著者
藤原 悟 吉村 元 西矢 健太 大嶋 圭一 川本 未知 幸原 伸夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.785-787, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

症例は67歳男性.全身麻酔下での開心術後1日目の抜管直後より,嗄声,構音障害,舌の左側偏倚を認めた.頭部MRIでは原因病変を認めず,軟口蓋麻痺はなく,耳鼻科診察で左声帯不全麻痺を認めたため,Tapia症候群(反回神経麻痺と舌下神経麻痺の合併)と診断した.神経症状は緩徐に改善し,発症4ヶ月後にはほぼ完全に回復した.Tapia症候群は稀ではあるが,全身麻酔時の気管内挿管の合併症等として報告されている.本例では左口角から挿入していた経食道超音波のプローブが左咽頭後壁を圧迫したことが原因と考えられた.本例は術中の経食道心臓超音波検査によって生じたTapia症候群の初めての報告である.
著者
片上 隆史 藤原 悟 秋山 智明 清水 祐里 原 重雄 川本 未知
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001645, (Released:2021-10-16)
参考文献数
8

症例は53歳女性.来院3ヶ月前に頭痛,倦怠感を発症してから歩行障害,異常行動,幻覚等が階段状に出現した.入院時は傾眠傾向で,頭部MRIで両側脳室周囲白質に造影効果を伴う広範なFLAIR高信号病変を認めた.月単位の経過から腫瘍との鑑別を目的に定位脳生検を行うと,血管周囲性に炎症細胞浸潤がみられ,免疫治療への反応性は良好であった.その後髄液中の抗glial fibrillary acidic protein(GFAP)抗体が陽性と判明し,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと診断した.本疾患の報告はまだ少なく,緩徐な経過をとった点や脳生検による病理学的な評価を行った点は希少であるため報告する.
著者
小寺 祐二 長妻 武宏 澤田 誠吾 藤原 悟 金森 弘樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.137-144, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
12
被引用文献数
6

イノシシ(Sus scrofa)による農作物被害に対して,島根県は有害鳥獣捕獲と進入防止柵設置を推進し,2001年度以降は被害金額を減少させた.しかし,山間部ではこれらの対策を効果的に実施できず,現在も農業被害が発生している.そのため,こうした地域でも実施できる効果的な被害対策が求められている.上記以外の対策としては,「イノシシを森林内に誘引するための給餌」が欧州で実施されているが,その効果については賛否両論がある.そこで本研究では,森林内での給餌が本種の活動に及ぼす影響を明らかにし,その被害軽減の可能性について検討した. 調査は島根県羽須美村(現在は邑南町)で実施した.2005年3~5月にイノシシ8個体を捕獲し,発信機を装着後に放獣した.その内3個体について,2005年8月22~26日に無給餌条件下で,8月27日~9月2日に給餌条件下で追跡調査を実施した.餌は圧片トウモロコシを使用し,1個体は無給餌条件下の行動圏内,その他の個体は行動圏外に散布した. 無給餌条件下での行動圏面積は81.4~132.4 haを示した.給餌条件下では,行動圏内に給餌された個体Aのみで給餌地点の利用が確認された.この個体については,給餌条件下で測位地点と給餌地点までの距離が短くなり(Mann-Whitney’s U-test,P<0.001),活動中心が耕作地から離れ,行動圏に耕作地が内包されなくなった.また,行動圏面積は無給餌条件下の44.2%に縮小し,給餌地点と休息場所を往復する単純な活動様式を示した.行動圏外に給餌した個体BおよびCでは,行動圏面積の縮小(無給餌条件下の72.0%)と拡大(同142.5%)が確認されたが,活動様式は変化しなかった.本調査により,行動圏内への給餌はイノシシの活動に影響し,被害対策として有効である可能性があるものの,本研究で行った行動圏外への給餌は本種の活動に影響しないことが明らかとなった.