著者
橋本 佳延 服部 保 岩切 康二 田村 和也 黒田 有寿茂 澤田 佳宏
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.151-160, 2008
参考文献数
40
被引用文献数
4

タケ類天狗巣病は、麦角菌科の一種Aciculosporium take Miyakeの感染によって生じるタケ類を枯死に至らしめる病気で、日本国内では野外においてマダケおよびモウソウチクを含む6属19種8変種8品種2園芸品種のタケ類、ササ類で感染することが確認されており、近年では国内各地で本病による竹林の枯損被害が報告されている。本研究は、兵庫県以西の西日本一帯を中心とした地域において、マダケ群落およびモウソウチク群落のタケ類天狗巣病による枯損の現状を明らかにし、天狗巣病の影響による今後の竹林の動態を考察することを目的とした。西日本の17県および新潟県、宮城県、静岡県の3県において、本病によるマダケ群落およびモウソウチク群落の枯損状況を調査した結果、西日本におけるマダケ群落における本病発症率は全体では93.2%、各県では75%以上と高い水準であったほか、本病による重度枯損林分は10県で確認された。一方、モウソウチク群落における本病発症率は、西日本全体では3.9%、発症率10%未満の県が15県(うち6県が0%)と極めて低い水準で、重度枯損林分も島根県で1ヵ所確認されたのみと被害の程度は低かったが、参考調査地の静岡県においては発症率が50%と高かった。これらのことから、本病は、(1)西日本各地でマダケ群落を枯損に至らしめる可能性のある病気であり、ほとんどのマダケ群落で発症していること、(2)西日本ではモウソウチク群落を枯死させることはまれな病気であり発症率も低いが、局所的に発症率の高い地域もみられることが明らかとなった。また、今後はマダケ群落の発症林分における病徴が進行し国内の広い範囲でマダケ群落の枯損林分が増加すると予想されたが、モウソウチク群落については発症林分や枯死林分の事例が少ないことから今後の動向についての予測は難しくモニタリングにより明らかにする必要があると考えられた。
著者
服部 保 岩切 康二 南山 典子 黒木 秀一 黒田 有寿茂
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.47-59, 2010-05-30
参考文献数
23
被引用文献数
2

宮崎神宮には照葉樹等の植林後約100年経過した照葉人工林等が保全されている。植林後の年数が明確な本樹林は各地で形成されている工場緑化林や緑地帯などの照葉人工林における植生遷移の予測や生物多様性保全の可能性および孤立林の維持管理方法などについての課題を明らかにする上でたいへん重要である。本社叢の種組成、種多様性、生活形組成の調査を行い、照葉二次林、照葉自然林、照葉原生林との比較を行った。宮崎神宮の社叢は林齢約100年の照葉人工林と林齢約45年の針葉人工林から構成されており、社叢全体に118種の照葉樹林構成種が生育し、その中には絶滅危惧種も含まれていた。植栽された植物を除くと多くの植物は周辺の樹林や庭園から新入したと考えられた。照葉人工林の種多様化に対して隣接する住宅地庭園の果たす役割が大きい。照葉自然林の孤立林に適用される種数-面積関係の片対数モデル式および両対数モデル式を用いて宮崎神宮の社叢面積に生育すべき種数を求めると、前者が119.0種、後者が158.6種となり、前者と現状の調査結果とがよく一致していた。後者の数値が適正だとすると宮崎神宮に十分な種が定着できないのは、地形の単純さと考えられた。社叢の生活形組成では着生植物、地生シダ植物の欠落や少なさが特徴であった。種多様性(1調査区あたりの照葉樹林構成種の平均種数)をみると宮崎神宮の照葉人工林(20.4種)は照葉原生林(42.9種)、照葉自然林(32.9種)と比較して、非常に少なく、照葉二次林ほどであった。1調査区あたりの生活形組成も照葉二次林と類似していた。宮崎神宮の照葉人工林は林冠の高さやDBHなどについては照葉自然林程度に発達していたが、種多様性、生活形組成では照葉二次林段階と認められた。
著者
服部 保 南山 典子 岩切 康二 栃本 大介
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.75-90, 2012-12-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
55
被引用文献数
4

1.鹿児島県桜島の各種溶岩原の植生について,Tagawa(1964)他の文献を参考に遷移の進行,遷移系列,遷移年数に関する調査を2011年に行った.2.調査は昭和(1946),大正(1914),安永(1779) , 文明(1471)溶岩原および年代不明の溶岩原の腹御社の植生を対象とした.各溶岩原の植生は8種群によって各々クロマツ林(I),クロマツ林(II),タブノキ林(III),タブノキ林(IV),スダジイ林(V)としてまとめられた.昭和・大正溶岩原のIとIIは一次遷移途上のクロマツ林として,安永・文明溶岩原のIIIとIVは二次遷移途上のタブノキ林として,腹御社の樹林 (V)は極相に近いスダジイ林として認められた.3.上記のクロマツ林とタブノキ林・スダジイ林とは種組成,種多様性,最上層のDBH,樹林の高さ,階層構造等において大きく異なり,両クロマツ林が一次遷移の途上にあることをよく示していた.安永のタブノキ林と文明のタブノキ林は種組成等において大きな差は認められず,一次遷移系列の植生ではなく,両者ともに燃料革命以降放置された半自然林であった.4.国内の照葉樹林帯のスダジイ-ヤブコウジオーダー,スダジイ群団域における一次遷移系列として,地衣・コケ群落,草本群落,クロマツ林(マツ-ヤシャブシ林),タブノキ林,スダジイ林(スダジイ等混交林)が認められた.5.タブノキの樹齢や更新および先行研究等より推定して,裸地から極相に至る一次遷移に要する時間として,約600年程度が必要と考えられた.
著者
石田 弘明 黒田 有寿茂 岩切 康二
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-32, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
37

1. オオバヤドリギは樹上に生育する半寄生の常緑低木である.オオバヤドリギは比較的希少な種であるが,宮崎県立平和台公園の敷地内には本種の寄生を受けている樹木(以下,宿主木)が数多く分布している.また,これらの多くではシュートの枯死が認められる.このような樹木の衰退はオオバヤドリギの寄生に起因していると推察されるが,オオバヤドリギの寄生と樹木衰退の関係について詳しく検討した例はみられない.2. 本研究では,オオバヤドリギの宿主選択特性とその寄生が樹木に与える影響を明らかにするために,平和台公園においてオオバヤドリギの寄生状況と宿主木の衰退状況ならびにこれらの状況の経年変化を調査した.3. 今回の調査では27種,422本の宿主木が確認された.宿主木の樹高の範囲は1.4-27.0 mで,その96.9%は林冠木であった.種別の幹数はマテバシイが最も多く,総幹数の62.8%を占めていた.4. 本研究と既往研究の間でオオバヤドリギの宿主木を比較した結果,総種数および総科数はそれぞれ67種,29科であった.このことから,オオバヤドリギは少なくとも67種29科の樹木に寄生しうることが明らかとなった.5. マテバシイの寄生率は樹高と共に増加する傾向にあり,樹高が寄生率の高低に関係していることが示唆された.また,マテバシイとアラカシの寄生率は林冠木の方が下層木よりも有意に高く,林冠木がオオバヤドリギの寄生を受けやすいことが示唆された.6. 樹種に対するオオバヤドリギの選好性について検討した結果,マテバシイ,コナラ,スギ,ヒサカキはオオバヤドリギの寄生を受けやすく,逆にシイ類,クスノキ,ハゼノキ,コバンモチ,ナンキンハゼ,アカメガシワなどは寄生を受けにくいことが示唆された.7. 宿主木の衰退の程度を5段階で評価した(衰退度1-5;衰退度5は衰退の程度が最も大きい).その結果,全宿主木の86.7%は衰退度2以上であった.また,これらの中には衰退度5の宿主木も複数含まれており,その幹数は全宿主木の19.7%を占めていた.さらに,マテバシイの衰退度とオオバヤドリギの被覆面積との間には強い正の有意な相関が認められた.これらのことから,調査地における宿主木の衰退の主な要因はオオバヤドリギの寄生であると考えられた.8. 宿主木の中には追跡調査時に枯死が確認されたものが数多く含まれていた.このことから,オオバヤドリギの寄生は宿主木の枯死を引き起こすことが明らかとなった.9. 衰退度5の総幹数は83本で,このうちの89.2%はマテバシイであった.また,追跡調査時に枯死が認められた宿主木の85.4%はマテバシイであった.これらのことから,マテバシイはオオバヤドリギの寄生によって著しく衰退し,場合によっては枯死に至る種であると考えられた.10. 平和台公園にはマテバシイが優占する「放置状態の照葉二次林」がまとまった面積で分布しているので,このことが本公園におけるオオバヤドリギの繁茂に強く関係していると考えられた.
著者
石田 弘明 服部 保 黒田 有寿茂 橋本 佳延 岩切 康二
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.49-72, 2012
被引用文献数
1

1. シカの生息密度(以下,シカ密度)が異なる屋久島低地部の複数の場所において照葉二次林と照葉原生林の植生調査を行い,シカ密度の低い照葉二次林(以下,低シカ密度二次林),シカ密度の高い照葉二次林(以下,高シカ密度二次林),シカ密度の低い照葉原生林(以下,低シカ密度原生林)の階層構造,種組成,種多様性を比較した.<BR> 2. 第2低木層(高さの上限は2m前後)の植被率は高シカ密度二次林の方が低シカ密度二次林よりも有意に低く,シカの強い採食圧が第2低木層の植被率を大きく低下させることが明らかとなった.また,二次林の全調査林分を対象に第2低木層の植被率とシカ密度の関係を解析したところ,両者の間にはやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>3. DCAを行った結果,全層の種組成は低シカ密度二次林と高シカ密度二次林の間で大きく異なっていることがわかった.特に下層(第2低木層以下の階層)ではこの差が顕著であり,多くの種が低シカ密度二次林に偏在する傾向が認められた.これらのことから,シカの強い採食圧は屋久島低地部の照葉二次林の種組成を著しく単純化させると考えられた.ただし,ホソバカナワラビやカツモウイノデなどは高シカ密度二次林に偏在する傾向にあり,シカの不嗜好性が高いことが示唆された. <BR>4. 高シカ密度二次林の下層の種多様性(100m^2あたりの照葉樹林構成種数)は低シカ密度二次林のそれよりも有意に低く,前者は後者の50%未満であった.また,このような傾向は高木,低木,藤本のいずれの生活形についても認められた.<BR> 5. 二次林の種多様性とシカ密度の関係を解析した結果,全層,下層,第2低木層では両変数の間にやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>6. 低シカ密度二次林と低シカ密度原生林を比較したところ,前者は後者よりも種組成が単純で種多様性(特に草本,地生シダ,着生植物の種多様性)も非常に低かった.この結果と上述の結果から,屋久島低地部の照葉二次林の自然性は照葉原生林のそれと比べて格段に低いこと,また,シカの強い採食圧はその自然性をさらに大きく低下させることがわかった. <BR>7. 屋久島低地部の照葉二次林の保全とその自然性の向上を図るためには,シカの個体数抑制や防鹿柵の設置などが必要である.また,照葉二次林の自然性を大きく向上させるためには種子供給源である照葉原生林の保全が不可欠であり,その対策の実施が急務であると考えられた.