著者
川瀬 久美子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.6, pp.411-435, 1998-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
12 13

中部日本の矢作川下流低地において,ボーリング資料の整理,加速器分析質量計による堆積物の14C年代値の測定,珪藻分析,考古資料の整理を行い,完新世後半の三角州の離水過程と地形環境の変化を明らかにした.縄文海進高頂期以降, 3000~2500年前に三角州の離水が広範囲で進行した.これは相対的海水準の低下(弥生の小海退)の影響と推定される.また,この時期に離水した地域およびその上流では,約3000年前以降は安定した後背湿地的環境であったが,約2000年前頃から洪水氾濫の影響が強くなり(河川氾濫期I),古墳時代には顕著な自然堤防が形成されるようになった(河川氾濫期II).この一連の堆積環境の変化には,気候の湿潤化による洪水氾濫の激化と,人為的な森林破壊による土砂供給量の増大とが関与している可能性がある.
著者
川瀬 久美子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.211-230, 2003-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
3 1

三重県雲出川下流部において,海岸低地の地形発達と堆積環境の変化との関わりについて検討した結果,以下のことが明らかにされた. 1. 上部砂層の堆積年代および河成層の特徴から,完新世後半に河道変遷によって土砂の堆積する場が南から北へ移動した可能性が高い. 2. 浜堤列の地形的特徴は,約3,600~2,600ca1. BPの第1浜堤列形成時には相対的に波浪の営力が強い環境(波浪営力卓越環境)であったが,約1,500ca1. BPの第II浜堤列の完成期までには,河川による土砂の堆積作用が勝る環境(河川営力卓越環境)に変化していたことを示唆している. 3. 河成層の堆積過程は,3,000~2,200cal. BPの河成堆積の少ない相対的な安定期を挟んで,それ以前には粗粒な洪水砂層1が,それ以降には細粒な洪水砂層IIが発達したことを示している. 4. 以上のことから,約2,000年前以降,河川の供給土砂量が増大したと推定される.
著者
海津 正倫 JANJIRAWUTTIKUL Naruekamon 小野 映介 川瀬 久美子 大平 明夫 PRAMOJANEE Paiboon
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-11, 2022 (Released:2022-03-03)
参考文献数
12
被引用文献数
1

タイ国南部ナコンシタマラート海岸平野の砂州の形成と発達を,衛星画像,DEM,掘削調査,堆積物の年代測定結果などに基づいて明らかにした.砂州Iは長さ80 kmに及ぶ連続性の高い砂州で,砂州Iの背後にあたる砂州の西側には低湿地が広がり,泥炭層が形成されている.泥炭層基底付近の年代から砂州Iは7500年前頃形成されはじめたと考えられる.砂州Iの東側には砂州IIが発達し,最も新しい砂州IIIは現在の海岸線を縁取るように発達している.埋没砂州Yは海岸平野南部のフラバット山付近から南に向けて延びており,海岸平野の西縁付近には更新世に形成された砂州Xが顕著に発達している.これらのうち,砂州X,砂州I,砂州IIが北から南に向けて発達したと判断されるのに対し,砂州IIIは北のパクファナン入り江に向けて延びている.このような違いは1500年前頃以降の海況の変化を反映していると考えられる.