- 著者
-
川崎 俊郎
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.68, no.8, pp.503-526, 1995-08-01 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 39
- 被引用文献数
-
3
3
本研究は,日本近代化の地域的展開を解明する一環として,長野県佐久盆地を事例とし,明治・大正期に設立された銀行について,設立者の投資活動の変化とその要因を明らかにすることを目的とした.その結果は,以下のとおりである.佐久盆地においては,明治10年代と明治30年代の2つの時期に銀行が集中して設立された.いずれの時期も銀行設立に中心的な役割を果たしたのは地主層であった.明治10年代においては,銀行の設立者である地主は江戸時代後期から「江戸商い」に代表される遠隔地との商取引を行ない,幕末から明治前期にかけてはその延長として生糸取引にかかわった.生糸取引に伴う荷為替の決済がこの時期の銀行の主たる業務であった.明治30年代に設立された銀行は,明治20年代以降に佐久盆地に普及した養蚕業と,それに関連する倉庫業や肥料販売業への融資に重点があった.設立者である地主の中には,倉庫業や肥料販売業,さらに製糸業に進出するものも現われた.銀行設立の動機にみられるこのような変化は,佐久盆地が江戸時代後期から明治前期にかけて江戸(東京)や横浜と直接商取引を行なうほど商業活動が盛んであった地域から,明治後期には養蚕業を中心とした商業的農業地域に変化したことを表わしていると考えられる.