する目的で, 促成時期のちがいと自家不和合性の強弱の関係を調査したほか, 柱頭を花柱から切り放し, その切断面に自家花粉を受粉する柱頭切除受粉法および柱頭を40°~50°Cの温湯に浸漬する高温処理を検討した.1.チューリップ5品種を2月から4月にかけて促成栽培と露地栽培を行い自殖したところ, 露地栽培の自然開花時では全品種とも完全な自家不和合性であったが, 促成栽培では5品種中4品種は自殖によって多数の種子が得られた. 促成栽培を行うことによって,自家不和合性が弱まることが示された.2.柱頭切除後の受粉によって, 供試した5品種すべての自家不和合性が部分的に解消され, 1子房当たり8~81個の自殖種子が得られた. 柱頭切除法によって, 極めて効率よくチューリップの自家不和合性が打破されることが明らかになった.3.柱頭を温湯に浸潰する高温処理法により自殖したところ, 供試した3品種のうち1品種で, 50°C, 1分間処理により24花交配中2花, 3分間処理により24花交配中4花結実し, 低率ではあるが自殖種子が得られた.これらの方法は, チューリップの自殖系統育成法として実用的な技術であると推察された.
著者
岡崎 桂一 浅野 義人 大澤 勝次
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:13447610)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.59-64, 1994-03-01
被引用文献数
1

オニユリ,エゾスカシユリ等の交雑から育成されたアジアティックハイブリッド(以下AH)は豊富な花色や栽培が容易な特性を持つ.一方,ヤマユリ,カノコユリ等の交雑から育成されたオリエンタルハイブリッド(以下OH)は大輪で香りのある花を持つ.これら2つの品種群はユリ類の中ではともに重要な品種群であり,相互に優良形質を導入することが望まれているが,この品種群間の交雑は極めて困難とされてきた.また,ユリの遠縁交雑では,胚が形成されてもその大きさは極めて小さく,胚培養での培養成功率は低い場合が多い.そこで,摘出胚(0.1〜2.0mm)に対する糖・植物ホルモン,アミノ酸の効果を検討し胚培養成功率の向上を図るとともに,その改良した培地を用いて上記品種群間の雑種育成を図った.OHの品種間交雑胚は,3%薦糖を含む培地では全く生長しなかったが,6,12%の薦糖を含む培地および4%照糖,4%マンニトール,4%ソルビトールを同時に含む培地で高率に生長した.AHの交雑胚は,3%薦糖を含む培地でも交雑胚の生長がある程度見られたが,高濃度の糖を含む培地で生長が著しく促進された.高精濃度区の胚の生存率は,培養7週間後の48.1〜94.1%から培養5ヵ月後には9.1〜70.0%に低下した.特にAHの12%薦糖区の生存率は,84.8%から9.1%に著しく低下した.OHの種間交雑胚1`カサブランカ'×(ヤマユリ×タモトユリ)1を3,6,9%蔗糖を含む培地で培養したところ,9%蔗糖区では胚の異常生長や生育停止が見られ,生存率は比較的低く,5ヵ月後の生存率はそれぞれ2.8,36.7,16.7%であった.品種間および種間交雑の結果を考え合わせると,本試験で扱った交雑胚に対する最適薦糖濃度は6%であると思われた.薦糖とマンニトールを加えた培地においても,高率に胚の生長がみられた.9%薦糖区と,ほぼ同モル数の糖(照糖+マンニトール)を含む区を比較すると,後者において胚の奇形発生率が低く生存率が高い傾向にあった.3%薦糖区および高精濃度区に各種植物ホルモン,プロリン,カゼイン加水分解物を添加したところ,両区とも胚の生存率は向上しなかった.ピクロラム0.01〜1mg/l,BA0.02,O.2mg/l,およびこれらを組み合わせて添加したところ,胚の肥厚や湾曲などの奇形が見られた.花柱切断受粉を用いたOH(♀)とAH(♂)の交雑では,花粉管が子房に侵入したが,逆交雑では花粉管の伸長は著しく阻害され子房への侵入は見られなかった.交配した57花中,44花が結実し,全部で0.1〜0.8mmの大きさの106個の胚が得られた.得られた胚を培養したところ,3%薦糖区では胚の生長は見られなかったが,4%薦糖,4%マンニトール,4%ソルビトールを添加した区では,胚の生長が見られ植物体が得られた.この植物は,葉の形態特徴や酸性フォスファターゼアイソザイムの分析によって雑種であると判定された.OHとAHの雑種が育成できたとする報告は一例あるものの,育成個体の雑種性が確認されていない.本実験では,改良した胚培養培地を用いることによってOHとAH間の雑種を育成した.また育成個体の雑種性も明らかにした.
著者
岡崎 桂一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

倍数性および種間交雑育種法は園芸作物の育種として極めて重要である。そこで,本研究では,染色体倍加の新技術として,笑気ガス処理による花粉の染色体を倍加する方法や種間雑種の不稔性を回復する技術を開発した。また,ゲノムや染色体の同定を行うため,rDNAを用いたFISH解析やGISH解析により,雑種のゲノム構成を明らかにする技術を開発した。これらの技術は,ユリおよびチューリップの染色体同定に有効であるとともに,不稔性種間交雑種の稔性を回復させ交配母本とし利用できることを示した画期的な育種法を提示するものである。