著者
本江 昭夫 鈴木 啓助 岩間 和人 高橋 英紀 稲村 哲也 山本 紀夫
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

平成12年8月30日〜10月22日に、本江、稲村、山本は、チベット自治区東部へ行き、ヤクとヒツジの遊牧を主体とする牧畜業と、コムギとオオムギを主体とする農業の現状について調査した。さらに、平成12年5月25日6月6日に、高橋、鈴木は、チベット自治区のラサの東40kmにある中国科学院農業生態実験站、および、西部の当雄において、コムギ畑の熱・水収支、葉面積と気孔の挙動、降水および地下水の電導度・pHを測定し、低炭酸ガス濃度、低水蒸気圧というチベット高原特有の低圧環境の特性と作物の反応を調査した。一般の畑では、標高3800m以下でオオムギとコムギが栽培されていた。これより標高の高い所では自然草原を利用した、ヤクとヒツジの遊牧が行われていた。今回調査したチベット東部は、湿潤、温暖な気象条件下で針葉樹林があり、前年に調査した中部とは全く異なった景観であった。林芝では、水田、リンゴなどの果樹栽培も行われており、従来のチベットに対する認識を根底から覆す必要があると思われた。ムギ畑に多数侵入している雑草エンバクを秋に抜き取り、水洗後に根を切り取り、乾燥して越冬用の飼料として利用していた。畑に多数見られた雑草エンバクは、雑草としてではなくて、むしろ、青刈り用飼料として栽培していると、見なすべきである。以前はオオムギ栽培が主体であり、チベット族の人はザンパ(ムギこがし)を主食としていた。しかし、漢族の人が増加するにつれ、コムギを主体とする食生活へと変化していることを、前年に続いて観察した。ラサ近郊ではコムギ畑の栽培面積が拡大しているが、地方では、オオムギ栽培が今までどうり行われていた。コムギ栽培が拡大している理由として、化学肥料の利用にともなうコムギの単収の増加が大きいことが判明した。ラサ近郊では、ジャガイモやトウモロコシなどの栽培、あるいは、トマト、ナスなどをビニールハウスで栽培するケースが増大していた。都市住民の所得増加が消費生活の水準を高くしていることが確認された。同時に、地方の農民との所得格差が拡大していることも確認できた。
著者
岩間 和人
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.83, no.7, pp.743-753, 2008-07

バレイショの乾燥抵抗性品種「根優」誕生秘話。1975年春、大学卒業後、ヒッピーとしてネパールを訪れた。首都カトマンズでの偶然の出会いから、西部カリガンダキ地域に駐在している農業改良普及員を訪ねて1カ月間を過ごした。地域の入り口であるダナでは折しも田植えの真っ最中であった。縦も横もバラバラで、日本の整然とした植え方とは異なったが、その理由は自分で田んぼに入って田植えをしたらすぐに納得がいった。土の中にはこぶし大の石がゴロゴロしていて、その隙間に苗を差し込んでいくのであった。バレイショは収穫期で、こぶしよりも大きなイモが収穫されていた。一泊2食付きで1ルピー(約23円)の宿の夕食にはイモの入ったカレー汁がご飯とともに供された。ご飯はパサパサのインディカ米で、筆者は当時若くおなかがすいていたので何でもおいしかったが、しばらくすると日本のお米がなつかしくなった。しかし、バレイショは日本のものと同じ味わいで、鶏の卵とともに、世界中で変わらぬ味であると感じた最初の体験であった。ダナ近くのタトパニに1週間ほど滞在する間に日本の氷河調査隊の人と一緒になり、その人たちについて谷の上部を旅した。タトパニは標高800mほどの亜熱帯であったが、3日歩いて到着したツクチェ村は標高3,000m近くの亜寒帯であった。大麦が収穫された直後で、村のあちこちで棒の先に板をつけた農具を用いた脱穀作業が行われていた。バレイショは培土直後で草丈20cmほどであった。タトパニからツクチェまでの道々にバレイショが栽培されていたが、その草丈の変化に興味をそそられた。谷にそって標高が増すに従いバレイショの草丈が小さくなっていった。植え付け時期の差異もあったが、どうもそれだけではないように思えた。地上部は目で見てわかるが、地下部がどうなっているのかと興味を引かれた。今から思うと、バレイショの根系を一生の研究テーマとして選んだきっかけがこのカリガンダキでのバレイショとの出会いにあった。
著者
岩間 和人 柏木 純一 VISSER Richard
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

バレイショは他の畑作物に比べて根量が少なく、また根の伸長深さも浅いため、土壌乾燥害に弱い。本研究では根量に関係する量的形質遺伝子座(QTL)をオランダから導入した遺伝子マップ集団(2倍体)で調査し、根量に密接に影響するQTLを染色体5番上部に検出した。根量は早晩性や塊茎の早期肥大性と高い負の表現型相関を示し、両形質のQTLもほぼ同位置に検出された。
著者
福岡 峰彦 岩間 和人 実山 豊
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.57-67, 2006-01-31
被引用文献数
1

陸稲品種間のかんばつ回避性の差異を, 大気飽差(VPD)が比較的小さい日本の圃場条件下において, 群落表面温度(T_c)から気温(T_a)を引いた値である葉気温較差(ΔT)を用いて推定できるかを検討した.主に根系の到達深度の違いから, かんばつ回避性が大きく異なることが想定される陸稲品種群を, 降雨を遮断し, 2001年には潅水および無潅水の, 2002年には無潅水のみの土壌水分処理をそれぞれ行った畑圃場において供試した.両年とも出穂までの約1ヵ月間に各6日, サーモグラフィー装置で測定したT_cと, 気温計で測定したT_aからΔT(T_c-T_a)を得, ほぼ同時にポロメーターで測定した気孔コンダクタンス(gs)との関係を調査した.また, 2002年には収穫期に測定した根系の到達深度との関係も調査した.2001年には, 測定期間中の平均値でみた品種の順位関係は, それぞれの土壌水分処理区において, ΔT(低い順)とgs(高い順)とで完全に一致していた.しかし, 潅水区におけるそれらの順位は無潅水区とは異なっており, かんばつ回避性を説明するものではなかった.2002年には, 全ての測定日および測定期間中の平均値で, ΔTに有意な品種間差異が認められ, 深根性の品種ほどΔTは低く, gsは高かった.以上のことから, 無潅水条件下におけるΔTは, 日本の圃場条件下において, 陸稲のかんばつ回避性を推定評価する指標として有効であると結論した.