著者
田村 和也
出版者
一般財団法人 林業経済研究所
雑誌
林業経済 (ISSN:03888614)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.11-34, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
139
被引用文献数
1

わが国の林業種苗政策の歴史的展開について、戦後の優良種苗供給に関する施策の確立過程を1970年の林業種苗法全面改正および80年代まで概観するとともに、明治・大正期以来の施策展開を整理した。56年の林木育種事業指針により同事業が開始され、育種苗が普及し、同事業は制度的にも量・質的にも優良種苗供給源の位置に立った。70年の法改正では、旧法の守備範囲にとどまるも、育種事業を法的に位置づけ、優良種苗流通を保証する制度体系を確立した。苗木需給安定を図る生産対策として、生産者のリスクを軽減する災害共済や残苗補償が60年代以降取り組まれ、また生産基盤整備や施設整備の事業が60年代後半から行われた。約100年にわたり展開されてきた林業種苗政策では、優良種苗供給の制度整備、その量的確保策、および需給や生産安定のための需給対策、生産対策の4つが種苗生産需給に存在するリスク軽減のためしだいに形成され、政策が確立した。
著者
橋本 佳延 服部 保 岩切 康二 田村 和也 黒田 有寿茂 澤田 佳宏
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.151-160, 2008
参考文献数
40
被引用文献数
4

タケ類天狗巣病は、麦角菌科の一種Aciculosporium take Miyakeの感染によって生じるタケ類を枯死に至らしめる病気で、日本国内では野外においてマダケおよびモウソウチクを含む6属19種8変種8品種2園芸品種のタケ類、ササ類で感染することが確認されており、近年では国内各地で本病による竹林の枯損被害が報告されている。本研究は、兵庫県以西の西日本一帯を中心とした地域において、マダケ群落およびモウソウチク群落のタケ類天狗巣病による枯損の現状を明らかにし、天狗巣病の影響による今後の竹林の動態を考察することを目的とした。西日本の17県および新潟県、宮城県、静岡県の3県において、本病によるマダケ群落およびモウソウチク群落の枯損状況を調査した結果、西日本におけるマダケ群落における本病発症率は全体では93.2%、各県では75%以上と高い水準であったほか、本病による重度枯損林分は10県で確認された。一方、モウソウチク群落における本病発症率は、西日本全体では3.9%、発症率10%未満の県が15県(うち6県が0%)と極めて低い水準で、重度枯損林分も島根県で1ヵ所確認されたのみと被害の程度は低かったが、参考調査地の静岡県においては発症率が50%と高かった。これらのことから、本病は、(1)西日本各地でマダケ群落を枯損に至らしめる可能性のある病気であり、ほとんどのマダケ群落で発症していること、(2)西日本ではモウソウチク群落を枯死させることはまれな病気であり発症率も低いが、局所的に発症率の高い地域もみられることが明らかとなった。また、今後はマダケ群落の発症林分における病徴が進行し国内の広い範囲でマダケ群落の枯損林分が増加すると予想されたが、モウソウチク群落については発症林分や枯死林分の事例が少ないことから今後の動向についての予測は難しくモニタリングにより明らかにする必要があると考えられた。
著者
田村 和也 永原 美治
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.491-494, 2019-08-20 (Released:2019-09-20)
参考文献数
8

飼育犬において歯周炎の有病率は高く,治療にあたる機会の多い疾患である.歯周基本治療後に深い歯周ポケットが残存する症例では,新付着の獲得を目的に歯周組織再生療法が選択される場合がある.人歯科医療において,2016年9月に新規歯周再生療法医薬品としてトラフェルミン(リグロス®,科研製薬㈱,東京)が製造販売承認された.本研究では,骨欠損を伴う自然発生的歯周炎に罹患した犬3頭に対するトラフェルミンの治療効果を検討した.同一患畜犬の口腔内で治療側と対照側を比較するスプリットマウスモデル法を用いた試験結果から,トラフェルミンの歯周組織再生における有効性を認めたので報告する.
著者
服部 保 田村 和也 小舘 誓治
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.477-480, 2000-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
22
被引用文献数
7 1

絶滅危惧種フジバカマ保全のための基礎資料として,全国分布を調べるとともに生育環境を把握する目的で植生調査および土壌調査を行った。フジバカマは河川水辺の国勢調査の結果などによると15河川に分布していた。植物社会学的手法に基づいて実施した植生調査で得られた資料をもとに群落区分を行った結果,フジバカマは河川内のヤナギ林,オギ草原,低水路沿いの雑草群落など増水時に撹乱を受ける群落によく出現していた。また,土壌調査の結果,フジバカマの地下茎が発達する層は砂土から微砂質壌土であった。フジバカマが減少した理由として,河川改修により主要生育地である増水による撹乱を受けやすい立地が改変されたためと考えられた。
著者
浅見 佳世 中尾 昌弘 赤松 弘治 田村 和也
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.571-576, 2001-03-30 (Released:2011-07-19)
参考文献数
30
被引用文献数
28 23

本研究では, 放棄水田の水生生物を保全するための植生管理手法として, 植生配置のローテーションにより谷全体で種多様性を維持するシステム (シフティング・モザイク・システム) を提案し, その有効性について京都の府立公園予定地を事例に検討した。まず, このシステムを用いるのに適した遷移系列と, 初期化に適した遷移段階を把握し, 次に抽出した植生を対象に初期化を行いその効果を調べた。調査の結果, コナギ群落からカンガレイ群落へとむかう遷移系列において, 植生, 水生昆虫相共に遷移当初の状態が復元でき, システムの有効性が明らかになった。このように本研究は.遷移を前提とした植生管理の一つの方向性を示し得たと考える。
著者
田村 和也 川合 康央
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.28-30, 2021-08-23

現在コロナ禍において,実空間に観客が集まる形態でのライブイベントが,実現困難なものとなっている.そこで,生ライブ配信に対して,視聴者が音声という形でコメントを返し,共有することによって,新しい形のデジタルライブ空間を構築可能ではないかと考えた.本研究では,オンラインライブに音声コメントを追加することによって,ネット上であってもリアルな盛り上がりを共有可能かについて検証する.
著者
岡 裕泰 田村 和也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

原木需給のミスマッチは丸太価格の暴騰や暴落をもたらす要因となる。1~3ヶ月程度の短期の原木需要見通しが立てられれば、原木供給調整のための基礎データとして有用と考えられる。林野庁においても四半期毎に見通しを作成・公表しているが、その精度改善は可能だろうか。2002年以降を中心に、月次データおよび四半期毎の国産材製材用素材入荷量、製材用素材在庫、製材品在庫等のデータを利用して、国産材製材用素材の需給量を見通すためのモデルについて検討した。国産材素材入荷量には季節変動が顕著なことが確認された。また入荷量には慣性があり、前期の量が大きいほど、次期の量も大きい傾向が認められた。さらに前期の素材在庫率(直近1年間の入荷量に対する在庫量の割合)が低いほど、次期の入荷量が大きい傾向が認められた。翌月以降の見通しを立てるのが当月の下旬とすると、実績値として利用できるのは前月までの入荷量と在庫量である。分析の結果、季節ダミーと製材工場への前月の入荷量、前月の素材在庫量の3つの変数で、政府の見通しと同じ程度の誤差率で国産材製材用素材の需給量を予測できることがわかった。改善のためにはさらに研究が必要である。
著者
田村 和也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第129回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.17, 2018-05-28 (Released:2018-05-28)

農林業センサスの農業集落調査における地域資源5種の保全の設問のうち森林について、都道府県別結果及び「地域の農業を見て・知って・活かすDB」の集落単位結果を用い、全国状況および農業集落の特徴との関係を概観した。2015年の全国13万8千の集落のうち森林があるのは76%、そのうち森林を保全しているのは23%で2010年から4ポイント増加し、割合は東北・北陸・東山・近畿で高く、北海道・関東・四国・南九州で低い。2010年に保全していた集落の8割が2015年も保全し、保全してなかった集落の1割が保全していた。森林を保全している集落の特徴を、立地・森林状況・人口世帯・集落活動等の面から検討したところ、農地の保全との関連が観察された。
著者
田村 和也 永原 未悠 永原 美治
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.356-359, 2019-06-20 (Released:2019-07-20)
参考文献数
15

1歳8カ月齢の雑種犬が食欲不振,下痢を主訴に受診した.画像診断により腹部に腫瘤を認め,細胞診及びリンパ球遺伝子再構成解析の結果より,T細胞由来の大顆粒リンパ球性(LGL)リンパ腫と診断した.多剤併用化学療法を試みるも治療に反応せず,第14病日に斃死した.剖検後の病理組織及び免疫組織化学検査では,腸間膜腫瘤に加え,肝,脾,肺,左右腎臓,胃腸,副腎,縦隔及び腰下リンパ節を含む全身臓器にT細胞リンパ腫の病巣が認められた.
著者
橋本 佳延 栃本 大介 黒田 有寿茂 田村 和也 福井 聡
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.395-399, 2013 (Released:2014-12-11)
参考文献数
25
被引用文献数
1

良好に管理されているススキ草原の種多様性がシカの採食によって受ける影響を明らかにするために,シカ高密度化が進む兵庫県神河町の砥峰高原ススキ草原にて防鹿柵を設置し,柵内外の出現種の出現頻度・平均被度を調査した。結果,ススキ以外の草本種種数は防鹿柵区の方が約4 種多かった(p<0.05)。ススキ以外の草本植物被度は防鹿柵区で4.0 ポイント高く(p<0.05),広葉草本被度は防鹿柵区の方が4.9 ポイント高かった(p<0.001)。防鹿柵区での平均被度が有意に高い種(種群A)は2 種,防鹿柵のみに出現した種(種群B)は8 種確認された。防鹿柵と無柵区との間に生じる広葉草本の被度の差違への寄与率は種群A が27%,種群B が11 %だった。このことから,シカの採食はススキ草原の種多様性に対して負の影響をもたらし,その影響は特定の種に対して顕著に及ぶ可能性があると考えられた。シカの高密度生息地域では,管理により良好に維持されているススキ草原であっても,シカの採食により植物の種多様性が低下する恐れがある事が示唆された。