- 著者
-
岸本 一男
- 出版者
- 筑波大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2005
本研究は,政党得票数データから単純に方程式を解くことで政党と選挙区の政策座標が同時に定まることを指摘する.実データで検証したところ,日本の国政選挙では選挙区の都市農村度を示す指標と座標値の間に,英国国政選挙では自営と失業を結ぶ軸と座標値の間にほぼ0.7程度の高い相関が検出され,その有効性が立証された.これにより,空間的投票理論での未解決問題であった政党座標の座標位置決定問題の一解決法が完成した.当初からの技術的な懸案である3つの問題も成功裏に解決できた.1.本手法の適用に当たっては,数理的に困難な高次元多峰性関数の最大値探索問題を解く必要がある.計算時間と計算精度のトレードオフが発生するが,本研究では,現実的な選挙の問題について実用的な時間内に正しい解を安定して得られる実用的プログラムの作成に成功した.2.本研究のモデルでは,選挙区での有権者の意見分布をア・プリオリに仮定する,この分布として正規分布を用いているが,正規分布から多様な自由度のt分布に変えても,政党の並び順序は僅かな影響しか受けなかった.3.日本と英国(イングランド)の最近の国政選挙について,政党の並び順序も得られた選挙区特性と政策位置との間の相関も安定している.計算に当たっては,我が国選挙関連数値データの整備の遅れが問題となった.モデルの計算と製行して,市区町村別得票数データ,国勢調査データのデジタル化を進めた.この一応用としての簡単な計算から,歴史学上の既存の事例研究を補完す.る新たな事実が見つかった.本研究でのデータの整備は,本手法を離れて政治史としても有用である.デジタルデータは整備の上広くネット上で公開の準備中である.