著者
吉田 圭一郎 岩下 広和 飯島 慈裕 岡 秀一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.10, pp.516-526, 2006-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
35
被引用文献数
3 9 4

本研究では父島気象観測所で観測された78年分(戦前: 1907~1943年,占領期間: 1951~1959年,返還後: 1969~2000年)の月別気温および降水量データを用いて小笠原諸島における水文気候環境の長期的な変化を解析した.占領期間および返還後の年平均気温は戦前と比較して0.4~0.6°C 高く,年平均気温の上昇率は0.75°C/100yrであった.また,返還後の年降水量は戦前に比べて約20%減少した.修正したソーンスウェイト法により算出した月別の可能蒸発量と水収支から,年平均の水不足量(WD)が戦前に比べ返還後には増加したことがわかった.また,返還後は夏季において水不足となる月が継続する期間が長くなった.これらのことから小笠原諸島における20世紀中の水文気候環境は乾燥化の傾向にあり,特に夏季に乾燥の度合いが強まり,また長期化することにより夏季乾燥期が顕在化した.
著者
堀 信行 岩下 広和 高岡 貞夫 篠田 雅人 知念 民雄 鹿野 一厚 OUSSENI Issa OJANY Franci DONGMO Jeanー
出版者
東京都立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

今年度は、3年計画の最終年度にあたり、まとめを目指して現地調査等を実施した。ケニアに関しては、ケニア山北東麓の乾湿変化が大きい新メル-県で約50件の農家に聞き取りを行い、樹木利用の多様性とその変遷調査をした。樹木信仰は、独立後のキリスト教の浸透とともに失われている。降水量の多い地域ほど早くから人が住み、果樹を含む多様な樹木利用(利用樹種および利用方法の多様性)をしてきた。降水量の少ない地域ほど入植が新しく、耕地の水分保持と干ばつ年の家畜飼料の確保に片寄る傾向がある。ニジェールでは、ニジェール川河岸沿いの侵食の実態と土地の荒廃(侵食の激化)とそれに対する住民の認識調査を行った。近年形成された涸れ川の分布図の作成により、谷部と斜面部それぞれに発達した涸れ川が過去15-20年間に連結し網状水系となっている。近年の侵食の加速化により耕作不能面積が増大し、河岸の漁業にも影響を与えている。人口増加による休閑地の減少は著しい。農民は旧ミレット畑に井戸を掘って換金作物を中心の菜園化を進めている。住民の侵食観には負のイメージしかない。侵食の激化原因は、都市住民による樹木伐採と雨季の表面流出と乾季の風食の激化にあり、気候変化による樹木の枯死と考える住民は少ない。なお気候激変を示唆する気候データの収集と解析は、サヘル地帯の降水量と植生の変化の相互関係の解明に有効なニジェールでの定点観測(三地点)に加えて、より湿潤なギニア湾岸(ベナン)まで土壌水分量の移動観測と雨量データの収集を行った。土壌水分量の変化は、月平均値で見れば雨季の進行につれ徐々に水が蓄積されるように見えるのは、雨季盛期の降雨間隔が短いため、土壌水分量が減衰している途中で再び水が供給されるためである。従って雨季でも降雨が疎らな時期には乾季に近い値まで低下する。一方年降水量の異なる地点でも、乾季の土壌水分量は1〜5%と大差無い。