著者
高橋 裕一 川島 茂人 相川 勝悟
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1270-1276, 1996
被引用文献数
9

将来予想される地球温暖化によりスギ花粉総飛散数がどのような影響を受けるかを予測した. 夏季の気温が2〜5℃上昇したと仮定すると平年並みの飛散年や少飛散年では気温上昇前に比べ総飛散数が2〜5倍に増加すると予想された. 大飛散年では増加は著しくなかった. 逆に夏季の気温が2〜5℃低下すると仮定すると総飛散数は激減すると予想された. 空中スギ花粉飛散シミュレーション法を用いてスギ花粉総飛散数に影響を及ぼす主な因子を調べた. 盆地やスギ森林地帯では夏季に形成された雄花量が大きく関係していること, 花粉発生源から遠く離れた平野部では飛散期の気象条件の影響を部分的に受けていることがわかった. 花粉飛散開始時期を前後しても総飛散数に大きな影響を及ぼさなかった.
著者
神田 学 張 翔雲 鵜野 伊津志 川島 茂人 高橋 裕一 平野 元久
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.267-277, 2002-04-30
参考文献数
20
被引用文献数
3

地域気象モデルに花粉の移流・拡散・発生・沈降の物理プロセスを組み込んだ花粉予測モデルを開発した.花粉発生フラックスは・スギ林上の集中観測結果と物理的考察に基づき大気飽差の関数としてモデル化された.スギ林データベースや花粉自動観測システムが整備されている山形盆地を対象として検証計算を行い,花粉個数濃度の日変動特性が概ね良好に再現された.とりわけ花粉が夜間の弱風時に盆地内で滞留し高濃度化する現象が計算で示された.また,地表面摩擦速度や花粉粒子の沈降速度が花粉発生に及ぼす影響を感度分析により検討した.
著者
川島 茂人 藤田 敏男 松尾 和人 芝池 博幸
出版者
日本花粉学会
雑誌
日本花粉学会会誌 (ISSN:03871851)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.5-14, 2004-06-30

遺伝子組み換え体作物が生態系に与える環境影響を評価する研究に関連して,遺伝子組み換え体作物の花粉が標的外の昆虫を殺傷してしまうことや,近縁種への遺伝子のフローが問題となっている.このような問題に適切に対応するためには,問題となる作物に適した空中花粉自動測定手法の開発が必要である.そこで我々は,代表的な組み換え体作物であるトウモロコシを対象として,簡易かつ連続的に自動計測が可能な花粉モニターを開発するとともに,野外において,トウモロコシ群落の開花期間を通して,気象要素とともに花粉飛数量の計測を行った.その結果,トウモロコシ花粉モニターによる花粉飛散量は,空中花粉測定法として広く用いられているダーラム法による花粉飛散数との相関が極めて高く,相関係数は0.95となった.花粉モニターで計測されたトウモロコシ花粉飛数量の経時変化と気象要素の変化から,花粉飛散量の日変動パターンは,気象要素の日変動パターンとは異なった形状を示していること,午前中にピークがあり,正午にはピーク濃度の半分以下に減少していること,日の出後の濃度増加は急であるが,ピーク後から夜にかけての濃度減少は緩やかであることなどがわかった.また,花粉飛数量は気温の時間的変化率と関係しており,気温上昇量が大きいときに,大量の花粉が放出され,群落外に拡散することが明らかになった.
著者
高橋 裕一 川島 茂人
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.1217-1221, 1999
被引用文献数
12

スギ花粉の総飛散数を予測する方法として,前年と前々年との夏期気温の差を用いた予測法を検討した.全国9地点におけるスギ花粉の実測総飛散数と予測総飛散数との相関はいずれの地点においてもr=0.84を越えた.7月の平均気温との相関が高い地点が多かったが,中には8月の最高気温,8月の平均気温あるいは7月の最高気温との相関が高い地点もあった.検討した135例のうち101例(75%)で実測総飛散数と予測総飛散数との差が1000個/cm^2以下であった.各地点で多く飛散した方から3年間について予測誤差を調べたところ,その誤差は40%以下で,その平均は17.5%であった.従来行われてきた前年の気象からの予測では過大評価になった大飛散年の翌年の予測が正確にできた.以上からこの総飛散数の予測方法は実用化できると考えられる.
著者
松尾 和人 川島 茂人 杜 明遠 斎藤 修 松井 正春 大津 和久 大黒 俊哉 松村 雄 三田村 強
出版者
農業環境技術研究所
雑誌
農業環境技術研究所報告 (ISSN:09119450)
巻号頁・発行日
no.21, pp.41-73, 2002-03 (Released:2011-12-19)

Bt遺伝子組換えトウモロコシンは,1995年に米国で初めて商業用に登録された。その後,このBt遺伝子組換えトウモロコシは標的害虫であるアワノメイガなどに対して抵抗性を有するために,防除経費の削減,収量の増加,品質の向上など生産面での有利性があるために,米国を中心に年を追って作付け面積が拡大した。一方,わが国では遺伝子組換え作物の加工用および栽培用の種子輸入に当たって,食品としての安全性は厚生労働省が,飼料としての安全性および環境への安全性は農林水産省の確認が必要である。農林水産省による環境に対する安全性の確認は,隔離圃場において組換え作物の栽培・繁殖特性,越冬可能性,雑草化の可能性,近縁種との交雑可能性等について調査した結果に基づいて行われている。ところで,1999年に米国コーネル大学のLoseyら(1999)が,Bt遺伝子組換えトウモロコシの花粉が非標的昆虫のオオカバマダラの幼虫に悪影響をもたらす可能性があるという報告を行い,新しい環境影響として世界中に衝撃を与えた。しかし,彼らの報告は,幼虫に与えた花粉量や野外における葉上の花粉堆積の実態等について触れていなかったために,環境影響の有無や程度は不明であり,今後解明すべき課題として残された。日本においても,そのような観点から遺伝子組換え作物の環境影響評価を行う必要があるため,緊急にBt遺伝子組換えトウモロコシの環境影響評価に関する調査研究に取り組むこととなった。本研究では,Bt遺伝子組換えトウモロコシの花粉の飛散によるチョウなど鱗翅目昆虫に及ぼす影響を知るために,1)トウモロコシ圃場から飛散する花粉の実態調査とトウモロコシ圃場からの距離ごとの落下花粉密度の推定,2)幼虫が摂食して影響を受けるBt花粉の密度,3)Bt花粉中のBtトキシン含有量,4)環境変化に対して脆弱であると考えられる鱗翅目昆虫の希少種について,栽培圃場周辺に生息する可能性,Bt遺伝子組換えトウモロコシの開花時期と幼虫生育期との重なり,採餌行動など,総合的な知見に基づいてリスク評価を行い,同時に,花粉飛散に伴う生態系への影響評価のための各種手法を開発した。