著者
石川 耕 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.10, pp.2691-2698, 2013-10-10 (Released:2014-10-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2

肥満は持続した過栄養摂取により脂肪組織が肥大した状態である.肥大した脂肪組織機能の異常はインスリン抵抗性を惹起し,代償機構が破綻した時にメタボリックシンドロームのような代謝異常が顕在化する.脂肪細胞機能異常とインスリン抵抗性を引き起こす機序としては1.末梢での脂肪酸の影響,2.脂肪組織における小胞体ストレス,3.酸化ストレス,4.アディポカインとマクロファージ,5.脂肪組織における低酸素,6.脂肪組織の線維化であると考えられている.過栄養により血中脂肪酸が上昇し脂肪細胞以外にも脂肪蓄積を促進し,小胞体ストレス,酸化ストレスが出現し,インスリンシグナルが低下する.肥大化し,線維化した脂肪組織には低酸素状態を引き起こしマクロファージが浸潤し炎症性サイトカインが発現する.これらの要素が相互に影響することによって,インスリン抵抗性が促進される.
著者
大西 俊一郎 小林 一貴 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.417-426, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
41

高齢者においても,総コレステロール(TC),Non HDLコレステロール(Non-HDL-C),LDLコレステロール(LDL-C)値が高くなれば,冠動脈疾患の発症は増加する.一方で,高齢者における脂質異常症と脳卒中,認知症発症,ADLとの関係は明らかとは言えない.このように高齢者の脂質異常症の病態は成人(65歳未満)と類似点が多く,基本的には同様に扱う.続発性脂質異常症を鑑別したうえで,日本動脈硬化学会の定める基準を用いてリスクに応じた治療目標を設定し,食事療法と運動療法を基本として治療する.また,高齢者には身体機能や合併症など種々の多様性があり,治療においては高齢者特有の病態への配慮が必要である.食事療法では極度のカロリー制限は避け,重度の腎機能障害がなければ筋肉量維持の観点からたんぱく質の摂取を積極的に勧める.運動療法では有酸素運動と,可能であればレジスタンス運動を併用するが,高齢者は運動器・呼吸器・循環器などの障害を有していることも多く,個々人に合った運動メニューを考慮する.薬物療法としては二次予防および前期高齢者(65歳以上75歳未満)の一次予防においてスタチンの有用性が示されている.2019年にはエゼチミブ単剤投与による後期高齢者(75歳以上)の一次予防効果が本邦より報告され,今後のガイドラインへの反映が期待される.
著者
前澤 善朗 竹本 稔 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.124-130, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
10

全身において,実際の年齢よりも早く老化の徴候がみられる疾患は早老症と称され,DNA(deoxyribonucleic acid)修復関連遺伝子や核膜蛋白の異常により惹起される多様な疾患を含んでいる.日本人に多いWerner症候群(Werner syndrome:WS)は,20~30代から低身長や白髪,白内障等が出現し,40代で内臓脂肪蓄積を背景に糖尿病や脂質異常症等を生じ,悪性腫瘍や難治性皮膚潰瘍を高率に合併する疾患である.RecQ型DNAヘリカーゼであるWRN遺伝子の変異による常染色体劣性遺伝疾患であることが判明しており,近年の研究に基づき,診断基準や治療ガイドラインが策定されている.また,原因遺伝子であるWRN蛋白のDNA修復やテロメア維持における役割等,分子レベルの病態解明も進みつつある.超高齢社会を迎えた本邦において,「ヒト老化のモデル疾患」であるWSの研究は,一般老化のメカニズム解明のためにも重要な課題であると考えられる.
著者
横手 幸太郎 山之内 博 水谷 俊雄 嶋田 裕之
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-40, 1992-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4

今回我々は, 最近18年間の東京都老人医療センターにおける連続剖検例のうち, 脳の病理学的所見からウェルニッケ脳症と診断された5症例を対象に, その臨床像の特徴を検討した. すなわち, 病理所見上1) 肉眼的に両側乳頭体の点状出血または褐色を帯びた萎縮がみられる. 2) 組織学的に, 乳頭体, 第3脳室周囲, 中脳中心灰白質に出血, 毛細血管の増生, マクロファージの動員がみられるが, これに比して, 神経細胞の脱落は比較的軽度である. 等の特徴を持つものをウェルニッケ脳症とした.年齢は63歳から74歳 (平均年齢67±4歳), 5例とも女性であった. 基礎疾患は神経疾患, 代謝性疾患, 悪性腫瘍, 消化器系疾患と多岐にわたっていた. 生前にウェルニッケ脳症と診断されたものは5症例中1例のみであった. 臨床症状としては, 意識障害が5症例中4例で確認され, うち2例は,「昏睡状態」を呈していた. また, 眼球運動障害と, 不安定歩行・運動失調がそれぞれ5例中2例にみられた. いわゆる3主徴 (ataxia, confusion, ophthalmoplegia) を揃えていたのは5例中2例であった. 臨床検査所見では, 白血球増多, 貧血が5例中3例, 低蛋白血症が5例中4例にみられた. 生前に血中 thiamine 値の測定された2症例では, いずれも正常値を示していた. 生前, アルコール常用者だったものは1例のみであり, 他はいずれも低栄養に関連して発症していた. 5例中4例までは, 発症時, ビタミンの不足した補液を受けていた.比較的容易に低栄養状態に陥り易い老年者において原因不明の意識障害を見た場合, 鑑別診断の1つにウェルニッケ脳症を加えて対処すべきであり, たとえ典型的な症状がなくとも直ちに thiamine の経静脈的投与を開始すべきである.
著者
横手 幸太郎 竹本 稔 藤本 昌紀
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、リンパ管の生活習慣病への関与を明らかにするため検討を行った。肥満2型糖尿病モデルマウスの膵臓ではリンパ管が増生しており、膵島においてVEGF-Cの発現が上昇していた。In vitroでの検討では、IL-1βやTNF-αにより膵α・β細胞でのVEGF-Cの発現が誘導された。以上より、糖尿病、肥満で発現が上昇する炎症性サイトカインが膵島でのVEGF-Cの発現を誘導し、膵リンパ管の増生をもたらすことが示唆された。
著者
佐久間 一基 石川 崇広 藤本 昌紀 竹本 稔 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.617-621, 2012 (Released:2013-03-04)
参考文献数
7
被引用文献数
1

健康食品,新五浄心の長期摂取により偽性アルドステロン症をきたした高齢者の1例を経験した. 症例は67歳の男性.高血圧症,脂質異常症,高尿酸血症に対し近医にて内服加療中であった.2007年4月に低カリウム血症(3.0 mEq/l),下腿浮腫が出現したため,スピロノラクトン,L-アスパラギン酸カリウム内服を開始するも,血清カリウムは低値(2.8~3.2 mEq/l)で推移した.その後,動悸,こむら返りも頻繁に出現するようになり,2009年12月低カリウム血症の精査目的に当科紹介となった.当科受診時の血清カリウム2.4 mEq/l,血漿レニン活性0.1 ng/ml/hr以下,血中アルドステロン濃度34 pg/mlと低下を認めた.外来における病歴聴取では甘草,グリチルリチンを含有する医薬品の摂取歴はなく,偽性アルドステロン症が疑われ,精査目的に2010年2月当科に入院となった.入院時の詳細な病歴聴取により2007年2月より健康食品である新五浄心を摂取していることが判明した.入院後,新五浄心を中止し,カリウム製剤の補充を継続したところ,低カリウム血症は改善し,カリウム製剤補充も中止した.精査の結果,他に偽性アルドステロン症をきたす疾患は否定的であり,新五浄心による,偽性アルドステロン症と考えられた.これまで新五浄心による偽性アルドステロン症の報告はない.さらに高齢者の偽性アルドステロン症では,甘草,グリチルリチンを含有する医薬品だけではなく,一般市販薬,健康食品を含めた詳細な服薬歴の問診も大切であると思われ報告する.